休暇 2
超巨人を回収して、数日の討伐任務を挟んで今日は最低限の監視を除いて東京空爆作戦全休日となった。
戦争に全休日を設けるのも変な感じだけど、そこは対モンスターだからって事で気にしたらいけない。
最近、討伐任務の他に別の予定が色々と差し込まれるようになった。
近隣への温泉旅行だったり、釣り道具が届いて港湾で釣りをしたり、まあ色々と楽しみなイベントだった、今日なんて花火大会を観に行く事になっている。
打ち上げ場所は横須賀米軍基地から東にある、猿島要塞島。
私達は空母に乗って洋上から花火鑑賞の予定だ。
「サナ、これで良いか?」
「あっ、リリィ、襟が逆だよ」
「襟ぃ?」
「死装束って言って、お葬式をする時も着物を着せるんだけど、リリィの着方だと亡くなった人の襟合わせなの」
私はリリィの帯を解いて襟を逆にして着付けてあげた。
通常だと下着は目立たない様にベージュ系にしたり、浴衣の生地は薄いから刺繍の入った凸凹のある下着は避けたりと色々約束事があるけど、まあそこは気にせず。
襟を合わせて、帯はワンタッチの物が届いているので簡単だ。
「楽だねえ、バスローブと一緒だ」
「まあ元々は寝間着の一種だったからね」
そのせいか浴衣は下着を着けない、なんて都市伝説も未だに残っている。
元々の用途通り寝間着として使うなら下着を着けなくても良いけどね。
お洒落や夏祭りに着ていくとなると、ペラペラの生地で全部透けちゃうし、裾や襟は隙間が大きいから胸や脚を見られてしまうのでオススメしない。
リリィはあまり胸を強調しないモデル・アスリート体型(まあ結構胸もあるけど)で、スラっとしているので浴衣もピッタリだ。
緩くパーマが入った黒髪をポニテにしてセクシーだし、顔つきは日本人とは程遠いけど、かなり似合っていた。
逆に私は金髪碧眼で身長は小さめの15m(?)、胸もおしりもそれなりにある体型だから浴衣が驚く程似合わなかった。
ワンタッチ帯の上にむっちりと胸が乗っているのが致命的だよねこれ・・・
凹凸が緩やかな人程浴衣が似合うって言われているから、帯の下にタオルを巻いて誤魔化すんだけど、私の体型だとちょっと無理があったのでこのままだ。
「サナちゃんスタイル良いよね、私は浴衣似合っちゃうんだよね、ふふふふふ」
小夜さんが澱んだ瞳で不気味に笑っていた。
浴衣が似合うなんて羨まし・・・、いや、これを口にしたら墓穴を掘りそうだ、やめておこう。
因みにこれも浴衣メーカーから贈られてきたものらしく、着た写真をSNSに投稿してくれると嬉しい、と言われた。
まあ、そういうことなので、ネイビーの甚平を着たライアンも一緒に3人で写真を撮って投稿した。
リリィは朝顔柄、私は金魚柄の浴衣で写真写りはまあまあだ。
「・・・」
ウソです、リリィは本当に浴衣似合ってるし、真逆に私はやっぱり帯に胸が乗ってるのが悪目立ちしている、端的に言って着こなせていない。
私が微妙な気持ちでいる間にも相互フレンドから沢山コメントが着いていく。
「Sexy」「Good」「great」「Kawaii」
「brilliant」「sexy」「Fantastic」「sexy!」
うん、細かい指摘をする人は誰も居なかった。
「リリィ、私はどう?」
「ん? 似合ってるよ」
「胸とか気にならない?」
「胸ぇ? 日本のドレスならこんなもんじゃないのかい?」
あ、リリィの感覚だとドレスになるのか!これは目からウロコだ。
日本の浴衣として見ると私の着こなしはイマイチだけど、Yukataドレスとして考えてみると確かに気にならない。
ドレスコードのあるレストランも結構あるし、ちょっと畏まったパーティーやプロムとか有るもんね。
「どうした、レディ?」
「ホワッ!?」
ライアンが恭しく私の手を取ると指先に口付けを落とした。
私は驚いて反射的に手を引き抜く
「・・・今のサナの反応で普段どう思われているか分かったぜ」
「Hahaha! 日常が大雑把だからだよライアン!」
いやいや、普段のライアンを知っているとエスコートなんて出来るの?って目になるよね。
アンドリューやランディならそつなくエスコートしそう、ドクターは多分しないんだろうけど、ライアンは意外だった。
「あのなサナ、俺だって高校大学のプロムは出ているし、プロスポーツ選手だとそれなりに作法を求められるパーティーや表彰式もある、こんくらいは常識の範囲だぜ」
そう言われると確かに。
特に卒業前にあるダンスパーティーのプロムって、ハイスクール最大のイベントだ。
たった一晩の為にドレスやタキシードを作って(レンタルもある)とびきりオシャレをする。
男性は車とレストランを手配して女性を迎えに行くし、プロム前にドレスコードのあるレストランで食事をして、その後プロムに参加する、というのがスタンダードな流れになる。
エスコート、テーブルマナーは覚えてくるのが当然なので、ライアンも身に付けていて不思議じゃない。
ただ、浴衣=ドレスはまあ分かるけど、甚平=タキシードにはならないから絵面的にアレだった。
「夏祭りに正装着て、パートナーと行く盆踊りなんだろ?」
混ざってる、混ざってるよライアン!
夏祭りをやるにはまだ早過ぎるし、正装と言うほど畏まっていない。
盆踊りをWaltzみたいに言われても反応に困る!
花火大会だよ、花火大会!
感覚的にはホームパーティとかバースデーパーティに近い、普段着でも参加するお祭りだからね。
誰だライアンに変なこと教えたのは、って絶対自衛隊だよね。
炊飯部隊の誰かしか居ない、朝と夜は結構話しながら食事を摂っているのを見ているし、適当な事を言ったのか、ライアンの中で混ざって憶えたのかのどっちかだ。




