東京戦線 10
『こちらコマンダー、守護者、指定の座標まで後退せよ』
そう命令が下った事に驚きを隠せなかった。
『カウントダウン入ります、20、』
『伏せ!』
土手に隠れる様な位置でうつ伏せになった
『目を閉じろ!』
電子ゴーグルは安全の為に外す、割れて破片が眼球や目蓋に刺さるのを避ける措置だ
『耳を塞げ!』
大規模破壊兵器の爆音と気圧変動で鼓膜が破れないようにする
『口を開けろ!』
効果範囲の最大圧力は13気圧、当然離れていても周囲に影響はある、圧の影響を最小限にする体勢に入った。
『5、4、3、2、1、』
陰に隠れて目を閉じても尚、閃光が目蓋を貫いた。
——————————-ッ!!!!!!!
音を超えた衝撃波が地面を、そして伏せた体さえも揺らした。
加圧・沸騰した燃料が2000m/sを越える速度で空間を満たし、危害直径約150mの空間は高圧高温に晒される。
爆発も大規模だけど、本領は13気圧にも及ぶ高圧空間での内臓破壊にあった。
特に肺の内部は高熱に焼かれ、急激な燃焼で酸素を奪われ、高圧に潰されるといった具合に徹底的に破壊される。
其の名はサーモバリック、燃料気化爆弾と呼ばれる兵器だ。
仮に高圧に耐えきったとしても、噴霧された液体燃料は生物にとって有害であり、酸素を燃やし尽くし、組成が著しく偏った空気と合わせて、やはり窒息に陥るという。
教本で習った通り、恐ろしい破壊力を有している
『ドローン再起動、損失4、システム問題無し、守護者の無事を確認』
『こちらコマンダー、当該区域の安全を確認後、変異体の超巨人の確保、それを以て本日の作戦は終了とする』
超巨人に対する本部の判断はサーモバリックの使用だった、私達が格闘戦を挑むにはリスクが高過ぎると判断、反対意見も無く速やかな撤退が推奨された。
「サーモバリック使わないって言ってたよね、作戦開始前」
「そりゃあお前、あん時はあん時、今は今だろ、必要なら使う」
「そ、そういうものなんだ」
「まあ、それもあるけど、サナは戦場で1番コストが高いのは何か知ってるかい?」
「コスト? ミサイルじゃないの? あ、戦車とか戦闘機?」
当該区域の安全確認は簡単に終わらない、散布された液化燃料は全てが燃焼される訳でもないので、ある程度拡散するまで待たなければならなかった。
対爆姿勢から起き上がった私達は土手に座って話をしていた。
「いいや、1番高いのは人だよ」
「人」
「ああ、物資は唯一なんてものは無い、資材があれば幾らでも量産出来るけど、人はそうはいかない」
「うん」
「ミサイル一発ぶち込みました、補充お願いします、まあ出来るわな。
人死にました、補充お願いします、出来るか?」
「出来、なくもないけど、簡単ではない?」
「そうだ、人を鍛え上げて使えるようになるまで、ざっくり最短で20年だ、20年掛けて出来上がった人材の損失は最も高くつく」
『軍は人を大事にしますよ、今回はリリィ、ライアン、サナの死傷のリスクを天秤に載せたくなかった、だから有効と思われる兵器サーモバリックを使っただけです』
「でも大規模破壊兵器って、あまり評判良くないんじゃ」
『そうね、サナの言う通りそういう一面もあるけど、くだらない口出しを気にして人が死んでしまっては本末転倒よ』
「まー、騒ぐ奴は何やっても騒ぐからな、俺からすりゃあ素人は黙ってろ!って感じだが」
「じゃあお前がやれよってライフル押し付ける訳にもいかないしねえ」
『素人が戦場に来ても邪魔なだけでメリットは皆無です、・・・プロが煩い時も有りますが』
「なら、現場に居ねえ奴は黙ってろ!だな、Hahaha」
安全圏から好き勝手言う人居るよね・・・
SNSを始めて、軍に入って、色々とフィルタリングされたりケアされたりしてるけど、情報の完全な遮断は今の時代不可能に近い。
それは私達の情報の秘匿もだし、逆に外からの話も同様だ。
巨人になって一番成長したのはって聞かれたら、間違いなく人の目や評判に対するメンタルコントロールです、って答えるよ私は。
自分で言うのもなんだけど、日本に居た頃より遥かにタフになったと思う。
『さて、安全の確認が終わりました、念の為ゴーグルとフェイスマスクは外さないようにして下さい。
気化燃料の吹き溜まりがある可能性は否定出来ませんので』
「了解」
「おう」
「はい」
私達が現場に戻るのにサーモバリックの爆発から2時間は掛かった、色々制限のある兵器だから仕方ないけど、あまり使わないで済むように努力したいね。
「これは・・・」
世田谷区北部、つい数時間前に戦闘をしていた場所の一画が綺麗さっぱり何も無くなっていた。
爆発と衝撃波で周囲は破壊され、高圧と高熱に晒された中心部約150mは殆どが更地と化し、形あるものは溶融もしくは炭化していた。
コンタクトHUDと連携しているフェイスマスクの情報では微量の気化燃料、有毒ガスが検出されている。
『居たぜ、巨人』
爆心地の中心にそれは倒れていた、全身は焼け焦げ、動きはみえない。
『流石に効いたみたいだねぇ』
『サーモバリックが効かないとMOABを持ち出さないといけません、泥の巨人の身体構造を踏襲しているのなら先ず効くでしょう』
泥の巨人はアメリカで既に解体研究が進んでいる。
内部構造は人に近く、筋繊維密度は私達の1.5倍、脳( のようなもの)は逆に小さい。
近くまで行くと超巨人は仰向けに倒れていて、口からブクブクと黒い体液の泡を噴いていた。
ガラス玉のような眼は潰れて無くなっているけど・・・
『おい、これ生きてんじゃねえか?』
『呆れた生命力ですね、そもそも五体満足なのにも驚きですが。
恐らく肺を中心に内臓は圧壊しているので動けません、生きているだけでしょう』
『ライアン、トドメを』
『all right』
リリィの指示でライアンは手斧で超巨人の首を叩き切った。
「堅い?」
『いや、普通の泥の野郎共と変わらねえな』
『アタシらでもやれたか』
『危険な対象に近付く必要は有りません、遠くから一方的に倒せるならそれが1番です』
「回収は?」
『こいつぁ骨が折れるぜ?』
『その場で解体と指示が出ています、労力や衛生面からも最低限サンプルを回収出来れば良いでしょう』
うへえ、巨人系って人の形をしているから苦手だ、いや解体自体好きになれないけど、特に、ね。
結局、サーモバリックの圧力により内臓の殆どは潰れていたので回収したのは頭部のみとなった。
一応、ドローンで撮影はしていたけど、構造に大差はなさそうであまり有益な情報は無かったみたい。
「はあ、甘いもの食べたいな、休みたいし」
『分かりました、申請しておきます』
「お、休みか?」
「ちょっ、ええっ、待ってイブ、ちょっと口から漏れただけだから!」
『いえ、そういうのは逆に看過出来ない、本心でしょ』
「・・・」
本心だけども!
こう、大規模破壊兵器とか、敵性生物のモツとか、人型の解体とか、メンタル的にゴリゴリ削られたから、つい、出ちゃったけども!
「Hahaha、有り難く休もうぜサナ」
「いやでも、作戦の進捗とかあるでしょ」
『問題があったら申請は通らないので、はい、通りました、明日は休暇です』
早っ!?
『ああ、丁度差し入れに日本製のバニラアイスが届いています』
「えっ、どこの!?」
『・・・ふふ、メイGよ』
「やった!ねえリリィお風呂入ったら一緒に食べよ」
「くっくっく、はいはい」
「おいおい、俺には?」
『ウイスキーの差し入れも有りますよ』
「Yeah!!やったぜ!hehehe...」
『ダブル1杯までですよ、暴れたら没収します』
「分かってるさ、Hahaha、ツマミは何にするかね」
「安上がりな兵だよアンタ達は」
『同感です』
「ヒュー!」「いえー!!」
私とライアンは生首を掲げて駆け出した、アイス!アイス!




