東京戦線 9
二度目の世田谷区北部、陸空からの手厚い支援で戦況は落ち着いたものだった。
「フッ!」
泥の巨人の脚を切断する、太刀は直ぐに納刀、倒れ込んだ巨人の頭を踏み潰す。
『サナ、後ろ』
背後に迫っていた変異体に小太刀を振り向きざまに抜いて急所に突き刺した。
「ライ、アンッ!宜しく!」
「おう!」
急所を貫いても未だに死なない変異体から小太刀を抜くと同時にライアンの方へ蹴っ飛ばす。
ライアンは手斧でかち割ってトドメを指した。
『リリィの援護を』
見ればリリィが泥の巨人二体に押されていた、私は小太刀を投げ・・・
「オラァ!」
る前に飛んで行ったライアンの手斧が、泥の巨人の頸に食い込んで動きを止める。
私は動きの止まった巨人に飛び付いて頭部を掴み、小太刀で更に切り裂きながら力づくで捻じり切った、その間にリリィは残りの一体の始末を終わらせた。
「助かったよ、サンクス」
「おう」「うん」
敵が途切れたので取り敢えず肩の力を抜いた
「それにしても、やべぇな」
「ヤバイねえ」
「ヤバイ」
話題は当然【変異体】の事になる。
世田谷区北部で戦闘を開始して数十分程だっただろうか、現れたのは泥の巨人の姿に近い、新型の敵性生物だった。
歪なその姿は初見から最大の警戒の対象だ、なんと言っても巨人の背中から蛇の頭が数本生えていたのだから。
その見た目に反して差程苦労も無く倒せたのだけど、それからポツリポツリと異形の敵性生物が現れ始めた。
ベースはやはり泥の巨人で、他の敵性生物の一部分を、まるで粘土でも捏ねたようなカタチで合わさった姿だった。
他にも胴は人型で脚が獣の化け物が這うように襲って来たり、頭部が人の頭と昆虫の頭のふたつ有ったり、脳ミソや心臓が剥き出しのグロテスクなものも居た。
これらの情報は速やかに共有、回収部隊が編成されて、米日合同の解析班が現在進行形で研究をしている。
暫定の情報では、泥の巨人は他種族と強引な融合が出来るのではないか、ということだ。
取ってつけたと言うよりは、体組織が癒着していて、しっかり神経や体液が循環していたそうだ。
一先ず、これらは【変異体】と呼称される事になり、時折第一級敵性生物の中に紛れて現れていた。
「これ、まさか泥の巨人同士がくっついたりしねえよな」
「止めとくれよライアン、そういうのは旗と言うんだよ」
「あーあ、ライアン言っちゃった」
いやあ、まあ、来るでしょ。
寧ろ泥の巨人と他のモンスターがくっつくんだから、同じ泥同士がくっつかない筈がない。
『解析班によると、可能性は否定出来ない、だそうです』
ズン、ズゥン・・・
「ほら、ライアンもイブも余計な事言うから来たじゃないか!」
「来たね」
「俺のせいか!?」
『私のせいなのでしょうか?』
地を響かせる足音がしたとか、ドローンや情報衛星で捉えたとか、そんなレベルの話じゃない。
私達が見上げる大きさの泥の巨人が、此方へ向かって進行しているのが嫌でも目に付いたからだ。
「俺が言うのもなんだけど、デカ過ぎねえか?」
「イブ、アレの大きさは?」
『30、は無いですね、周囲の建造物との比較で、約28m程かと』
「えぇ・・・?」
呆れる大きさだ、巨人特殊部隊守護者で1番背が高いのはライアンとランディの約20mだ、そのライアンでさえ見上げる大きさに口が塞がらない。
私の身長が15mちょっとなので、私からすると倍近い大きさになる。
『取り敢えずミサイル撃っておきましょう』
支援要請を受けた艦隊から複数ミサイルが飛んで来た、大規模爆発、の筈なのに標的が大き過ぎるせいで効いてるように見えない。
あの大きさだと何発撃ち込むと倒せるんですかね、アレ。
「遅いね」
「ありゃあ鈍いって言うんじゃないか?」
凄い遅い、ノッシノッシといった感じで動いているんだけど、ダッシュしてくる通常の泥の巨人と比べるとかなり鈍重だ。
「歩くゾンビだな、普通の泥野郎が走るゾンビ」
「あー、確かに」
歩くゾンビってあまり怖く感じないよね、逆にダッシュ系ゾンビだと息をつかせぬ感じで厄介なイメージだ。
『動きは鈍いけど、絶対に捕まったりしないで下さい、あの大きさで動けるということはそれを支える力があるということです』
まあ、私達も解っているけど、体の大きさはイコール強さに直結する。
通常の泥の巨人のサイズでさえ私達(ライアン除く)の力を遥かに超えてくる、その1.5倍程の大きさだ、力の強さは言うまでも無い。
多分やるのは私達だよね、私は納めていた太刀を抜き放った。
リリィもライアンも次に来る命令に備えて、いつでも戦える態勢だ。
足首と手首辺りを狙えば脅威度は下がるかな、あの大きさだ、いきなり首を狙うにはリスクは高い。
首自体の太さは、特別堅くなければ切断出来そうに思えるけど・・・
『!、待って下さい』
ん?
いつも冷静に指示を出してくれるイブが声を上ずらせて一度通信を切った。
リリィを見るとインカムに手を当てていた、その顔はとても険しい。
「どうしたんだろ」
「何か揉めてんのかね」
ライアンと顔を合わせて互いに首を捻った、その間艦隊や航空支援で超巨人は足止めしている。
「ライアンどうする?」
「定石通り足だろ、引き倒さねえと首は狙えねえ」
「左右から、ううん前後の方が良いかな」
「だな、俺が正面を受け持つからリリィとサナで背後からやればいけんだろ」
超巨人の他には何もいないのが幸いだ、脚の早い泥の巨人とか狼型が居たら相当危険になる。
「ああいうの出て来ると槍とか戦斧もあったらってなるね」
「あの時点じゃ、こんなの相手にするとは想定もしてなかったからな、今後の装備策定も大幅に修正されるだろうよ」
「アンドリューとランディは大丈夫かな、アメリカの方も・・・」
「あっちは問題ねえよ、だからこそ実働の半数以上、3人が日本に送られた訳だからな」
「え? 何かあるの? ランディだって全快じゃないし、アンドリューだけじゃ」
「銃だ、巨人用の銃の試作品が数丁仕上がったんだ」
「銃・・・」
「つっても火薬を使わない、電磁投射砲、通称レールガンって奴だな」
ライアンによると元々兵器としては開発していたもので、実戦配備には至らなかった代物だそうだ。
運用には大規模な施設と大電力が必要で、更に射出される弾丸は直進しかしない、それならミサイルを量産した方が遥かにコスパが良い。
それが今になって何故実用化されたのかと言うと、先ずワシントンDCのモンスター災害で空洞化した街が再利用された。
避難と人口の減少で電気は余ってる、電線や高圧線、変電設備もほぼ生きていた。
固定砲台としか使えなかった問題の砲身は巨人が持ち運び出来る。
冷却機能は砲身を複数使い回すことにして排除、弾丸を前に飛ばすのみの機能にする事で小型軽量化を成功させた。
そして十分な数の砲身が揃ったのがつい先日、テスト結果も良好として、射手ランディ、ケーブルさばきアンドリューで配備されたそうだ。
「へー、私聞いてたっけ?」
「いや、サナはハイスクール行ってた時にテストしていたからな、部隊としてもガンマンは1人だけの予定だったし、日本の作戦の話もあったから話なかったな、そういやHahaha!!」
「こっちには持って来れなかったの?」
「数が間に合わなかったんだ、俺達の装備の新調もあっただろ?」
「あー、なるほどね」
泥の巨人戦の影響でで装備はほぼ新調、私達が振るう武器は当然大きく頑丈に造られる、レールガンの量産まで手が回らなかったのか。
日本に3人派遣する以上は、実働2人になるアメリカの方に強力な銃は置きたいもんね。




