東京戦線 8
数日掛けて行われた空爆で、江戸川区、台東区、墨田区、江東区、葛飾区、荒川区、足立区、中央区、そして千代田区の奪還に成功していた。
問題として挙がっていた千代田区の陛下の住居は、まあ半壊といった具合いだった。
米軍にその責を負わす事は出来ないとして、千代田区に関しては自衛隊のみの戦力で作戦は敢行された。
結果、元々あったモンスターの被害、戦車砲数発の被弾、ミサイル等の衝撃や効果範囲の破片等の被害から全てのガラスは粉々、壁や屋根に相当の損害を与え、手入れされた庭園は見るも無惨な姿になってしまった。
幸い、建物自体の損害は大きくなく、修繕可能と担当省庁から報告が挙がった時には腹を括っていた総理さえとホッと胸をなで下ろしたとか。
「文化財はねえ、まあ難しいよねえ」
「アメリカだとどうだったの?」
その辺りの判断の時には私は居ない、米軍に入ってデビューした頃には周囲の被害なんか気にせず戦え、としか言われてないからね。
「出来るだけ壊さない」
「壊れたら仕方ねえ」
まあそうでしょうね、と思われる回答だった。
ボッカンボッカン、ミサイルやら爆弾やら撃ち込んでるもんね!
なんなら私達だって結構壊している、アスファルトとかは戦闘時の踏み込みで大体砕けるし、ビル群に囲まれている場所だと狭くて武器を振り回した痕とか、私やリリィ辺りはビル屋上を足場にする事も多いしね。
男性陣の体重だと屋上は踏み抜く事が多いので、建物の上側の損害は大体私とリリィのせいだったりする。
壊そうとしている訳じゃなくて、結果として壊れているんだよ。
さて、作戦の次のフェーズは再び世田谷区の奪還に入る。
此処を押さえると、西側の所謂北多摩エリアと呼ばれる地区への足掛かりとなるからだ。
北多摩エリアは東京都23区と比較して、土地の広さ、
人口の少なさから敵性生物の数がガクンと落ちている。
制圧、奪還しやすい地域なので、空爆に合わせて世田谷区と神奈川戦線から機甲部隊の投入、東京都西側を一気に取り戻そうという狙いだ。
すると、問題の【穴】がある練馬区を中心点として東西南北から支援を集中出来る。
まあ、敵性生物最大勢力を誇る練馬区に手を出す前に、渋谷区、杉並区、新宿区、中野区、豊島区、文京区、北区、板橋区、合計8つの区の攻略を終えて、戦線を最小まで圧縮するのが大前提ではある。
初日に後退を余儀なくされた世田谷区北部だってかなり大変だし、その北に位置する杉並区はもっと大変だ。
此処からは私達巨人特殊部隊の出番も多く、気の抜けないフェーズとなっていた。
***
「夏、前には帰りたいなぁ」
「分かる、日本の夏は湿気が多くて敵わん」
「アメリカの空気は乾いてるもんねぇ」
「同じ30℃でも不快指数の差がねえ」
気候、と言う意味でも確かに早めに決着を着けたい。
私達がどんなに頑丈で適応能力が高いと言っても、暑いものは暑い、30から35℃の高温多湿の環境下で長時間の戦闘は避けたい。
あとはハイスクールの単位もある。
日本と違ってアメリカは飛び級も留年も割りとポンポンと処理される。
なんなら勉強についていけないと下の学年戻されるのだってあるし、それは私でも同じ事だ。
担任やジョセフさんとも相談して、フルで何十日欠席するとこうなる、という話は聞いているので出来るだけ休講は減らしたい。
そしてハイスクールでは6月から3ヶ月間の休みに入る、この間はサマースクールと言われる自校・他校の講習で互換のある単位を取れたりするし、クラブの合宿もこの季節にある。
勿論、仲のいい友達と旅行したり、学校内でのイベントも盛り沢山で、これらは大学を受験する際の校外活動枠でプラスに働く。
私としてはチアリーディングクラブのみんなとの合宿は絶対参加したい!
チアの練習もあるけど、湖畔で水遊びしたり、キャンプ場でBBQしたり、去年は海水浴の途中で巨人になったので全然遊べていない。
17の夏は1回きり!
水着も3着オーダーしているので絶対に帰国して合宿は行かないといけない、リリィも巻き込んで水着買わせたからね。
他にも夏服いっぱいオーダーしてるから着たい、やりたい事が列を為して渋滞を起こしていた。
「任務、ってのは理解しているが、体動かせないのも中々だよな」
「だね、大都会東京と神奈川じゃあ、アタシらは運動出来る土地が無いからね」
「ね、海泳ぐ位しか出来ないし・・・」
日本が狭いというのもあるし、アメリカが広いという話でもある。
去年の日本での生活でも分かっていたけど、適度な運動って必要だよね。
陸軍はまだマシで、スペースの限られる海軍、特に潜水艦の乗員とかは長期の閉鎖空間で生活と任務を遂行するんだから大変だ。
「ほらほら!気合い入れて行くよ! ドジ踏んで怪我なんて勘弁だよ!」
「ああ」
「はーい」
何にせよ、目の前の事をひとつずつ片付けて行くのが1番だね。
リリィの声掛けに意識を切り替えた私達は、気を引き締めて任務へと赴いた。




