東京戦線 5
1850、在日米軍横須賀基地へ帰投。
なんか道中報道関係者が全く居なかったのすごい不気味なんだけど・・・
や、一言ください!って言われるより良いんだけどね、突然居なくなると逆に怪しいというか、絶対何か企んでる? なんて思ってしまう。
「メディア居ねえと気楽で良いな!」
「一般人は手の平クルクルだったけどねえ」
「アレは、なんなんだろうね・・・」
戦線から基地への道すがら、歩道や車の窓、ビルからはよく手を振られた。
声はノイズキャンセリングでカットされているけど、概ね好意的な様子に面を食らった。
人によっては星条旗と日本の国旗を振っている人も居たくらいだ。
「日本の国営放送で東京空爆をLIVEで流したんだろ? そりゃあアメリカで言う俺達の記録映画公開と似た反響があって然るべきだぜ」
「ああ、そんな話もあったね」
正直、後半戦の一級ラッシュで欠片も覚えていなかったよ。
「感謝しろ、なんて此方から偉そうなことを言うつもりは無いけどねえ、それなりの態度ってのは礼儀ってもんだろ」
「まあ、ね」
昨日までが酷過ぎたって話だよ。
実際、私達に対する空爆作戦前の一般人の反応ってハリウッドスターが映画のジャパンプレミアに現れた、程度のミーハーな様子が見て取れたからね。
無言スマホ、ニヤニヤしながら指差してスマホ、とかね、スマホはまあいいよ、良くないけどまあいい。
でも指差すのは止めた方がいいと思うな。
「漸く現状を理解したんだろ、東京は戦場で、俺達は観光じゃなくて戦争しに来たんだ、と」
「ハハ・・・」
乾いた笑いしか出ない、最初からそうだったんだけどね。
日本のテレビは全く見ていないけど、間接的には色々と好き勝手言われているのを知っている。
と言うか、私達巨人特殊部隊より周囲の一般米兵の方がかなり怒っていたね。
「あいつらは緊張感が無い」
「自分の国の事は自分達で守るべきだ、援軍の俺達が日本のメディアにごちゃごちゃ言われる筋合いは無い」
「俺達はリリィもライアンもサナもリスペクトしているぜ、それを日本人は解っていない」
「自衛隊も俺達も努力している、この評価は不当だ」
まあまあと、私達が逆に宥めていた位には米軍内で聞こえて来る不満は多かった。
勿論外部にそれを洩らす事は無い、あくまでも身内内での愚痴り合いの話だけどね。
『無修正ですからね』
「え?」
『無修正の映像です、特に特殊部隊付きのドローン映像、内臓ドバドバしました、ふふふふ、serves you right』
うわぁ、それはさぞかし日本のお茶の間に衝撃を与えたに違いない。
慣れている私でもウエってなるもん、私達が相手をする第一級敵性生物と領域外敵性生物の生首は当たり前だし、場合によっては頭を踏み潰したりもしている。
第二級敵性生物は遠距離の砲撃爆撃だけど、面制圧の都合上、先に排除されたモンスターは死んでいるのに爆撃に晒され続けてミンチになる、後のモンスターはそこそこカタチを保っているけど、それもそれでグロい。
爆撃で足下が荒れているし、なんなら死骸がぐっちゃぐちゃで気を付けないといけないのもあった。
って、イブ最後にザマアミロって言わなかった?
『日本の総理からお褒めの言葉を戴きました「クレーム? 知るか! どうせこれが終わったら辞めるんだからな! 最高の映像をありがとう!」と』
「oh...」
詳しくは知らないけど、小夜さんによると総理は腹を括ったので怖いものは何も無いって言ってたけど、そういうこと?
大人って大変だね・・・
***
「はははは!国民全員関係者だ!他人事のように好き勝手言って、どうだ!?戦場の映像は!楽しいか!?」
「総理落ち着いて・・・」
「いやいや、こんな痛快な思いは総理になって、いや人生で初めてだ!
自衛隊は戦ってる!結果が出ていないから意味が無いなどと二度と言わせない!」
「総理、落ち着いて」
「ふう・・・」
「そっ!? 急に落ち着かないで!!?」
「大丈夫、私は冷静だ、国営放送にクレームだと、電話線全部抜いておけ、馬鹿馬鹿しい、嫌なら見るな!」
「総理・・・」
「ふふふ、それにしても全国の街頭モニターも可能な限りジャックした甲斐があったな」
「まあ、何処へ行っても東京空爆ライブが有るので、国民の目には焼き付くでしょうね」
「そうとも、我々も自衛隊も米軍も皆戦っている、日本の、東京でだ。
なのに自国民が他人事で、ちょっとしたエンターテインメント程度の認識は平和ボケが過ぎるだろう」
「せめてアメリカのように映画館という選択肢を与えられれば良かったんですけどね」
「あちらは上手いことやったなと思うよ、文化に根差しているし、3億ドルを超えた興行収入は寄付、米軍の活動と巨人の市民権は周知された」
「あまり、こんなことを言いたくは有りませんが、日本には良い薬だ、って感じですね」
「おお、言うではないか! ははは」
「総理、この際もう少し続けては?」
「断る! こんな仕事二度とやるか!」
「ですよね、私もお腹いっぱいです」
「・・・」
聞きたくない話を聞いてしまった。
総理、腹を括り過ぎでは?
そして皮肉な事にこうなってから事態が好転しているのも何かなぁ、と私も思う。
「小夜、どうしたそんな所で突っ立って」
「いえ、なんでもないです・・・」
長い事控えていたけど、今日はお酒を呑もう。
ぶちまけて話す総理を見ていたら、変な意地張るのも、拘りを持つのも、サナちゃんを言い訳にしているみたいで逆にあの子を縛っているように思えてしまった。
「はあ、呑もう」
切り替えて行こう、私は私に出来ることで貢献するしかない。




