東京戦線 4
「ハアアッ!」
向かって右手側の狼型の脚を切り落とす、左からは泥の巨人が襲って来た。
踏み込んで懐へ入り、くるりとターンしながら脇腹から反対の肩口まで逆袈裟に両断。
次いで猪型が背後から突進して来たのを振り向きざまに蹴っ飛ばす、その隙に脚を落とした狼型にトドメを刺して・・・
かなりキツイ。
品川区、目黒区を押さえた私達は予定通り世田谷区まで進行した。
ここからが別世界でリリィもライアンも、そして私も、常に三体から五体の第一級敵性生物の相手を迫られる。
特に領域外敵性生物に区分された泥の巨人が来ると、途端に余裕が無くなる。
他の一級は防具の性能もあって怪我を負う可能性はかなり低い、でも馬鹿力の泥の巨人の一撃は防具を容易く破壊してくるので肝が冷えた。
訓練を重ね、挙動を再現したVRでも対戦してきたので、初めてワシントンDCで遭遇した時よりは対処出来てる。
「フッ!!」
「いつまでも力で負けてられるかよォォォ!」
リリィは刀で私同様に捌き、ライアンは泥の巨人を力で押し返した。
え、押し返した!?
「オラァ!」
「ええ・・・」
「ライアン、アンタ・・・」
馬鹿力の泥の巨人を力で押し返すって、ちょっと引いた、リリィも引いた。
「Hahaha!! Power!!」
それ日本のコメディアンだからね!?
私には無理だ、回避して、斬る!
「うわ!」
首を狙った一撃は食い込んだ半ばで止まってしまった、泥の巨人に刀身を掴まれたので刀から手を離す。
代わりに納刀していた小太刀を抜くと、太刀が食い込んだ反対側を斬りつける。
グッ
「ッ!」
小太刀が首を切断するまで至らなかった事で泥の巨人に掴まれてしまう。
私は掴まれた所を支店に体を持ち上げ、両足で思い切り頭部を蹴っ飛ばした。
ドンッ、ガッ、ゴッ・・・!
「うお、サナ大丈夫かよ」
「ふうっ、だ、大丈夫」
危なっ、首の殆どが切れていたから蹴りで倒せたけど、今のは本当に危なかった。
色々と気遣う余裕も無かったので、取れた首がライアンの方に飛んで行ってしまった。
ちょっと数が多すぎて太刀を納刀する余裕が無い。
代わりに小太刀は納めたままでサブにしていたけど、決定打を与えにくい、これはちょっと・・・
「サナ!ライアン!後退だ!」
「おう!」
「はい!」
「イブ!」
『航空支援入ります』
『こちらコマンダー、閃光弾行くぞ、直視するなよ』
リリィの判断、そしてイブや他のサポートは迅速だった。
夕闇が深くなりかけていた街を真っ白の閃光が染め上げる。
電子ゴーグルでほぼカットされるけど、それでもかなり眩しい。
間を開けず、上空で旋回していた戦闘機からミサイルと爆弾が、南側の神奈川戦線を構築している機甲部隊である戦車から砲撃とロケット砲が世田谷の街を飲み込んだ。
コンタクトHUDにも着弾の座標が表示、簡易マップに効果範囲が赤く表示されている、この範囲に入らない限りはフレンドリーファイアも無い。
「走れ!」
事前の打ち合わせ通り一番近い陣営へ後退する、今の状況だと砲撃をしている神奈川戦線側へだ。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
出来るだけ施設やインフラの破壊はしないように心掛けているけど、それはあくまでも余裕のある範囲での話だ、今は1秒でも早く下がる為にアスファルトを踏み抜き、家や車がバラバラと散っていくのを申し訳ないと思いながら駆けた。
私達が機甲部隊の戦線より後方へ下がる頃には戦闘機と爆撃機の編隊が絨毯爆撃を加えていた。
次いで、機甲部隊から煙幕弾が大量に世田谷区へばら撒かれる。
足が遅い戦車の後退の為で、砲撃をしながら私達の殿を務めるように下がった。
後退の際に問題となるのは第一級敵性生物の狼型と領域外敵性生物の泥の巨人の脚の速さにある。
逃げ切るには、空からの爆撃と地上からの煙幕を効かせて視界から外れるのが有効だった。
『こちら守護者、隊長のリリィだ、撤退完了』
『了解、自衛隊機甲部隊の撤退も間もなく』
『艦砲射撃、ハープーン、トマホーク、バンカーバスター発射まであと10秒』
『機甲部隊撤退完了しました、航空部隊離脱開始』
戦闘時は部隊と指揮車からの通信のみに絞っていたものを、インカムを操作して全体指揮を聞いてみると状況がよく分かった。
大気を切り裂き、轟音と共に大地を震わせる火力が世田谷区の大半を破壊して、東京空爆の作戦初日は幕を下ろした。
夜間は陸上自衛隊と航空自衛隊、米軍が24時間体制でモンスターの監視が行われる予定だ。
「ぶはっ、いやー、クソキツかったな!」
「ああ、予想よりも一級が多いね」
「バラで来る分にはまだ対処出来るけど、一気に来られるとね」
髑髏フェイスマスクを開き、ゴーグルを外して皆その場に座り込んだ。
体力お化けのライアンでさえ疲労を隠していない、当然リリィと私なんて動き回って刀を振り回すのでクタクタだった。
汗を拭う、全身スーツも頑丈で動きを阻害しないのは良いんだけど、どうしても蒸れてしまうので中はビショビショだ。
圧着スーツだから通気性はかなり悪いんだよね・・・
「武器は、・・・すげえな、刃こぼれ無しだぜ」
「かなり良いね、再生循環式浄化分解槽、開発部もやるじゃないか」
「連戦しない限りは大丈夫そうだね、明日は太刀二本にしようかな」
「あー、それな! ただ小太刀の取り回しも捨て難いんだよねえ」
後退の際に武器は鞘に納めて走って来た。
今改めて抜刀すると血糊はなくなり、表面のコーティングは綺麗な状態に戻っていた。
太刀二本持ちで行けば継戦能力はかなり向上しそうだ、でも小太刀の振りやすさは動きの速い狼型や手数(頭数)の多い蛇玉に有効なんだよね、うーん。
「俺の手斧持つか?」
「うーん」
「私にはちょっと重いかな」
間合い的には小太刀も手斧も近い、打撃力もあるので強いんだけど、私やリリィが片手で振るには重さが気になる。
手斧が強いのはライアンの腕力あってのものなんだよね、泥の巨人を力で押し返す程のパワーだから重さも気にせずビュンビュン振り回している。
『装備はこのまま、先程のは守護者の負担が大き過ぎました』
私達が話し合っているとイブから通信が入った。
ドローンを含む巨人特殊部隊支援システムの解析によると、さっき私達の負荷率は108%を記録していて、事前の予測数値を遥かに超えていたらしい。
『支援体制と隊列、各編成、作戦進行の再構築に米軍と自衛隊の話し合いが始まったので、皆さんは気にせず基地へ帰投、体を休めて下さい』
「そうかい? じゃあ任せたよ」
「ま、考えるのが仕事の奴も居るからな」
「うん」
何でもかんでも言われた通りにするのも問題だろうけど、軍は基本的に完全分業制だ。
あれこれ悩むのも正直ダルいなぁと思うくらいには疲れていたので、一先ず思考は放棄することにした。
こちらの考えや感想も挙がっているだろうし、総合的な判断は上の人に任せよう、うんうん。




