東京戦線 3
作戦の初期目標は東京都港区、目黒区、世田谷区の奪還だ。
大田区、品川区はモンスター被害を受けていないので、先ずは神奈川戦線に接する東京都南側が対象となっている。
一言に東京災害と言っても全域がモンスターによる被害を受けた訳では無い、基本は【穴】のある練馬区を中心に人口の多い地域へと被害が拡大している。
隣接する埼玉県の和光市、朝霞市、新座市の被害も甚大で、ただ東京の被害の方が桁違いな為にあまり話題には挙がっていないだけだ。
不幸中の幸いとしては川を越えて動くモンスターが比較的少なかったので、戸田市、川口市、さいたま市と人口が多い市の被害が無かった事だ。
もし、大半のモンスターが川を越えていたら東京災害に於ける被害者の数は500万人を超えていただろうと米軍では分析している。
「よっ、と!」
蛇玉の頭が数本私に伸びてきた、両手にある太刀と小太刀で斬り捨てる。
一本、二本、三っ本!!
勢い余って飛んでいった蛇の頭部は、近くのビルに当たって体液を撒き散らした。
いくら頭を落としても生きているので、蛇玉の核をバッサリ斬り裂く。
「オラァ!」
「フッ!」
ライアンもリリィも順調に第一級敵性生物を討伐していく、狼、蠍、蛇、熊型、かなり数が多い。
基本的には首狩り一撃だ、生命力の強い敵性生物は相当斬りつけないと倒し切れない。
血糊や脂、武器の耐久性の問題もあるので手数は少なく倒すのが理想的だった。
刀持ちの私とリリィは首を、手斧のライアンは首に加えて頭部を叩き割ったりしている。
「なんか、また言われそう」
「ん?」
「Hahaha.知ってるぜ、こういうのを日本語ではheadhunterって言うんだろ」
戦国時代かな?
間違ってないけど本当に血腥い話だ。
ミサイルの撃ち漏らし第二級敵性生物は随行の米軍ヘリの攻撃で一掃、常に一人一機が張り付きで援護してくれるのでかなり余裕がある。
それよりも足元の状況がミサイル攻撃の影響でかなり悪いのが気になる、崩れた建物や放置車両、道路自体が破損していたりするので、躓いて隙を晒したりしないように気を付ける。
「ふう・・・」
カチンと納刀して一息ついた。
こまめに血振りをして体液を落とし、戦闘の間を縫って再生循環式浄化分解槽の機能を最大限利用する。
そのお陰か数体斬り殺して、次の戦闘が始まっても斬れ味が落ちることはなかったので、かなり有効だ。
一応予備の刀と手斧は有るけど、使い捨てるほどの数では無いので大事に扱うのは当然のことだ。
「作戦の進捗は?」
「順調だよ、まあまだまだ序盤だから此処で躓いていられないけどね」
「本番は【穴】に近付いてからだからな」
現在地は【穴】から遠い港区だ、練馬区の【穴】に近付けば近付くほど敵性生物の密度は濃くなる。
第二級敵性生物は空爆や砲撃の物量で何とかなるけど、第一級敵性生物は私達巨人特殊部隊が一体一体討伐する必要があるので、練馬、板橋、杉並、新宿区辺りはかなり大変になる。
杉並区に隣接している世田谷区の北部も相当なのは偵察機で解っているので、ここからドンドン激戦になるのは予想されていた。
『一先ず休憩にしましょう、現在渋谷区の西側と世田谷区全域の空爆を実施中です』
「了解」
「あいあい」
「はーい」
イブからの通信とほぼ同時、米軍の輸送機が飛んで来てコンテナをひとつ投下していった。
中身はレーション、なんて事はなく、自衛隊が今朝作ったばかりの食事を詰め込んだものだ。
私には巨大おにぎり、ライアンは肉とチリビーンズ、リリィにはパンとベーコンといった具合にそれぞれの希望を叶えたメニューとなっている。
まあ保存食糧を食べる理由もないからね、出来たてと言わないまでも戦場の食事としてはかなり恵まれている。
それぞれ低めの座りやすいビルに腰を下ろすと食事を始めた。
『食事中に申し訳ないですが、少し後方に簡易トイレの設置を開始しました』
「おう、サンキュー」
「了解した」
「ありがとう」
いちいち基地に戻ってお花を詰みに行く訳にもいかないからね、安全を確保した地区には私達用の簡易トイレが必ず設置される。
うーん、旗ならぬトイレ・・・、深く考えるのはよそう。
「サナ、少しコメくれよ」
「はい」
「サンクス、チリビーンズ食うか?」
「うん、貰うー」
「アタシにもくれよ、ベーコンやるからさ」
「おう、ほれ」
食事をシェアして美味しく食べる。
思っていたより戦いっ放しって訳でもないから拍子抜けしたかも。
まあ気負い過ぎていたってこともある。
私達が負担を感じる状況だと、作戦が上手く推移していないとも取れるよね、予想以上に一級が多いとか、二級の相手を私達がするようになってしまうとか。
「戦争というものは始まる前に勝敗は決している、そして我々の勝利は揺るがない」
作戦前に指揮官が演説していた通りになった、準備八割、仕事が二割、だっけ?
先は長いし油断せず行こう、オー!




