東京戦線 1
作戦当日0700起床、同0735朝食。
0800装備確認。
下着、全身スーツ、ショートパンツ、ブーツ、ジャケット、ガントレット、グリーブ良し。
電子ゴーグル、フェイスマスク、インカム、良し。
日本刀二振り、太刀と小太刀、良し。
新装備、再生循環式浄化分解槽、良し。
長ったらしい名前のこれは刀の新しい鞘で、長期戦を見据えた新開発の装備だ。
今回東京戦線での作戦は米軍でも経験の無い、多数の敵性生物との戦闘になる。
そこで問題になるのは私達の武装である刀や斧の耐久性だ。
第一級敵性生物の撃ち漏らしは許されない。
ミサイルの数は十分に用意している、でもそれは第二級敵性生物を主に殲滅する為のものなので、第一級敵性生物を倒す為に使用すると足りなくなる可能性がある。
いつも通り私達が一級を倒すのが効率的なんだけど、東京を跋扈する一級の数は半端じゃない。
いくら特殊コーティングをしていると言っても、斬れば斬る程体液や脂が着いて斬れ味は落ちて行く。
斬れ味が落ちたまま使用を続けると武器の破損は避けられない。
そこでこの再生循環式浄化分解槽を組み込んだ新しい鞘だ。
開発部の話によるとナノマシンと薬液が鞘の中で循環していて、納刀すると刀の表面に着いた体液等を分解、更に再コーティングを施すというハイテク鞘となっている。
そんなハイテク鞘、戦闘では打撃武器としても使う指導を受けているので壊れないのかなと聞くと、機械的な物は組み込まれていないらしく、ガッツンガッツン叩きつけても壊れる心配は皆無だそう。
当初、開発部は鞘に電磁加速機器を着けて刀の加速を計画していたらしい。
でも問題は沢山あった、電磁加速機器の耐久性とコスト、加速させた刀は私達の指を吹き飛ばしてしまう、刀が何処へ飛んで行くか分からない、そんな危険物は開発休止になった。
休止? 中止じゃないの・・・?
「Hahaha. チョーデンジバットウサイ!アマカケルゥ、Noooooo!!?」
開発部の1人が模造刀を持って居合いのポーズを取っていたけど、指折れる武器なんか使わないからね。
さて、装備は問題無し。
後は0845横須賀米軍基地を出立、0930天王洲自衛隊基地到着予定。
空爆開始1000まで同基地で待機なんだけど、少し時間に余裕があった。
「サナ、少し立ち合い付き合ってくれないか? 身体を解しておきたい」
「うん、いいよ」
私とリリィは私達の運動場になっている滑走路へ出て、軽い手合わせをする事にした。
装備も着ているし、鞘に納めた刀で軽く打ち合う。
ゴッ、ザ、ッ、ガギンッ!
「おっと、サナ、調子は、どう、っだい!」
「うん、問題、無いよ、リリィこそ、調子よさそう、だねっ!」
ゴキン、ガキンと火花を散らしながら打ち合う、当たっても怪我をしない程度、と言っても空気を切り裂く程度には速い、まあ私達にとっては肩慣らしだ。
「そういや、作戦終わったら、また階級上がりそうだ、よっと!」
「え、また?」
「給料、上がる、ぜ!」
「いやいや、もうこれ以上上がったら逆に気が引けるよ!?」
今の私は基本給で15万ドル、手当が付いて約20万ドル。
流石に打ち合いを止めて言う、いや本当にね、巨人だから入るお金も出て行くお金も大きくなるのは慣れて来たよ?
でもさ、月給20万ドルって冷静に考えて頭おかしい額だよね?
しかも任務がある月は更に手当が加算されるし・・・
「貰えるものは貰っときゃ良いんだよ、どうしてもって言うんなら寄付すりゃ良いだろ?」
「まあ、ね」
既に月2000ドルくらい寄付に回してるけどね・・・
これもよく考えるとおかしい額だけど、寄付の額増やそうとするとママとパパが貯めておきなさいって言うし。
まあ、支出額を考えるとそこまで裕福な生活でもないんだよね、一般的なサラリーマンの給料と生活レベルって感じか。
服が、服が高いっ!
春物でお金が消えて、今は夏物の発注中、次はチアクラブの合宿費用と水着でしょ、夏が終わったら秋物、冬服は去年のが有るけど、流行りが、ね?
アメリカの平服ジーパンは年中通して履けるから良いけど、トップスと靴、下着がさあ。
うん、給料上がっても消えてくわ・・・
「・・・後でママとパパに相談する」
「Hahaha.それが良い」
多分貯金だ、有難く受け取ろうと思う。
途中、ライアンも加わって軽く打ち合いをして調子を確かめた私達は、定時に横須賀基地を出発、天王洲自衛隊基地へと向かった。
***
『流石にコレは呆れるぜ』
ライアンがため息混じりに言う、それも仕方が無い光景が足下にはあった。
横須賀米軍基地を出た私達の道中、歩道にはかなりの人が集まっていた。
「空爆反対」
「米軍の横暴を許すな」
「Don't bring war into it.」戦争を持ち込むな
横断幕を掲げた集団が今回の東京空爆に対してデモを行っているのだ。
インカムのノイズキャンセリング機能で私達に彼らの声は聴こえない、それでも文字は目につくし、歓迎していないのは明白だった。
『東京からモンスターが溢れても良いのかねぇ』
『まさかだろ、東京で400万人以上が死んでるんだぜ?』
「平和ボケ、なんだろうね・・・」
車列の米兵の中でも呆れたり、ムッとしていたりする人が多数見える。
誤解している人も多いみたいだけど、今回の空爆作戦は自衛隊が主力だ。
足りない分を補う米軍の規模は確かに大きいけど、日本の防衛省が自国を守る為に決定した東京空爆なのだから、私達米軍に言われても困る。
米日安全保障同盟に基づいての共同戦線。
東京を取り囲む各戦線の主力は陸上自衛隊の普通科、機甲科、特科(野戦)で構築されている。
これらの兵力は在日米軍には用意出来ない、日本にある米軍の戦力は陸軍2500人、空軍12000人、海軍(陸上)4000人、海軍(洋上)17000人、海兵隊5000人。
陸軍の戦力が最も少なく、海軍の戦力が最も多くなっているのは陸上は自衛隊が居るからだし、海に囲まれた島国なので空軍海軍が充実しているのは当然の配分だ。
空爆や洋上からの砲撃を行うのは簡単だけど、蜂の巣を啄いてモンスターが東京から散らばっては手間も被害も大きくなる。
だから戦線の維持構築は絶対条件だし、共同戦線だけど自衛隊が主力で米軍は補助であった。
『米軍の空爆ばかり悪目立ちしてる印象だねえ』
『陸海空の自衛隊も砲撃するっつーのにな』
「一部の人だけだと思うけどね・・・」
巨人で目立つから標的にされているだけだ、まあ気分は良くないけど気にしても仕方ない。
ジョセフさん情報だと当初米軍のプランには燃料気化爆弾とMOAB(強力な爆弾?)の使用が挙がっていたらしい。
東京空爆をするより余程コストが掛からず効果的な手段らしいけど、使用した土地の汚染、破壊規模、国民感情、巨人特殊部隊の活動に支障を与える、その他諸々の理由から今回の作戦にまとまったのだとか。
「Imperial Palaceを消し飛ばして恨まれたくはないからね」
「あー・・・」
納得。
私達にもひとつだけ厳命されたのが、陛下の住まいには最大限配慮するように、との命令だ。
戦闘中に施設や建物の被害を気にする余裕は無いので、近付かないようにする事が満場一致で決定している。




