訪日 3
横須賀米軍基地へ入ると懐かしい香りが鼻をくすぐった。
「これは、味噌汁?」
「お、来た来た、おーい!」
手を振って私達を迎えたのは米軍ではなく自衛隊だった。
全員見覚えがある、日本で天王洲基地に居た時に私の食事を用意してくれた炊き出し部隊の面々だ。
「アタシらの食事は自衛隊が賄うんだとさ、米軍が賄って費用請求するよりは日本持ち出しで完結した方が手っ取り早い」
「おー、自衛隊の食事は美味いって聞いてるから楽しみだな!」
「わあ」
「アタシは報告あるから、ライアンとサナは自由に過ごして構わないよ」
リリィはそう言うと着任の挨拶へ向かった
「サナ、日本食の説明してくれよ」
「うん、任せて!」
ライアンはゴリゴリのアメリカ人だ。
好きな物はステーキ、ベーコン、ハンバーガー、BBQ、鶏豚牛!
日本食はどうかなー?
「久しぶりサナちゃん、元気そうで良かったよ」
「おかえり、と言うのも変な話だけど・・・」
「巨人部隊の食事は俺達が担当するから、何でもリクエストしてくれよ!」
「そうだよ、嫌いな物、好きな物、今度は遠慮しないで言ってくれよな!」
「栄養計算あるから全部肉とかは無理だけど、努力するから」
「あ、うん、ごめ・・・、じゃないや、ありがとう」
炊飯部隊の皆が手を振って笑顔で歓迎してくれた。
「Ryan, these are the Self-Defense Forces Food Unit, they took care of me when I was in Japan.」
ライアン、彼らは自衛隊の食料部隊、日本に居た時お世話になったの。
「I'm Ryan Gonzalez, nice to meet you.」
俺はライアン・ゴンザレス、よろしくな
「アイム タカシ サイトウ、ナイストゥーミーチュートゥー」
「He said he'll take care of any meal requests as long as he can.」
食事のリクエストも可能な限り請け負うって
「Thanks, but I'm looking forward to some Japanese food today.」
ありがとう、でも今日は日本食を楽しみにしてるぜ
「サナちゃん英語ペラペラだねえ」
「発音もネイティブだし」
「俺達も一応英語履修してるから大丈夫だよ」
そっか、自衛隊も海外派遣とかあるもんね。
私はママとパパが家の中で日本語と英語話していたから、物心着く頃にはどちらの言語も普通に話せるようになっていたんだよね。
今は今後の進路、医大の事もあってドイツ語も勉強しているから、目指せトライリンガルだ。
「サナ、これはなんだ?」
「これは親子丼だよ」
「オヤコドン?」
「鶏肉と卵、つまり親と子だから、日本語でオヤコドンだよ」
「へー、面白いネーミングだが美味いな、卵が濃厚だし味も良い」
心配していた日本食もライアンは気に入ったみたいで良かった、味噌汁も口に合ったみたいだし。
私達巨人の主食ってオートミールなんだよね、量を作りやすいし栄養もある、コストパフォーマンスも良いから、かなりの割合でメニューに乗る。
日本で言う米と同じ存在だけど、どうしてもオートミールは美味しく感じない・・・
ライアンの口に合ったなら、他のメンバーにもいけそうだからメニューに米も追加して貰おうかなぁ。
「サナちゃん、キミが好きだって聞いたからコーラ用意してあるからね、遠慮なく飲んで」
「本当ですか、ありがとう!」
「コーラ?」
「うん!」
「ビールは?」
「すいません、タンクローリービールは自衛隊名義ではちょっと難しくて」
「まあ仕方ないか、偶にはコーラも良いだろ、俺も貰うぜ」
たっぷりとグラスに注がれたコーラ、シュワシュワと炭酸が立ち上がりひんやりとしている。
「「乾杯!」」
ライアンとグラスを合わせると一気に呷った。
ゴク、ゴク、ゴク・・・
喉を通る黒色の液体、若干の薬品っぽい喉越し、これはっ!!
「This is PEP-C!!」
「ペプCだ、コレー!!」
炭酸界隈(?)では2つの勢力が存在している、1つオリジナルコーラ派、2つペプC派だ。
私は断然オリジナル派、ペプCはオリジナル過激派からするとコーラに非ず、と言われている。
私はそこまで否定はしないけど、風味というか、味の微妙な違い的にオリジナルの方が好き。
「えっ、コーラって言ったらペプCですよね?」
自衛隊の1人がそう言った、多分彼がコーラの手配をしたのだろう。
ふーん、それを言っちゃう? よろしい、ならば戦争だ。
「なんだい楽しそうにしてるね」
「リリィ!だってコーラと言えばペプCとか言うから」
「Hahaha.あー、そいつァ戦争だ」
「でしょっ!?」
「すまないサナちゃん、何か不手際あったのかな」
「コーラ?」
「どっちも一緒だろ?」
「Shut up!」
どっちも一緒?
それは聞き捨てならない台詞だ、コーラがどちらかはまだ良い、好みや思想があるからね。
でも、どっちも一緒は許容出来ない、混じり気のないオリジナルコーラ、やや薬の香りがあるペプC、独特な個性派ドクP、他にもたくさんのクラフトコーラがある。
私は過激派じゃないけど、どっちも一緒なんてコーラの製造者に敬意が無い失礼だよ、私は過激派じゃないけど、オリジナルコーラの素晴らしさは語り出したら2時間は止まらない、私は過激派じゃないけど!
別にペプCがダメって言ってるんじゃない、オリジナルコーラだと思って飲んだら違かったのでビックリしたけど、そこは重要じゃない。
「Do you understand?」
「お、オーケー、どっちも一緒は暴言だったね」
「Then good」
なら良し
「ほらほら、落ち着きなよ」
リリィは子供をあやすようにして私の頭にキスを落とした。
「子供扱いしないでよ、私は冷静だから」
「はいはい、いい子だから」
「むぐ」
リリィは「仕方ない奴だ」とでも言いたげな顔で私の頭を自分の胸に抱き込み、再びキスを落としながらポンポンと背中を叩いた。
「おお、百合の花が」
「間に挟まりたい」
「は?お前ちょっと裏に来いよ」
「ぷっ、はははは!なんだよサナちゃんって、こんな子だったのか、あの時もコーラ出せば良かったな!はははは!」
「!」
日本の時は猫被ってたみたいに言われるの心外だ、なん炊き出し部隊全員して私の事を温かい目で見てるから恥ずかしい。
「良かったなぁ」
「ああ」
「俺らメシ作るしか出来なかったからな・・・」
「やべぇ、娘が嫁に行く気分ってこんなか?」
「女の子は笑顔が1番だよな」
「分かるマン」
う、心配させてたのはごめんなさい・・・
なんとも居心地の悪さがあったものの不快なものではなくて、私はリリィの胸に顔を埋めて誤魔化した。




