訪日 2
狼の解体を終えた私達は、その足で米軍横須賀基地へと移動した。
道中、やっぱり以前と変わらず無言でスマホを向けられたりしたのは今ではどうでもいい事だった。
「せめて1人でも、写真良いですかくらい言えねえのかよ」
「まあ全然違うもんね」
アメリカでも無言でスマホを向ける人が居ない訳ではないけど、どちらかと言えばHi!と声を掛けて、そのまま話し込む人が多い印象だ。
ライアンも元々はNHLの有名人だから、その辺は本気で気にして言っている訳じゃない、ただ日本では無言撮影ばかり目に付くというだけだ。
「エクスキューズミー、タイタンスペシャルフォース、キャンユーテルアス ア ストーリー?」
「No」
「Through public relations.」
広報を通しな
迎えに来た米軍車両先導で横須賀基地への道すがら、あちらこちらから報道関係者の質問が飛んでくる。
ライアンもリリィも毅然と断る、実際私達が答えられる事なんて無いし、立ち止まるのも邪魔になる。
「あれ? 米軍特殊部隊の女性巨人ってリリィ・クロフトと・・・」
「え、じゃあもう1人の女巨人って、佐藤サナ!?」
「サナさーん、一言お願いしまーす!」
「再び日本の地に帰った理由はー?」
「日本に帰ってきたご感想をー!」
うわぁ、速攻バレた。
これが嫌だったからゴーグル着けて、フェイスマスクも閉じてたのに、最悪だ。
『What's he saying?』
なんて言ってるんだ
『I know it's mostly predictable, but Sana?』
大体は予想出来てるけど、サナ?
マスクを開いて会話していたリリィとライアンも再びフェイスマスクを閉じると、通信モードで私に問い掛ける。
「How is it back home for me?」
私が日本に帰国してどうですか、ってさ
『『Returning home? Not "came back"?』』
帰国? 戻って来た、じゃなくて?
おお、リリィとライアンがハモった。
まあそうだよね、私はアメリカ国籍合衆国民だ、帰国は適切な表現じゃない。
SNSでも言ったし、米軍特殊部隊として装備の襟に星条旗も着いている。
勿論アメリカから日本側へもその旨は伝えられている筈だ、立場上報道関係者がそれを知らないとは思い難い。
『私的な考えですが、彼等は日本人としてのサナ・サトーに価値を見出しているのでは?』
「イブ?」
『数年前に日本出身アメリカ国籍の人物がノーベル賞を取りました、その際日本では彼を日本人として扱っていたようです』
んん? 国民は国籍に準ずる、じゃないの?
日本国籍なら日本人だし、アメリカ国籍ならアメリカ人の筈だ。
日本出身でもアメリカ国籍取得済みならアメリカ人として扱われるのは当然、だよね?
私が二重国籍の時ならこの扱いも分かるけど、既にアメリカ国籍を選択していて日本国籍は離脱が完了している。
『元日本人のよしみで仲良くしようぜ、ってことか』
『大雑把に言えばそうなるかと』
『下らねえー、俺らは確かに目立つけど、いち軍人だぜ? 迂闊に答える訳が無い』
『あの手この手と報道は何処も一緒だねえ』
「あれ、でも私アメリカ国内でパパラッチに追い掛けられた事ないけど」
『そりゃあ米軍の広報を通せって、徹底してるからな』
『サナの場合、未成年だしねぇ』
『こちらの不手際です、不快な思いをする前にノイズキャンセリングしておきます』
タタタ、イブの方からタップ音が響くと周囲の声が全部消えた。
『お、なんだいこりゃ』
『インカムにノイズキャンセリング機能を持たせてあるので、応用で周囲の物音を聴こえなく出来ます。
今回は人の声の周波数をフィルタリングしてカットしました』
「おお、ハイテクだ」
『ふふ、機能自体は既存のイヤホンと変わらないの、ただ巨人の体格に合わせた大きさの装備だから、コンパクト化する必要がなくて多機能が実現するのよ』
そう言えばコンタクトHUDも私達の大きさに合わせたから楽に製作出来るって聞いたっけ。
『くだらない事で士気を削がれるのは問題だわ、日本側から手を回すよう上に報告しておきます』
『頼んだよイブ』
『はい』
そこまでするんだと思ったけど、軍の士気の維持は重要なファクターで、特に私達は替えの効かない隊員として、これは当然の措置だと言われた。
『事前に報道関係にも米軍からお願いしているんだけどねえ』
懐かしい気持ちはあるけど、遊びに来た訳じゃないからね!
軍事作戦、戦闘任務で私達は訪日したのだから、マスコミへの受け答えは仕事では無い。
新人訓練の中でも情報の取り扱いや対応については、上官または広報官、担当官を通すようにと教えられているからね。
沈黙は金ってやつだよ!
***
「という事なのですが」
「分かった、後はこちらで引き継ぐから、イブは該当するジャーナリストをリストアップしてくれ」
「はい、しかし、いいんですか? 多分全員フリーの人間ですよ」
「ふ、どうせ各報道機関の紐付きだろう? 問題無い」
私はリリィ、ライアン、サナが帰投の途中にあった報道関係者について報告を挙げていた。
事前に日本の各社にも巨人への取材は控えるよう通達をしていたのに、各社の正社員が動かなかっただけで、会社と付き合いのあるフリーのジャーナリストが動いていたので意味が無かった。
「日本の流儀に合わせてやるさ、得意のOMOTENASIとやらをな」
あーあ、日本の報道機関は上手いこと通達の穴を突いたつもりなんだろうけど、取材の「禁止」じゃなくて、控えるよう「お願い」した通達に素直に従っておけばいいのに。
スパイ天国の日本と違って、アメリカ合衆国の情報機関は甘くない。
日本の報道は理解しているのかな、自分達がどれほど侮辱を重ねて来たのか。
サナは日本人ではなく、アメリカ人として、過去の状況とは違っている事に・・・




