訪日 1
自衛隊の車両を逃がして40分くらいかな、蟻の大群と何体かの第一級敵性生物を倒した私達は、後続のモンスターが居ない事を確認。
当初の予定だった横須賀米軍基地へは直行せず、神奈川戦線の本部へ立ち寄る事となった。
それにしてもスカイダイビングの途中イブから通信が入って、日本ですぐ戦闘になるとは思っていなかった。
まあ、助けた自衛隊の車の中には小夜さんも居て、無事だったから良かったと思う。
『日本が第一級敵性生物のサンプルを欲してる』
イブからの通信で私は巨大狼の首と胴体を、リリィは蛇玉、ライアンは巨大熊の死骸を確保した。
そう言えば日本で倒される第一級敵性生物はこれが初めてか、アメリカだと先に戦っていたみんなが回収していたらしい、私は泥の巨人しか回収しなかったけど。
ズルズルズル・・・
「うーん、なんか絵面が良くない」
「Ha ha.ひと狩り行こうぜ!」
「いや、ひと狩り終えたからねえ」
もうね、やっぱり髑髏フェイスが良くないんだよ。
ライアンなんて一際大きい20m巨人で髑髏顔、熊の死骸を引き摺ってさ。
いや私も同じ格好で生首と胴体引き摺ってるから似たようなものだけど!
「アタシ的にはサナが1番アレだよ、スカルフェイスをマゼンタに塗って余計に」
「ピンク無かったんだもん、こんなに怪しい色味になるなんて」
「別に裸で歩いてんじゃねえんだ、格好に文句言う奴は居ないだろ」
「「・・・」」
居そう、ていうか日本なら絶対居るよね、服ガー、マナーガー、子供ガー、って。
「リリィもサナもそこで黙るなよ、居るのかよ、めんどくせぇ国だな」
いやいやアメリカも中々だと思うけどね、その辺りは国がどうって話ではなく、一定の割合どこの国にもそんな人は居るよ。
比較的な話なら、確かにアメリカは緩めというかおおらかだし、日本は細やかというか神経質な気質だと思うけどね。
世界的には最も神経質な民族って言われてるんだっけ
?
さて、神奈川戦線の本部に到着すると大きな広場に案内された、広場には全身防護服に身を包んだ隊員が数十名待機している。
「サナは知らないだろうけど、コレの解体はアタシらの仕事だから」
「え゛」
「全部って訳じゃねえんだ、ただミサイルぶち込んでも死なねえモンスターの死骸で、しかもこの大きさだからな、ざっくりバラバラにして渡すんだぜ」
あ、言われてみるとそうだね。
普通の身長でコレを何とかなんて重機でも使わないとどうにもならない、私達巨人がバラすのが一番手間が掛からない。
冷蔵の大型トラックがズラッと並んでいるのはそういう事か。
普段はドクターが解体をやっているらしいけど、今回は私達でやる。
私は初めてだから、先にリリィとライアンの解体をやって貰った。
***
見た感じ、頭部は出来るだけそのままで、あとは内臓ごとに切り分けて、って感じだ。
殆どは自衛隊の指示に従っていくだけで大丈夫そう、・・・うえっ!
「頭は・・・、このままトラックに入りませんか?」
「えっと、あ、いけそう、ちょっとキツイけど」
「じゃあ、そのまま突っ込んで下さい、あとは此方で何とかしますので、ゲートが閉まれば良いです」
狼の頭はギリギリトラックの箱に詰め込んだ、少し無理矢理押し込んだから出す時大変かも。
「次は・・・」
「サナ、コレはな尻尾を持っているから」
うげ、吊るし切りって奴だね。
真ん中を切ると内臓が溢れるから、それを部位ごとに切り分けるだけで良いらしい。
「すー、はー・・・」
「大丈夫かいサナ、変わっても良いよ」
「だ、大丈夫、とも言えないけど、やるよ」
わ、私だって医師を目指しているんだから、これくらいはやらないといけない。
「わ、私は、悪くない、・・・、全部、アイツがっ、お前の、せいでっ!!」
「えっ?」
私が小太刀で狼の腹を縦に斬り裂いたのと、声が聴こえたのはほぼ同時だった。
スローモーションで溢れ落ちる臟、いつの間にか近くに人が、と気付いた時には遅かった。
ドボ、グシャァッ!!
人が内臓と体液に飲み込まれた。
一瞬見えたのは上がスーツで、下は隊員が履いているモスグリーンのズボン姿のなんともチグハグな格好の男の人だった。
「おいっ、誰か巻き込まれたぞ!」
「なんで解体現場の周囲に立ち入ってるんだ」
「誰だ!?」
「なんだっけアイツ、えーっと、小便漏らした、立ち退き交渉官の・・・」
「サナ!ライアンも動くなよ!」
「うん」「解ってる」
巨人と人との共同作業の鉄則は、人が私達巨人の間合いに入らない事だ。
そして間合いに人が居る場合、私達巨人は動いてはいけない。
当然米軍から自衛隊へはその旨を通達しているし、さっきまでリリィとライアンの解体の時も距離を取って指示を出していた。
「重機回せ!」
「いや、人と内臓の見分けがつかん!手作業だろ」
「無理だろ、マグロの解体とは訳が違う!」
「ここは巨人の力の方が一番安全では」
はいはい。
という訳で私は慎重に内臓を持ち上げ、人が居ない事を確認すると切り取ってトラックへ、それはもう気を遣って解体作業を再開した。
尻尾を持ったライアンは大雑把なので直立不動のまま動かないで貰った、本当に大雑把だからねライアン。
「あ、居た」
「止まーれー!!」
「居たぞ、メディック、メディーック!!」
「お前それ言いたかっただけだろ!」
「バレた!?」
いくつか内臓をトラックに積み込んだ所で、腸に巻き込まれた人を見つけた。
姿は・・・、多分怪我はしてない、と思う、多分。
体液( と排泄物?)塗れで正直分からない、手足や首は変な方向を向いてないから、意識を失っているだけかな?
「生きてるか?」
「多分」
「取り敢えず、洗浄班に任せよう、このままでは治療も何も出来ない」
防護服を着た隊員は彼を引き摺って、近くに待機していた洗浄班の前に放り投げた。
まあ、解体現場だからね、私達の装備は特殊な素材とコーティングのお陰で体液も付着せず大して汚れないけど、このスプラッタな光景を放置出来ないもんね。
高圧洗浄機で荒っぽく流された人は、意識を失ったまま多機能型感染患者搬送袋と呼ばれる隔離袋に入れられて何処かへ搬送されていった。
「大丈夫かな?」
「大丈夫です、それにルールを破ったのは彼の方ですから、サナさんが気にする必要は有りませんよ」
それはそうなんだけど、本当にビックリしたよ。
アメリカだと町やハイスクールのみんなは安全の為に必ず声を掛けてから近寄ってくれるし、ママやパパ、基地やホームだと屋根の無い鉄骨の骨組みが設置されていて、安全性を確保しているのでこんな事は起きない。
日本だとそう言った共存の仕組みが無いから、滞在中はより一層気を付けよう・・・




