小夜 6
日本国東京への空爆が決定した。
このままでは各戦線の維持が困難との分析から、総理が決断したのだ。
「どうせ歴代最高に無能な総理と呼ばれているのだ、負債は全て私が受け入れるから、後を頼む。
その代わり、国民にも現実を叩き付けてやるがね」
自衛隊の武器使用緩和関連法案では軍国主義の再来かと批判され、かと思えば東京災害での自衛官の武器使用は限定的で国民の被害を助長したと批判。
巨人の管理がなってないと批判、巨人に逃げられたと批判、巨人に税金を使い過ぎと批判。
救助が遅いと批判、武器をもっと使えと批判、でも建物は壊すな、無事に東京を取り戻せと言う。
正直、総理には同情した、今も現在進行形で同情している。
取り得る方法は法律の範囲の中で全て実行された、行方不明者が数百万人に上る以上、火力の高い武器は使用出来なかった。
せめて戦車さえ投入出来ればまた戦況は変わっていたのに、人が居るかもしれない区域で砲撃など出来なかった。
そんな戦車は各県境の戦線構築に活躍しているが、その際の散発的な砲撃も批判の的だった。
彼は持ち回りというか巡り合わせというか、運が悪かったとしか言い様が無い・・・
***
決まったのは主に4つ
1.空爆作戦の初撃は必ず自衛隊が行う
2.作戦上で起こりうる事象の全てを日本国総理大臣が責任を持つ
3.米軍の費用は全額日本側が負担する
4.作戦は国営放送で生中継する
前大戦の記憶から米軍の空爆に対する国民の、特に高齢者の忌避感が強い、あくまでも主力は自衛隊で、足りない火力を米軍は支援してくれている事を明言する。
作戦上、死者・行方不明者の生死に関する問題が最大の懸念だった。
それも東京災害から数ヶ月、確認されていないだけで行方不明者を事実上の死者として扱う事を決めた。
作戦に参加する自衛官の精神的負担は計り知れない、自国民ごと化物を殺す作戦なのだから当然だ。
だから、命令に従う、という言い訳を作った。
自衛隊は専守防衛、大規模な破壊力のある攻撃能力は限定的だ。
ハープーンミサイルや90式艦対艦誘導弾等は配備されているが、根本的に時間当たりの物量と火力が足りない。
名目上、主力は自衛隊とされるが、主火力は米軍による空爆となる。
東京に蔓延る第一級敵性生物、第二級敵性生物に対する必要な火力は、自国防衛の為の作戦、日本側の費用負担は当然のものだった。
最後に国営放送による生中継は、総理の肝入りだ。
何でもかんでも批判しやがって!
東京にミサイル撃ち込むだけなら誰でも出来る、お前らが指揮してみろ!
化物に襲われながら放置車両の撤去、行方不明者の捜索と遺体の回収、化物の死骸も適宜取り除き、体液で靴底や装備は溶ける。
戦車も航空支援も被害を出す可能性があるから使えない、無反動砲、ロケット砲、迫撃砲も榴弾砲もダメ?
馬鹿か!敵は数百万の化物だぞ!
自衛官に死ねと言うのか!お前らが死ね!
盛大にキレた総理による、巻き込むなら国民全てだと
捨て身の劇薬作戦。
空爆も、化物の飛び散るであろう死骸も、全て無修正ノーカットで平和ボケした国民( というかマスコミ)に叩きつけて辞めてやる、という総理最後の意地の発露だ。
そして、腹を括った日本に対して米軍は巨人特殊部隊の派遣を約束した。
作戦のタイムスケジュール、各部隊配置、装備等々、諸々を策定。
全ての予定が出揃ってから渡された米軍の資料に私は目を見張った。
Giant Special Forces
Unit leader Lily Croft
Troopers, Ryan Gonzalez and Sana Sato.
巨人特殊部隊の作戦参加メンバーにサナちゃん入っていたのだから。
慌てて近くに居た交渉担当官の彼を捕まえて話を聞いた。
『日本の作戦だ、彼女は日本語が出来る、円滑なコミュニケーションは必須だと思われるが?
特殊部隊は米軍指揮下だが戦線構築は自衛隊が主力だ、現場での連携に彼女は必要だ』
『サナは米軍が誇る戦士だ、私達は彼女がベストを尽くすと確信している』
アメリカらしい表現で言われたらしい。
素直に受け取るならサナちゃんが日本側に思う所はなく、全力で任務に挑むと言っている。
あの子は恨んだり復讐したりする子じゃない。
でも辛い思いをした日本へ戻って来て助けてくれるのは、いくらなんでも人が良すぎる。
・・・違う。
あの子は人が良すぎたから日本では私に我儘を言わなかった。
コーラを飲みたいとも言わなかったし、高校へ通いたいとも言わない、オシャレしたいとも、家族手製のピザが食べたいとさえ言わなかった。
だからこそサナちゃんは日本にも助けに来てくれる、人が良すぎるからこそ、だ。
私は、日本はあの子に何を返してやれるのだろう。
辛い思いをして、しかも一部とはいえ批判的な声もある日本へ助けに来てくれる彼女に・・・




