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巨人になった私  作者: EVO
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小夜 4

季節は冬、息も白くなり寒さが肌を刺す。

大きな進捗も無く、遅々として進まない行方不明者の捜索は既に形骸化している。

捜索・救助をしていない訳じゃない、ただ時間が経ちすぎた事で生存の可能性が絶望的になっている。

死者・行方不明者400万人と呼称しているけど、近い内に行方不明者の文字は消えるだろう。


国内情勢は酷いもので、政府、自衛隊への風当たりは最悪だ。

支持率は20%を切って久しく、かと言って政治的空白を生む解散総選挙などをしている余裕は無い。


陸上自衛隊は捜索を完了した地域での無反動砲、榴弾砲や迫撃砲の使用を開始していた、それも道路を破壊すると車輌の移動に問題が出るのでかなり限定的。


刻一刻と米軍による空爆は現実味を帯び始めていた。


「SNS見ました?」


そう言ったのは顔見知りになった交渉担当官の1人、彼はスマホの画面を私に向けた。


「え・・・、サナ・サトー?」


Sana.Sato ✓

U.S. Army, Giant Special Forces Attachment


アメリカ陸軍、巨人特殊部隊所属、と端的に書かれたアカウント。

最初の投稿は米軍基地を背景に、有名歌手やタレント、そして巨人5人が一緒に写った集合写真だ。


I made friends with everyone who came for Christmas comfort.


クリスマスで慰労に来てくれた皆と友達になりました。


そう書かれた投稿は数多のコメント、LIKEに溢れていた。

相互フレンドは一緒に写っている有名人のみ、片フレンド数は話題の巨人という事で、アカウント開設から数時間で既に数百万人を超えている。

不意に目頭が熱くなった、


「っ!」


慌てて目を拭い、自分のスマホで改めて見直す、良かった、サナちゃんが笑っている。

米軍に所属する事になるのは既定路線ではあったけど、一欠片の不安とそれ以上に幸せな様子が見て取れるので安心感の方が強い。


Lily and Coke, I like Coke.


リリィとコーラ、私はコーラが好き。


という投稿には巨大な容れ物に並々と注がれたコーラと、サナちゃんと米軍所属の女性巨人リリィが笑顔で肩を組んで乾杯している。

その前にはグラスより遥かに小さく、驚きの顔でバンザイするスター達、サイズ感を表現するのにスターを使うなんて・・・


「ふふ・・・」


微笑ましい投稿に口元が緩む、そしてサナちゃんがコーラ好きだなんて事も知らなかった自分が本当に情けないと感じた。


「これは戻らない」


「ですね」


「はー、クリスマスだもんな、世間は・・・」


「え?」


ああ、今日はクリスマスだったのか、サナちゃんの投稿にも書かれているのに、そんな事も忘れてしまう程最近は日付の感覚が薄かった。

私に限らず自衛隊や警察、消防辺りの関係者は皆疲弊していた。



***



クリスマスの日に開設されたサナちゃんのSNSアカウントは瞬く間に世界を駆け巡った。

年を越した頃には片フレンドが2000万人を超えて、投稿につくコメントも数千と桁違いの賑わいをみせていた。


New clothes and underwear arrived.

新しい服と下着が届きました。


I'm studying and training for the military.

軍の勉強と訓練をしています。


Papa's homemade pizza is delicious!

パパのお手製ピザ美味しい。



世界各国の様々な言語でコメントが着いて、基本は「デカイ!」「ワオ!」「マジかよ!」「可愛い」「勉強頑張って!」といった巨人生活のサイズに驚くものと好意的なコメントが多い、逆に日本語のコメントは半数が否定的なもので目立つ。



日本から逃げ出した癖にいい身分だな。


お前は日本人なのか? アメリカ人なのか?


呑気にピザなんか食うな。


日本の税金返せよ。



「・・・」


日本は東京が壊滅状態で国民の不安やストレスが政府や自衛隊に向かうだけでなく、サービス業へのクレームや喧嘩等の暴行事件の頻発、これらが数字にも現れている、つまり治安が徐々に悪化していた。


東京災害が起きた日から東京の状況は毎日のように報道されていたけど、それが日常になって()()てくると矛先が変わっていった。

批判が政府、自衛隊、警察からサナちゃんへも向かった。


東京災害の当日、サナちゃんは天王洲基地を飛び出して両親を救出しに行った。

その際、他の一般人の助けを求める声を無視して逃げた、と批判されたのだ。

スマホで撮影された動画は数百件にも上り、それ等を分析して見えて来たのは、サナちゃんの冷静な周囲への配慮だ。


移動経路は天王洲から海沿いに北上、川沿い土手を遡り、道路は中央分離帯を歩き御両親まで辿り着いていた。

移動の際の人的被害は皆無、物損として港湾の岸壁が一部破損程度だ。


助けを求める声を無視したと言うのも、サナちゃんを見上げる視点で撮影された動画が多数存在していて、道路上には人と車が溢れ返っているのが確認されている。

こんな状況でサナちゃんに出来る事など無い、人を持ち上げてもたかが数人だし、戦うのもリスキー。


ただ一点、()()()()()というだけで、助けるべき、戦え、などと言われる。

仮にあの場に自衛官1人居たとして何が出来ただろうか、きっと何も出来やしない。

場の混乱、人と化物との距離、速やかな離脱は賞賛されるべき行動だった。


そこから元来た道を辿り、天王洲を経由して神奈川県横須賀米軍基地へ。

米軍基地では女性巨人リリィが彼女を迎えて、程なく空母で日本の地を去り渡米した。


サナちゃんが日本を見捨ててアメリカへ逃げた、なんて言い掛かりも甚だしい。

しかし当時の混乱、化物への不安とストレス、捌け口を求めた結果がSNSのこれだった。

テレビでは直接的な表現はしないものの、日本の為に出来る事は・・・、などと批判的に当て擦る内容もある。


政府や防衛省がこれらに関する声明を出す事も提案されたけど、サナちゃん以上に批判に曝されている政府の発表など、火に油を注ぐ結果になりかねない事から静観する事が決定された。


勝手なコメントに怒りを感じるけど、楽しそうな様子が投稿されているので、私は複雑な思いをしながらサナちゃんのアカウントを眺めていた、もう他のコメントを見るのは止めよう・・・


世界中で誰からも好かれるなど有り得ない、サナちゃんは片フレンド数が2000万人を超えているので余計に目につくだけだ。



「サナに掛かった費用、払う? Hahaha!」


SNSは当然把握しているのだろう、税金返せに対する皮肉、アメリカの交渉担当官が飛ばしたアメリカンジョークは全く笑えなかった。






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