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巨人になった私  作者: EVO
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小夜 3

東京災害の大混乱、サナちゃんの渡米、そして背広組の横領と情報隠蔽、あれから嵐のように時間は過ぎた。


横領した背広組の2人は配置換えを受けて、東京に残る住民の立ち退き交渉に当たらされる事となった。

懲戒解雇が妥当な案件も、この非常時にただでさえ自衛隊の信用は失墜している中で公表出来ないと判断されたのだ。


化物が闊歩する東京に今でも残る人は()()()()だ。

私も何件か応援で交渉しに行ったけど、


自衛隊が戦って守るのが筋だろう

戦いもせずに何やってる

あの大きな奴(巨人)は戦わずに逃げたのか

こんな所で油売ってないでお前も戦え


などと厳しい言葉をいただく。

そういう意味では、他人事のように横領していた背広組にとって、現実を叩き付ける良い処分になっているのだけど・・・



***



米軍からは空爆の必要性を説かれ。

東京では約400万人を超える死者・行方不明者の捜索救助、道路を塞ぐ放置車両の撤去。


これらの障害となる第二級敵性生物(カテゴリー2)と呼称される化物は()()()小柄で小銃でも倒せる、第一級敵性生物(カテゴリー1)は米軍情報でミサイルを多数撃ち込むことで倒せる怪物中の怪物で、空爆を止めている日本側に打てる有効打は無い。


化物を倒すには空爆が必要、しかし空爆を行うには行方不明者が多過ぎる。


「生きているかも知れない」


その可能性がある限り日本が空爆を許す筈が無い、しかし日に日に化物は増え続けている。

各戦線でも第一級敵性生物を出来るだけ刺激せずに距離を取り、第二級敵性生物を間引く程度しか出来なかった。




情報提供されたワシントンDCでの米軍の活動は理想的だった。


州兵と米軍が第二級敵性生物を排除、巨人兵が放置車両や死骸を取り除き、電撃的に展開された作戦で数日の内にワシントンDCに取り残された国民をほぼ救出したという。


その速度は結果的に最高の戦果を得た。

災害から10日以降に現れた第一級敵性生物に邪魔される事なく国民の移動を終えた為、歩兵や戦闘車両の損失は皆無、遠方からの爆撃による封じ込め作戦を成功させた。


日本はその真逆、自衛隊の展開は遅れ、避難も遅れ、救助も遅れた。

混乱から立ち直った段階で既に数日、編成を整え漸く動き出したところで【穴】から第一級敵性生物は現れ始めた。

化物に阻害されるので放置車両の撤去も、捜索も救助も苦戦続き、対策会議で席を与えられていた私に求められるのは巨人の支援があった場合の助言だ。



「自衛隊が車1台レッカーで動かすのに何分掛かりますか、巨人が居た場合数秒で撤去可能です、レッカーに載せる必要すらありません、当該地域の住居及び財産は放棄されているので適当に道路以外に置けば良いのですから」



はあー、とため息が会議室を埋め尽くす。

作戦の鍵は巨人の存在だった、1()()()()()()()自衛隊の活動も相当活性化する。


「アメリカから返事は?」


「芳しくありませんね、あちらとしても【穴】から化物が溢れ続けているのは変わりませんからね、巨人の派遣はNOとしか返ってきません」


「その、・・・()()は?」


()()に関しては前回と変わりません、「サナ・佐藤は米国籍を持つ合衆国国民である、国民の安全を守るのは国の務め、本人の意思は最大限尊重するが現状貴国への渡航は許可出来ない」と」


アメリカ人男性と日本人女性のハーフであるサナちゃんは二重国籍、日本国籍もアメリカ国籍も持っている。

現状アメリカ側から日本へは渡航制限レベル4、当該国からの退避勧告が発令されていた。

世界一安全な都市であった東京は今や世界でも有数の危険地域として見なされている。

殆どのアメリカ人は国外へ退避したし、国内に留まる人も東京からは離れた土地へ移った。

危険地域として認識されている為、国民を日本へ送る訳には行かないと言われているのだ。


「これは、オフレコなんですけど・・・」


「なんだ?」


「相手の交渉担当官とランチを摂った時に「僕達もそれなりに情報収集しているけど、仮に国が渡航許可を出したとして、あの子が日本に戻ると思ってるの?」と言われまして・・・」


「「「・・・」」」


「あ、誤解しないで下さい、彼は純粋に疑問を口にしただけです」


言葉も無い、引き抜きの基本は現状より好条件を提示する事。

東京災害のあの日、神奈川県横須賀米軍基地には米軍所属の巨人が確認されている。

アメリカ唯一の女性巨人が日本に、これは偶然でもなんでもなく、明確な意図をもって派遣されたアメリカによるサナちゃんの引き抜き工作と考えて間違いない。


『あの子の自衛隊の給料は年俸27000ドル(約320万円)くらいかい?

米軍は彼等巨人に最低月給15万ドル(約1780万円)を確約しているよ?』


高額の報酬はアメリカ合衆国から巨人である彼らに対する期待の現れだ。

事実ワシントンDCでの救出作戦の中核は彼らで、道を塞ぐ車両や死骸の除去が速やかだからこそ、米軍が速やかに数万人を救い出している。


今の日本で巨人の助力を得られる対価なら安いと感じる額でもあるけど、仮にサナちゃんが自衛官として自衛隊に所属した場合に、これらの報酬を支払う名目が無い。


民間企業なら可能だったかも知れない、自衛隊、ひいては防衛省の給与体系に巨人に対する特例措置を差し込む必要があった。


交渉担当官のそれなりに情報収集しているけど、なんて謙遜もいいとこだ、正確な情報で的確に日本国内を分析している。


サナちゃんの生活費は私も把握している、月給15万ドルは決して高額じゃない。


住居費は一旦置くとして、食費と光熱費、水道、そしてオーダーメイドになる服飾費、細々とした雑費を計算していくと、まあ12万ドル前後は必要になる。


積み立てに3万ドル、月々300万円の貯金は一般的な金銭感覚だと大金だ、しかし巨人の支出額からすると一般人にとっての3万円と同等の価値に近い。


アメリカは契約社会だ、だから確約しているベースが15万ドルで他にもオプションの条項は絶対に存在している。

例えば米軍在籍を前提に、任務参加する毎に追加報酬、危険手当、傷病手当、対外的な代理人契約、恐らく月々の報酬は20万ドル前後になる。


防衛省で給与体系の見直しを行ったとして、2000万円以上を出せるかという話になるのだけど。

現状では必要だから出せる、平時ならどうか、防衛費については常々削減の声が挙がる、平和になったら出せない減らせと必ず言われるだろう。


そもそもサナちゃんが日本へ戻る保証は無いし、巨人だからという理由でたった1人の未成年の女の子を危険地域で労働させるのか、疑問は尽きない。


これは日本だけでなくアメリカでも同様の問題が考えられるけど、あちらには成人済みの米軍所属巨人が5人居る。

仲間意識は確実に働くだろうし、配置の自由が利くので仮に軍属になっても危険度の低い、考慮された任務が当てられるのは容易に想像が着いた。


だからこそ巨人の派遣とサナちゃんの帰国は切り分けてアメリカと交渉している。

しかし担当官の報告に明るい材料はなく、会議室の面々は沈痛な面持ちでため息を吐いた。


日本と自衛隊にはわるいけど、私はサナちゃんが戻らないことを願っている。

1人はきっと寂しい、もし日本に巨人が複数居たらまた話は変わっていたけど、その仮定は無意味だ。






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