飛びます翔びます
私の爪先にはマニキュアが塗られていた。
ハイスクール名と校旗、星条旗のデザインマニキュアで、今回夏のバカンスを前に、休校して任務に行く事となった私にクラスメイトが塗ってくれたのだ。
念の為リリィに確認を取ると
「あん? 付け爪はマズイけど、マニキュアくらいなら好きにしなよ、爪に色塗った位で誰もガタガタ言わないよ、任務に支障もない」
との事で、張り切ったみんなが餞別にペイントしてくれたのだった。
「いいね、アガるだろ?」
「うん、アガるね!」
ニカっと笑うリリィに私も笑顔を返しながら着替えを始めた。
今回の装備は全身スーツのマルチタクティカルスーツ、修復したジャケットと新造された胸当て、ガントレットとグリーブ、ショートパンツにブーツ、そして大小の刀だ。
高高度移動の為、呼吸支援のスカルフェイスマスク(マゼンタに塗った)と前回の敵の体液で目潰しされた対策品としての電子ゴーグル。
そしてインカムとHUD搭載コンタクトの完全装備で出立となる。
リリィとライアンもほぼ同様の装備で、武器はリリィが量産された刀2本、ライアンは刀の技術を応用して造られたハンドアックス2本を装備した。
空輸される都合上ライアンの戦場槌は重量が問題となる、全員が刀だと打撃力に欠ける為、これらの構成となっている。
「最初に青いフック、次が黄色、最後が赤だ、いいね?」
「OK、万が一引かなくても規定の高度を下回ると自動で開くんだよね?」
高高度からのスカイダイビング、私は当然訓練なんてしていないので事前のレクチャーは入念に行われた。
まあほぼ全部自動だけどね、指定座標で飛行機から切り離されて落下、安全装置があるので私がパラシュートを開かなくても勝手に開くようになっているので不安は無かった。
いや、不安はあった、これよこれ・・・
滑走路にはソニックブーム・テクノロジー社製造の極超音速旅客機、機体に無造作に取り付けられた紐、・・・紐?、と私は繋がれている。
これから翔ぶ訳なんだけど、テイクオフまで走ってついて行くなんて聞いてないよ!?
計算上は大丈夫? そんな答えは聞いてない!
「お、サナのフェイスマスク良いな、俺もペイントすれば良かったな、ピンクか?」
「ピンクじゃない、マゼンタだよ」
「お、おう? そうか」
「ライアン、サナ、準備はいいか?」
「OK!」「OKだ」
並びはリリィ、私、ライアンの順で、それぞれ1人が1機に吊るされる形だ。
『月並みだけど、幸運を祈るよ』
『行ってこい、そして帰って来いよ』
アンドリューとランディが見送りに来てくれた、ママ達とは事前に挨拶を済ませている。
キィィィィィ———————
高周波の音は遠い、ここまで飛行機と近いと騒音はかなりものになるけど、インカムとフェイスマスクのサポートでかなり軽減されている。
「じゃ、お先」
ゴォォォォォと轟音を挙げる飛行機の後をリリィが走って追従する。
・・・めちゃくちゃシュールだ、これもう少し良い感じの離陸出来なかったのコレ?
大きな台車に載って引っ張って貰うとかは、製造が間に合わないって言われたけど、これはちょっと、ねえ?
『Next.サナ』
「はい!何時でもどうぞ!」
管制からの指示を開始の合図に飛行機は加速を始めた、私はゆっくりと少しずつ加速する、ワイヤーが張った所で相対速度を合わせて追従した。
「速っ、これ、転んだらヤバイんじゃっ」
中々の速さで引っ張られているので、そんな不安が一瞬頭を掠めた。
まあそんな事態になる前に、テイクオフスピードに到達した極超音速旅客機に吊られて私はアメリカの大地を離れた。
尚、
『ぐわぁぁぁぁーーー!!』
「ライアーーーン!?」
フィジカルモンスターなライアンは油断からウッカリ蹴つまづいて転んだ。
飛行機は急に止まれない、そのまま引き摺られてテイクオフしたらしい。
幸い、私達巨人特殊部隊の装備は転んだり引き摺られたりした程度でどうにかなる装備では無いので無傷だったみたいだけど。
何やってるのライアン・・・
***
最初は切り揉み状態で安定しなかったのも、慣れてくると腕を広げて全身でバランスを取って飛べるのでこれはこれで面白いかもしれない。
ドンドン加速と上昇していく機体、雲を超えて更に上へ。
すると装備が凍り付き始める、パキパキと全身に氷が付着していく様は中々体験する事は無いだろう。
スーツ、フェイスマスクと電子ゴーグルで覆われている箇所以外の頭部、つまり髪の毛にも霜が降りて冷たいけど、まあその程度。
巨人が種族として優れている部分はこれだ、環境適応力がずば抜けているので高高度でも一般人より受ける影響は少ない。
今回のフライトは私達を吊っている都合上マッハ5では飛べない、それでもマッハ4.5くらいは出るらしいのだけど、高度は上空6万フィート(約18.2km)の高さで外気温は-65℃の世界だ、速度も考えると体感温度は更に下がる。
そんな環境にも耐えられるのは、私達が巨人化した際に起こる身体内部の変化に耐えきれる何か、つまり適応力があるという仮説があった、実際この環境に現在進行形で耐えているしね。
スーツとフェイスマスクのサポートもあって空の旅もそれなりに快適、同様の理由から海へのダイビングも数百mは素潜り可能と言われている。




