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巨人になった私  作者: EVO
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思い出の洗車

洗車(カーウォッシュ)と描かれたプレートを持って呼び込み、入って来た車を手洗い、拭きあげて料金とチップを貰う、Carwashはメジャーなアルバイトでありボランティアでもある学生の資金稼ぎだ。


先ずは学校へクラブ入会金を支払う、これは試合用ユニフォームのレンタル費用、お揃いの練習着、お揃いの靴、お揃いのフーディー、遠征費用等の概算で年間1500ドルから2500ドル程。


また、最初に支払う入会金とは別にクラブ活動の費用をクラブメンバーで稼いだりするのもアメリカ流。


合宿費用とかも自力で集める、周辺の民家を回ってクラブ活動に支援してくれませんか?と寄付を募る、地域で子供のクラブ活動を支えるという意識があるので割りと簡単に集まるらしい。

まあ宿代とかは練習相手先のクラブメンバーの家にホームステイするので掛からない、なので合宿費用と言うのは交通費を指す。

勿論ホテルに泊まることも有るけど、それはクラブの運営方針や学校、地域差もあるので一概には言えないけどね。


さて、今回問題なのは私のクラブ活動費用だ。

身に付ける物全てがオーダーメイドの私は当然クラブ入会金の費用では賄いきれない、どうやっても1着2000ドルは下らないので、トップス、ボトムス、Tシャツ、フーディー、靴で合計1万ドルは軽く超える。

それも1着ずつとはいかないので2万ドルから3万ドル・・・


まあ米軍の基本給が15万ドルだから払えるけど、そこで待ったを掛けたのがママとパパ、アリッサとコーチと学校だ。

ママとパパは自分達で費用を出すと言った、アリッサとコーチはクラブメンバーで手伝える事もあるはずだと言った、学校は支援の準備があると言った。


みんなが正しく、みんなが優しかった、当然私の収入から支払うのも筋ではあってそれは構わない話なんだけど、


「サナ、貴女を助けるのはアメリカよ、でも貴女が助けたのもまたアメリカなの、サナは周囲の善意を素直に受け止めるべきね」


学校からの説得を聞いた私は素直に支援を受けることにした。

話し合いの末、ママ達が1万ドル、学校から1万ドル、そしてチアリーディングクラブのみんなで集める1万ドルとなった。


でもなぁ、やっぱり自分だけ利益を与えられているみたいで申し訳ない気持ちもあるんだよねぇ。


チケットを1枚6ドルで売り、チケットを持って来た人の車をクラブメンバーみんなで手分けして洗車。

私はライアンから貰った大きな星条旗を振って人を集めたり、手の届きにくいルーフを洗ったりした。

飛び込みで来る人も居るし、本来大型車は受け入れないけど私の手が届くのでそれも受け入れた。

その際のチップや寄付を私の為に使ってくれる、嬉しいけどチームの為ではなく私個人に向けられたものだから・・・


「違うわサナ、これは恩返し、先に貴女が私達に与えてくれた恩を私達は返しているだけよ?」


「恩返し? 私何かしたっけ?」


「Ah...そこから、ね」


愚痴った私にアリッサと他のクラブメンバーはやれやれと肩を竦めて呆れた様子だった、どういう事か分からない。


「あのねサナ、此処は何処?」


「此処? ワシントンDC?」


「そうワシントンDCの郊外、近くに【穴】があって、モンスターも居るの、でも私達は無事平穏に日常を送っているわ、それはアメリカ陸軍(U.S.Army)のお陰だし、巨人特殊部隊守護者(ガーディアン)のお陰でもある事はニュースで誰もが知っているの」


「あのモンスターをやっつけてくれたサナには感謝してる!」


「知り合いや友達、家族を亡くした人も沢山居るわ、仇をとってくれたって喜ぶ人も居る」


「ウチの弟なんてモンスターが怖くて眠れないって言ってたのに、今はサナが街に居るから大丈夫!ってぐっすりよ?」


「流石にそこら辺の浮浪者とかがお金に困ってるから3万ドルくれ、なんて来たら、ハア?ってなるけど、サナは別よ!」


「みんな・・・、ありがとう・・・」


胸が熱くなり、じわりと視界が歪んだ


「ちょっと泣くなんて止めてよねサナ」


「もう、仕方ないんだから」


「え、アリッサ!?」


涙を流す私にアリッサがよじ登ってきた。

私は慌てて彼女を手で包むと、そのまま肩に乗せろと言うのでアリッサを肩へ移動させる。


「ほら、泣くことないじゃない、仲間でしょ?」


そう言うアリッサは私の頬にタオルを当てて涙を拭いてくれた。


「うん、ありがとう、私もっと頑張るね!」


「戦えって言ってるんじゃない、サナは大学行きたいんでしょ? クラブ活動くらいは私達に協力させてよ」


「・・・うん」


そう、私は大学に行く為にハイスクールに入った。

部隊のみんなが怪我をしたあの日、本業ではないドクターは真っ青な顔をしてランディの手術をした、勿論指導サポートにベテラン医師が数人付いての手術だったけど。

そんなドクターを見て、私は巨人を助ける医者になろうと思った・・・、アリッサには話をしているので彼女は知っている。


医大には莫大なお金が掛かる、特に私が目指す大学は名門私立ジョー・ポプキンス大学の医学部で年間の学費は56000ドル、日本円で600万円、4年で2400万円にもなる。

ママもパパも学費くらい出すと言ってくれたけど、この額の全てを甘える程私は無責任じゃない、18歳で大人になるアメリカで、ただでさえ私はお金が掛かるのだから学生ローンも選択肢のひとつだ。

学費免除の制度は恐らく高額な収入のある私は対象外となるので積み立てを始めている。


州立大学に通えば遥かに安く済むけどレベル差がかなりあるし、今の生活拠点ワシントン前線基地のホームから通える範囲で、巨人の私を受け入れられる規模の、高いレベルの医大、となるとワシントンDCからほど近いメリーランド州ジョー・ポプキンス大学くらいしか無かった。

この辺りはジョセフさんを通して大学と水面下で交渉して貰っているけど、それにしたって現役合格は絶対条件。


「ちょっとアリッサ、それ洗車タオルだって!」


「あ、いけない!ごめんサナ、でも抜群の吸水性!流石シ〇ムワオね、Fuu!!」


湿っぽくなった空気をクラブのみんながふざけて笑い飛ばす、アリッサもペロリと舌を出してコミカルなリアクションをとった。


みんなでケラケラと笑って洗車を沢山したこの日は、私にとって大切な一日となった。






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