トライアウト
ジム(体育館)でのトライアウトには50人以上が集まったみたいだ、チアリーディングって人気なんだよね。
皆、それぞれトライアウト開始時間が事前に伝えられているので全員が集まって順番に受ける訳では無い。
私はジムに入れないので他のクラブが終わって空く土のグラウンドで最後に受ける事になっている。
まだハイスクールのスウェットは完成してないので、防具を外した軍服姿、グラウンドの片隅を借りてストレッチを入念にしておく。
「Hi!サナ、これからトライアウトだって? 応援してる頑張って!」
「ありがとうサム! 頑張るね」
よく話をするボーイフレンド、サムはフットボールの中心選手だ。
先日行われたトライアウトでも合格をしていて、隣の芝生のフィールドで練習をしていた。
彼は拳を上げて構えたので、私も同じく握った手でそっとグータッチした。
さて、ジムの方のトライアウトが終わりコーチが移動してきたので私の出番だ。
ちょっぴりドキドキするけど陸軍のデビューの時より遥かに気が楽だ、失敗しても誰が傷付く訳でもない。
「Hi.サナ、早速だけど見せてもらうわ、貴女はスタンツは無し、タンブリングのみね、先ずは柔軟から」
「はい!」
チアリーディングのトライアウトは事前に課題が出されているので何をやるかは知っている。
指示された通りに動きを見せていく、体は元々柔らかかったしトライアウトに向けて毎日解していたので問題ない筈だ、縦にも横にも股割りをしてみせた。
「よろしい、続けて———」
タンブリングも基礎的な内容の、前転後転、倒立、ブリッジ、側転、バク転、バク宙と練習通り確りこなした。
「エクセレント、爪先も揃っていてとても綺麗だわ」
笑顔で頷いたコーチの反応も上々だった
「最後に何かアピールポイントはある? 言葉でも演技でも良いわ」
「はい、では演技を、ロンダードのコンビネーションをやります」
チアリーディングのタンブリングはレベルが設定されていて、トライアウトの内容はレベル2か3まで。
でも私は早々にライアンのコーチングのお陰(?)でバク転とか出来るようになったので、レベルの高いものを練習していた。
「いきます!」
ステップを踏んで、ロンダード、バク転、ダブルひねり、連続バク転・・・
両脚はきっちり揃えて綺麗に回ってみせる、そして最後にバク宙でクルクルと回り、グラウンドを壊さないように優しく着地をしてポーズ、よし成功した!
「WOW!マジかよ!!」
「すげぇの見ちまった!」
「最後の見た? 50mくらい跳んでたわ!?」
ギャラリーが大盛り上がり、口笛と拍手がグラウンドに響き渡った。
「ありがとう!」
少し恥ずかしいけど周囲の賞賛は素直に受け取って感謝を述べ手を振った、あっ、そういえばコーチは?
「し、伸身の3回宙返り? 土のグラウンドで・・・? OMG...」
「わー!? コーチ!?」
コーチは持っていたバインダーとボールペンを地面に落としてひっくり返ってしまった。
***
「サナ、貴女は何をしたか分かってるの?」
気絶したコーチは目覚めた早々に私を見て言った。
私は知らなかったけど、どうやら体操の床で最高の難易度は屈伸の3回宙返りでI難度が最高だったらしい。
「それも男子の難度よ、女子に出来る演技じゃないわ・・・」
「コーチ、私巨人なんで、その尺度は関係無いかと・・・」
「Ah...oh...」
ヤバイ、コーチが頭を抱えて唸り始めてしまった
「それに全力でやったら5回転くらい出来ますよ?」
「What's!?」
最後のバク宙の時の踏み切り、本気でやると地面を砕いて陥没させてしまうんだよね。
基地周辺の運動場なら雑に均して終わりだけど、ハイスクールのグラウンドは壊す訳にはいかない。
だから演技の練習よりは、踏み切りと着地でどれだけ壊さないかの練習の方が時間が掛かっている。
全力で踏み切ると高さも出るので5回転くらい回れる、でも余裕が少なくなるから着地もズドンとしちゃって地面を破壊してしまう。
踏み切りの強さ、それに応じた高さと落下の衝撃、何も壊さないでやれるバク宙が3回転で限界なのだ。
「OMG...Ninjaaa...OMGOMG...」
コーチが壊れて、オーマイガーしか言わない人になってしまった。
結局この後コーチが落ち着くまで10分程掛かった・・・
「他のクラブメンバーは明日合否発表だけど、サナは今言うわね、貴女は条件付き合格とします」
「条件付き?」
「ええ、サナ、私は、と言うよりハイスクールの先生方も出来るだけ貴女をいち生徒として扱うよう努力しているわ、それでも貴女は規格外と言わざるを得ない」
「はい」
「何事に関してもそれは貴女が1番理解しているでしょうけど、貴女を競技の枠で評価する体制が出来てないわ、つまりサナ、貴女は現状競技会に出場出来ない」
「はい・・・」
「将来的にはどうなるか分からない、演技をする会場の広さは決まっているから体の大きなサナは競技会に参加は出来ない、でもチアリーディングは競技会が全てでは無い」
「え」
「ハイスクールの運動系の応援もチアリーディングの役割よ、大会や対外試合、屋外のフットボール、サッカー、ベースボール辺りなら参加出来る、だから条件付き合格。
運営との話し合いは必要になるけど、それは私達の仕事だから気にしないで、・・・どう、やる?」
「あ、やります!」
「OK!! サナ、貴女の演技はダイナミックで素晴らしいわ、きっとみんなにパワーを与えてくれる、一緒に頑張りましょう!」
「はい、よろしくお願いします!」




