クラブとボランティア
私がハイスクールで入ったのは全生徒加入のボランティアクラブだ、他の競技系は体格差から参加出来ないし、基本的にアメリカのクラブ活動は4月か5月にあるトライアウトを受けないと入れない。
アメリカってクラブ活動はかなりシビアで、人気のあるクラブはトライアウトするのが普通なんだよね。
スポーツにもよるけど一軍20人、二軍20人のみとか、日本のように入部届けを出せば全員入れます、では無い。
トライアウトの時期を逃すと途中からクラブには参加出来ないので1年待つ事になる、今は3月なので1ヶ月は待たないといけない。
「サナ、今日のボランティアは何?」
「日本語学校のアシスタントだよ、アリッサは?」
「私は教会の掃除と手伝い」
ボランティアは週に何時間しなさいと課題で出る程アメリカでは習慣化された文化だ。
炊き出しや清掃、ボランティア活動に必要な資金を稼ぐベビーシッターに洗車もまたボランティア活動とされる。
私は英語と日本語が出来るので外国語学校のアシスタントをやったり、逆に日本人学校で英語を教えたりしている。
他にもお年寄りが住む家のD.I.Y屋根掃除や塗装を手伝ったり、公園の木々や街路樹をひっこ抜くのもやっていた。
特に力技系統は貰えるチップが高額で、全額ボランティアクラブに渡すととても感謝されて私も気持ちが良かった。
アリッサはハイスクールの見学の日に出会ったエブリンさんの娘で、チアリーディングクラブのメンバーで、私と同じブロンドのロングヘアーにメイクをバシっと決めた迫力美人だ。
あまり土地勘の無い私と何度かボランティアクラブで組んでくれて仲良くなった。
クラブなにやるの?と会話をしていた中で、周囲に気を遣うから運動系は難しいと思ってる、と言えば
「そんなこと気にしてるの? 何とかなるって!」
という所から話は始まり、チアリーディングに誘われている。
興味が無い訳じゃない、運動は、前は運動神経良くなかったけど単純に体を動かすのは好きだったし、巨人になった今は思った通りに動かせる体が面白くて仕方がないのだから。
「チアの衣装可愛いよね」
「ああ!確かにウチの衣装はここら辺では1番可愛いかも、来月のトライアウト受けてみたら!まあ私も落ちないように気を付けないとだけど!」
クラブ活動にトライアウトがあるのもだけど、前年度チアに居たからって次年度も大丈夫とは言えないんだよね。
1年契約みたいな形で、元のクラブメンバーもトライアウトを受け直すのが決まりになっている、勿論経験者が合格し易いのはその通りなんだけど。
チアの衣装はブルー、ホワイト、イエローを基調にしたノースリーブ、ミニワンピースみたいでかなり可愛い。
***
「って話があってね」
「へえ、チアか良いんじゃないか、やってみたらいいじゃないか?」
「経験者じゃなくても大丈夫かな?」
「そりゃあトライアウトの時にコーチが決める事だよ、演技構成とかもあるだろうし」
「そっか・・・、チャレンジしてみようかな、折角だし」
「チアリーディングのトライアウトって何するんだい?」
「えっと、スタンツ(組体操)とタンブリング(体操の床運動)だってアリッサは言ってた」
「となると、サナはタンブリングだね」
スタンツは2人から5人1組で行う組体操だ、当然私は参加出来ない。
ハイスクールではピラミッドは2段まで、人を空中に放り投げるバスケットトスは禁止されているので、ダンス、ジャンプ、モーション、スタンツ、タンブリングの内、スタンツとタンブリングが割りと重視される。
「うん、側転はまあ出来るけど、バク転とかは・・・」
「うん? サナは出来るだろ?」
「出来ないよ、やった事ない」
「この間の泥の巨人の時に前方宙返りと2分の1ひねり、やってたじゃないか」
あれは槌を躱すのに無我夢中で、確かに一回転と2分の1ひねってビルに着地していたけどさ。
「バク転はまた別じゃない?」
「そうか? 出来そうな気がするけど、じゃあライアンに教わったらどうだい?」
「ライアン? 出来るの?」
「出来るよ、あいつフットボール現役の時はタッチダウンする度にロンダードとバク宙して盛り上げてたからね」
oh...まあライアンってフィジカルエリート、ううんフィジカルモンスターだもんね。
という訳でライアンにコーチを頼む
「よし、やってみろ!」
「雑ぅ!出来ないからお願いしてるんだけど!?」
「Hahaha!!んな事言われても、俺はやってみたら出来たからな!」
このフィジカルモンスターめ!
「まあ、そうだな、サナは体が柔らかいから・・・、立ったままブリッジしてみろ!」
「えー、出来るかなぁ」
と、言いつつ直立から後ろに仰け反って手を伸ばす、あ、出来た。
「そこで地面を蹴れ!思い切り!」
「えい!」
ドンと地面を蹴るとグルっと回ってドタっと両足は着地した。
「Yeah!それがバク転だ、Good!!」
バッチン!とライアンとハイタッチ
「よし、じゃあバク転やれ!」
「だから雑!!」
「こういうのはな思い切りやった方が安全なんだ、ビビりながらやると頭打つぜ? 補助はするからやってみろ!こう、バッと!バッと!」
言いながらライアンは軽々とバク転を手本として見せてくれた、ゴツイ体格なのに足速いし、力はあるし、バク転も軽々と、これだからフィジカルモンスターは・・・
フォローはしてくれるので頭を打つことは無いはずだ、仕方なく私は思い切り後ろへ跳んだ。
「ハッ!」
グルリと視点が反転、手を付かないまま一回転して着地した。
「あれ?」
「・・・サナ、それはバク転じゃなくてバク宙だね」
「WOW!やるなサナ!よし!次はロンダードだ、やれ!」
だから雑なの、コーチングが!
巨人って本当に身体能力上がってるんだなぁと、再び自覚する出来事だった。




