ハイスクール
「Hi!サナ、今日もビッグね」
「やあサナ!いつも可愛いけど、今日はもっと可愛いね!」
「サナ!ちょっと聞いてよ」
「Hi.コリンナ、実は体重は減ったの、78kg」
「おはようサム、ありがとう、サムもかっこいいよ」
「朝からどうしたのリサ」
結論から言うと私はハイスクールにすんなりと受け入れられた。
見学の日は勿論大騒ぎになってしまったのだけど、授業が始まれば皆落ち着くでしょ、と思っていたら、大半の生徒が窓側に張り付くか外に出たままで私へ質問攻撃だったから授業になってなかったね・・・
結局午前中は私とハイスクールの皆との交流会となって、おしゃべりに興じたり、全校を上げた撮影会のようになったりと、受け入れられるか心配していた事など欠片も起きることはなかった。
校舎の目の前、トラックに置かれた私専用の席、というか人をダメにするクッションに座ってのランチタイムなんて・・・
「サナ、持って来たランチは分かるけど、そっちのトレーラーは何?」
「これ? コーラだよ、好きなんだ」
と言った瞬間、
「What's!?」
「OMG」
「OMG.OMG...」
「コーラ!? トレーラーでコーラ!? OMG・・・」
と、トレーラーからコーラを飲むのが余程衝撃的だったようで、皆大きいリアクションでOMGの合唱だ。
その後、絶句から回復した皆は爆笑、
「待って! 皆大丈夫だよ、これダイエットコークだから」
これはチャンスだと思って言い放った私会心のアメリカンジョークは、皆を呼吸困難に陥らせたのだった。
「What's!?」
「ダイエットとかそういう話じゃないから!」
「WOW!アン、ビリー、バボー・・・」
「OMG!!」
「因みに、ホームにはミルクのトレーラーもあるよ?」
トドメも効いたようでみんなゲラゲラ笑って私を受け入れてくれた、こうして私のハイスクール生活は始まったのだった。
「サナはコーラのスポンサーを受けてもいいと思うの、勿論契約金はコーラ」
「No,それは違うよ、契約するなら確り金銭で結ぶべきだ、現物支給はオプションだよ」
「取り敢えずギネスに登録したら良いんじゃないか? 一日で飲むコーラがkℓ単位なんて聞いた事ないよ!」
「サナはどう思う?」
「私? 私はペプ・・・」
「サナ、それ以上はいけない」
「え? でも、やっぱりコーラを語るなら、やっぱりペプs...」
「「「Nooooo!!!」」」
今はディベートの授業だ、何か題材を決めて反対派と賛成派に別れて討論する授業。
今回の題目は「サナがコーラをこの先消費し続けて良いのか?」という内容で、勿論私は賛成派で討論していた。
「やはり大量の砂糖は体に良くない、いくら巨人だと言っても許容量はあるはずだ」
「サナはダイエットコークだからセーフ」
うん、脱線してるね、まあディベートでは良くあることだ。
アメリカに来てから私はパパとママ、3人でディベートする事が習慣づいていた。
日本で私が色々と我慢していた事が、生粋のアメリカ人のパパからすると「自分の考えを持って、伝える力が無い、これではダメだ」となった事から始まった。
そのお陰か、あの泥の巨人と遭遇した日の出来事に関してパパとママは「サナを誇りに思う、頑張ったな」と褒めてくれた。
多分パパ達とのディベートが無かったら、コマンダーからの命令を聞いて帰還していたと思う。
まあそれはそれとして心配はするし、命令違反はダメだ、とも言われたけどね。
「私は毎日検診を受けているし、毎週血液検査もしてる、勿論健康に問題は無いよ。
将来的な視点でコーラを飲むなって言うならみんなは?
ステーキ半分にして、ベーコン薄く切って、ピザは1ピース、なんなら健康に良いから毎食オートミール、我慢出来る? みんな今は元気だよね?」
「oh...それは僕には無理だ、意見を撤回する、サナはコーラを飲んでいい」
「私も撤回するわ、毎食オートミールはムリよ」
「待て、論点がズレている、僕らがどうって話じゃなくて、サナのみについて論ずるべきだ」
「確かにテーマはサナの事だけど、私達の事を棚上げするのは卑怯よ、私達も同じ視点を持つべきだわ」
私の意見は数人を賛成派に引き込む事に成功した、それでも反対派はまた別の考えでコーラは飲むべきではない、または減らすべきと討論は白熱した。
***
「でね、コリンナったら」
「ふふ、そうかい」
「あ、そう言えばハイスクールのみんな、かなり好意的な気がするんだけど、なんでだろう?」
ハイスクールへの中途編入、しかも巨人、私は受け入れられない可能性も決して低くはないと思っていた。
町の人だってそう、大半がとても好意的で私の通学に合わせたランニングコースで走る人も居る。
「んー? そりゃあ簡単な事だ、ハイスクール内で人気者は美人・スポーツマン・勉強できる・金持ち・有名人、大体コレに当てはまる奴は虐められない」
「筋肉ある奴も追加で」
「そりゃあスポーツマンに入るだろライアン」
「リリィが挙げた理由に追加で、性格というか自信のある人もいじめられないね」
「ベースボールをやっていればいじめられない」
「いやあランディ級のプレイヤーの話は参考にならないでしょ」
「サナは・・・、全部当てはまってるから虐められるわけないねえ」
「少し押しが弱い感じは気になるけど、そうだね」
部隊で軽い運動をしながらリリィと話をしているとみんなが混ざってきた。
クラブ活動で活躍していたであろうランディとライアンは言わずもがな、アンドリューは温和な見た目から標的にされやすかったらしくランチ片手に歩いていると背中に飛び蹴りされた経験があるらしい、リリィは根明でそういった事には無縁。
「ん、全部?」
「全部だろ? 美人で運動神経抜群、勉強はブランクの割に出来てるし、金持ちで有名人だ」
「映画だったらイヤミみたいな設定だね」
「ごちゃごちゃ理由を付けるんならそうだろうけど、ぶっちゃけサナが強いからだろ。
サナに後ろから飛び蹴りする奴が居るか? 廊下でわざわざぶつかって来る奴が居るか? オートミールをぶっ掛けて来る奴居るか?居ねえだろ、何故ならサナは強えからだ」
「ライアンの乱暴な考えも一理ある、アタシは純粋にリスペクトされてるからだと思うけどね」
「リスペクトって?」
「サナの年齢で米軍に所属する奴なんて居ないよ、ましてや今はモンスターが溢れる非常時、前線で国の為に戦っているサナはリスペクトされて当然さ」
「確かに、僕らは社会人から米軍の流れだけど、サナは米軍から学生だから、現役高校生からしたら自立した収入を持つ大人とも捉えられるかも」
「社会貢献は国民の義務と言えるからな、高校生ならボランティアは必ずやっているだろうが、俺達巨人部隊の任務だって十分社会貢献している、それを周囲が理解している、つまり広報も仕事はしている、ということだな」
「モンスター倒してるけど、やんのか?って胸張って良いんだよサナ」
「そいつァ勝てねえな、世界広しと言えどモンスター退治をしている高校生なんてサナくらいだぜ、Hahaha!!」
「サナは作戦の時と日常でかなり違うよね」
「泥の巨人とのバトルは勇ましい戦士だな」
「う、あの時は、ごめんなさい」
あの時は柄にもないと言うか、一種の興奮状態だったと今なら分かる。
いけると思ったら不用意に敵に突っ込んでいたし、結果論では良かったけど、要所要所で冷静でない場面があった。
どうやら経験の浅い兵が実戦時に割りとある事らしく、弾丸が無くなるまでトリガーを引き続けたり、ボーッと立ち尽くしたりと、私のあの行動は想定の範囲内だったとか。
かなり叱られるものだと覚悟していたのに、まあ16、7の新兵が実戦デビューしたらあんなもんだよな、と口頭注意くらいで済んだのだ。
「責めてない、褒めてんだよ」
「だな、また頼むぜ侍女」
「また、って、もう違反はしないよ・・・」
反省はしてる、でも後悔はしてない、ってやつだね。
て、ライアン、サムライガールって何さ?




