あれから
あれから1週間、私はオンライン家庭教師を付けて貰って勉強をしていた。
あの戦いの後、思う所があった私はハイスクールに通いたいとの希望をリリィとジョセフさんに相談すると、あっさり許可が下りたのだ。
3月は編入するには中途半端な季節だけど、相談した当日に大統領まで話が行き、次の日には入学可能なワシントンのハイスクールが幾つかリストアップされていた。
問題もあった、国籍だ。
両親が日本人とアメリカ人なので二重国籍の私がアメリカのハイスクールに通うには細々と問題があるらしく、日本の高校は1年生の夏に自主退学といった事になっていたので編入学という形が取れない。
アメリカ国籍を選択して州民登録をすると全て解決、簡単にハイスクールへ行けると担当エージェントのジョセフさんが勧めるので、これまで国籍を選択していなかった私はアメリカ国籍を選ぶ決心をした。
勿論ママとパパとも話し合いをしたけど、こちらは良いんじゃないかと解決、まあ今の生活環境だと日本に戻るメリットないもんね。
リリィは肋骨にひび、アンドリューとライアンは全身打撲、ランディは鎖骨骨折からの手術と巨人部隊は一時活動を休止していたのもタイミングが良かった。
武器もマチェットと警棒の破損、ランディの怪我、刀の量産化決定、そしてライアンの槌が真っ二つに壊れた事も休止の理由だ。
私が最後に斬った泥の巨人、硬質な手応えはどうやら槌を盾として構えた奴ごと斬ったみたいで、鋳潰して再整形しないとダメだとか。
防具の事も有るし、諸々の理由から空いた時間が出来たのだった。
「勉強はどうだい?」
「うん、先生も優しくて丁寧に教えてくれるから何とか」
「課題も出てるだろ? 分からなかったら聞くんだよ」
「ありがとう」
そんな訳で絶賛勉強中だ、入学は同じ年齢の高校2年生、アメリカで言う11回生への入学だ。
半年以上勉強から離れていたので復習と抜け落ちた箇所、そして予習も含めて課題は多い。
私以外の部隊のみんなは全員大学まで出ているので、分からない所は遠慮なく頼っている。
「明日はハイスクールに行くんだろ? 早目に寝るんだよ」
そう、明日はオープンキャンパス、ハイスクール見学の日だ。
アメリカでは10年前から電子黒板が導入されているのでタブレットでオンライン授業は受けられる、でも折角だからとハイスクールへ通うのも許可が下りたのだ。
対象は資金力のある比較的広大な施設を持つメジャーな私立高校、このワシントン基地には地元出身の軍人が多いので話を聞いて2校まで絞っていた。
***
髪型オールバックポニーテール、トップスはへそ出しTシャツとデニムジャケット、ボトムスはジーンズ、靴はスニーカー。
アメリカ陸軍のキャップを被って、バックパックを肩に準備万端だ。
「どうかな、普通の高校生に見える?」
「ああ、完璧な普通の高校生だね」
「サナ、へそは隠した方が良いんじゃない?」
「これくらい構わないだろう、似合ってるよ」
これぞアメリカの標準的ティーンの格好を目指した私の姿は、ハイスクールにも溶け込める完璧なファッションだ。
リリィからは太鼓判を、日本人のママはへそ出しに反対、アメリカ人のパパはデニムジャケット着てるしへそ出しくらいはと特に構った様子もなかった。
朝食を摂って身嗜みを整え、ママ、パパ、リリィに見送られて私はオープンキャンパスへと出発した。
「いってらっしゃい」
「~~~っ、行ってきます!」
まさかこんな生活がまた送れるようになるなんて、胸の奥に暖かいものが満ちた私は笑顔でホームを後にした。
「♪」
鼻歌を口ずさみながら軽いジョグで数十km先のハイスクールへと向かう、左右には基地の戦闘ヘリ2機が併走していた。
アメリカで子供を1人でスクールに送り出すことは有り得ない、スクールバスか親が送るのがポピュラーで、その土地の治安次第ではあるけど余程の近所でない限りは1人で歩かせないのだ、特に女の子は。
私は身長15m以上あるから襲われる心配は無いと思うんだけど、体の大小関係無く女の子は1人で歩かせるべきでは無いと言われ、結果軍のヘリが一緒に動く事になった。
・・・そこまでする? なんて思ったんだけど、前回の新型敵性生物、泥の巨人の出現で巨人部隊と通常戦力の連携は課題だとなったらしく。
一定の距離を保って支援する訓練も兼ねて、こうして私の左右には戦闘ヘリが併走する事となっていた。
うーん、世界で1番強い護衛かな?
「これで安心ね」とママは笑った、襲われないと思うんだけどね、と言うと、
「何歳になっても、大きくなっても、サナは可愛い私達の娘なんだから心配するに決まってるわ」
と言って譲らなかった、パパも同様で、本当に心配性な両親なんだから、えへへへ・・・
郊外でも人の少ない地域からハイスクール近くの民家が多くなる地域へと入るとヘリは高度を取って離れた、私はジョグを止めて歩く事にする。
日本、というか東京とは違って、ゆとりのある大きさのアメリカは余程の中心都市でない限り、町中でもそれなりに歩き易い。
「WOW!サナ!? 巨人サナ!?」
「オーマイガー、is it real?」
「Hi! goodmorning、サナ」
それなりに早い時間なので散歩をする人やランニングする人が驚いて此方を見る。
家の前でミルクを飲んでいる人も大袈裟に吐き出したりしていた、あとはギョッとするのも一瞬で普通に手を振ってにこやかに挨拶してくる人もかなり居た。
私は殆どテレビを見ないけど、軍の広報でそれなりに映像は提供しているらしく、定期的に巨人部隊関連のニュースは報道されているらしい。
チラチラと遠巻きに見たり、勝手に写真撮ったりする事はあまり無く、ハーイ!と声を掛けて来る人が多いのは国民性なのかな?
信号が赤になって待っているとヨガパンツとキャミソール姿のふくよかな女性が話し掛けてきた。
「Hi!貴女サナ・サトー? 私はエブリン、こんな所で何してるの?」
「は、Hi! ハイスクールの見学に向かってるんです、この先の・・・」
「ワオ! 本当に!? 何回生? ウチの娘も通ってるのよ!?」
「マジ? 俺の息子も行ってるんだ」
「え、巨人サナがハイスクールに!?」
「一緒にランニングしようぜ!」
私が近くのハイスクールに行くと言った途端、エブリン以外の周囲の人も会話に混じって盛り上がる。
その場でスクショを撮り、さらに盛り上がった集団は、何故か私と記念ランニングする事になり、ハイスクールまで一緒に行く事になったのだった、因みに全員知り合いではない。
いや、なんで??
「脚長いねサナ!とてもセクシーだ」
「私も若い頃はサナみたいに美人でビッグだったのよ、今は何故かこんなにちいさくなっちゃったけどねHahaha!」
「サナ待って!そこのカフェのコーヒーとても美味しいんだ、Hey親父!コーヒー瓶ごとくれよ!」
いや、なんで!!!???
この後めちゃくちゃ盛り上がった。
ホットドッグ食べながらミルクを片手に追い掛けて来る人も居た、流石アメリカ、と言うのは思考停止が過ぎるだろうか・・・




