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巨人になった私  作者: EVO
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戦闘4

間に合った!

ビルディングをバルクールで一直線、泥の巨人と交戦していたみんなは満身創痍、ボロボロだった。

ライアンはボディーアーマーがメタメタで、アンドリューも全身ボロボロ、ランディは左腕を固定しているし、見た目なんともないリリィは座り込んで脇を押さえていた。


『こちらコマンダー、まだ1体新型は残っている、戦闘続行は可能か?』


「・・・僕は退くべきだと思うけど」


「俺だって退きたい所だが」


「・・・」


「アタシは反対だ、っごほ」


『理由は?』


「簡単だ、アタシらは手札を見せ過ぎた、アイツは・・・、特に遠くから戦闘を観察していたように見えた、やるなら今だ、先延ばしはどんな知恵をつけて来るか分からない」


「確かに、ランディの鉄球を投げてくるわ、その後は3体を斥候替わりにしているかのような動きだったな、殴り合いも見られている、まずいかもな」


「だが僕とライアンは兎も角、ランディとリリィは大怪我だ、リスクは高いぞ?」


移動しながらイブから戦況は聞いていた、泥の巨人はやはり高い学習能力で格闘、足運びを憶え、みんなは手痛い反撃を食らった。

しかも倒した3体以上に、今爆撃を受けて足止めしている泥の巨人は頭が良いとの事で意見は分かれた。


「じゃあ、私がやるよ」


「サナ!?」


「ダメだ」


「No.そいつぁ聞けねえぜサナ」


「サナ、今度こそ退くべきだ」


私の言葉にリリィは驚き、ランディは否定、ライアンも首を横に振り、アンドリューも賛成しなかった。


「でも、私の動きはまだ見られてない、やるなら私が1番警戒されていない筈だよね?」


「だからってサナ!」


声を荒らげたリリィは脇腹を押さえて咳き込んだ、かなり痛そうにしている、もしかしたら骨が折れているのかもしれない。


「リリィ、・・・嘘つき」


「うっ」


私は確かに戦う前提では無かった、補給役のポーターが本職で、撤退も理解出来る、でも、だからって後ろを向いたらみんなが居ないなんて酷いよ。


辛かった。


日本で1人きりの巨人、横須賀基地でリリィと出会い、アメリカに来てみんなと軍に入って、オートミール食べて、ピザ食べて、コーラ飲んで、訓練して、笑って・・・


今更みんなを、隊の誰か1人でも欠けるのなんて私には、きっと耐えられない。


ママとパパにはきっと心配を掛けてしまう、戦わない前提だったから、ごめんなさいママ、パパ。


私は太刀を抜く、ィィィィン、スラリとした刀身、初めて握った時は恐ろしかった。


「勝つんだ、彼奴を倒して」


今はとても頼もしい。

訓練はして来た、大丈夫、私は、・・・斬れる。


「みんなと帰るんだ、絶対に!」


逃げるならみんな一緒に、戦うなら私1人でも、私は覚悟を決めた。


「「「「・・・」」」」


みんな口を閉じて何も言わなかった、爆撃の音と衝撃だけが近くで響いている。


「OK.サナ、仕方ねえな」


「ライアン!」


「ふう・・・、大人としては止めるべき何だろうけどね」


「アンドリュー!」


「俺はもう投げられない、助けてやれないぞ」


「うん、ランディ!」


「あぁ!クソッタレ!何奴も此奴も勝手な奴ばかりだよ、この隊は!」


「なんだよリリィだって撤退反対派だろう?」


「だからってサナを戦わせる選択肢はアタシには無かったんだよ!」


「諦めろ、今のサナの顔を見て誰が止められる?」


「分かってる、分かってるさ!」


「リリィ!じゃあ・・・」


みんな諦めたようにため息をつくと苦笑して頷いた、リリィは髪を掻きむしって1番のため息をついた。


「でもねサナ、怪我はなしだ!良いかい怪我をしたら今後、2度とサナを現場に入れない、良いね!」


「分かった、絶対無傷で勝つよ!」



***


各所へ通達が為され、程なく爆撃は止まった。

目前、数百m先には丸く蹲る泥の巨人、爆撃が止まっても警戒しているのかすぐには動く気配は無かった。


援護は無い、航空支援は勿論、まだ動けるアンドリューとライアンも距離を取っている。

刃物を扱う私との連携訓練が不十分で、下手をすると、ううん、確実に同士討ちになる可能性があるからだ。

あくまで私が受けた訓練は対モンスター、そして武器の扱い方と体の動かし方がメインで、隊員との連携訓練はほぼ受けていない。


リリィがマチェットを扱うのでみんなの方は合わせられるけど、私はどういった場面のどれくらいの間合いでどう立ち回ればいいのか分からない。

ましてやこれは実戦、ぶっつけ本番で私の間合いにみんなが踏み込むのはリスクが高過ぎた。


それでもアンドリューとライアンは間合いの外で、いつでも私をフォロー出来る体制を布いた。

リリィとランディは怪我の具合から離れた所で待機、・・・と言っても2人共納得せず、見晴らしの良いポイントを探して警戒&指揮というフォーメーションになった。


『サナ、常に最大限の警戒をするんだよ、彼奴はアタシらの戦いをたっぷり観察しているからね、ゴホッ』


「うん、リリィやっぱり下がった方が・・・」


『Hahaha!いてて、有り難い心遣いだけどね、クソ痛いだけで死ぬ訳じゃあない、大丈夫さ。

それにドクターに連絡もしている、あちらさんは慌てて手術の準備をしてるかもね』


「ふふ、私は切って閉じるだけだ、って言ってたけど・・・」


『アタシは脇腹だから仮に折れていても多分寝て治すしかないんだけどランディは鎖骨だ、手術は避けられないだろうねぇ、奴さん今頃慌てて医学書読み漁ってるかもしれないよ』


「うわ、そう考えると初めて(?)の手術が骨折の治療で、相手は元MLBの一流投手ランディ?」


『くく、伝説的左腕の治療、絶対に失敗出来ないね』


『・・・止めてくれ、縁起でもない』


『無駄口もそこまでだ、動いたぜ』


ゆっくりと間合いを詰めていた私にライアンの通信が入った。

戦闘機や爆撃機が足止めの為に落とした弾やミサイルの不発弾が無いか、ライアンとアンドリューが斥候として周囲と道路の確認をしていたのだ。


お腹を抱えるような体勢で丸まっていた泥の巨人はゆらりと立ち上がった。


『あれは、僕の・・・』


その手には曲がって歪なものの、アンドリューの警棒が握られていた。

あれは多分、私が補給として新品と交換、その後新手の襲撃を受けて放棄した物だ。


「Grrrrrrrrrriiri...」


相も変わらずガラス玉をはめ込んだような瞳は何を映しているのか分からない、唇は無く、歯は剥き出しで、生理的に怖気の走る見た目だ。

体表の泥は黒焦げ、あちこちがそれなりに抉られているけど損なわれている様子も無い。


じわりと汗が滲む、1度ゆっくりと息を吐いて、吸う。

刀を握り直した私は泥の巨人に向けて速度を上げた。





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