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巨人になった私  作者: EVO
43/119

戦闘3

ライアンとアンドリューはスイッチして片腕の折れた巨人をアンドリューに、アンドリュー側の巨人の方へライアンが殴り掛かった。


「フッ!」


ゴッと鈍い音が響く。

右のフルスイングをフェイントに直前で斜めにダッキング、左のショートフックが綺麗に顔面を捉える。


「シッ」


右のレバーブロー、左のジャブにショートアッパーと細かく左右上下に散らすコンビネーションに泥の巨人はなすがまま殴られた。


やっぱり初見の技巧は面白いくらいに決まる、但し呑気にしているとコイツらは恐ろしい速度で学習して行く、常に見せた事の無い技を繰り出すか一撃で仕留めるのが上策だろう。


「Gyyyyyyyyy!!!」


ヤツらの反撃もやはり拙いもので右か左の大振りフックかチョッピングのストレートのみ、力は恐ろしいものがあるけど当たらなければどうということはない。


アンドリューの方も上手くいなしながら、折れた腕側へ回って膝を何度も叩く、お手本の様なヒットアンドアウェイだ。


ガラスの目玉(?)と剥き出しの歯、全身は泥のような、というバケモノフェイスなので表情が分からないのが不気味だ。

効いているのか、効いていないのか、・・・いやライアンの言う通り倒れるまで殴れば倒せる、と言うのはその通りなんだけど、警棒やマチェットがあまり効かない相手を素手でどれだけ殴れば倒せるのか。

戦況は安定したとも言えるし、決め手の掛ける膠着状態になったとも言えた。


介入するならアタシとランディだ、クロスファイトする所への航空支援は流石に無理だろう、だけどアタシもランディも手傷を負っている、下手に足を引っ張る訳にもいかない、ここぞというタイミングで・・・


「リリィ、腕を固定してくれ」


「あん?」


ランディは片腕でもぞもぞと胸当てを外していた


「左腕が振られて上手く体を動かせない、頼む」


「あ、ああ・・・」


鎖骨が折れたランディは左腕がブラブラと揺れて響くらしい、アタシも胸当てを外してランディのと合わせて三角巾の様に支え、胴体に腕を固定した。


「・・・よし」


「待てランディ、アンタ何を?」


「知れた事、俺がすべき事はいつだってひとつ」


「!、なんだいなんだい格好つけて、アンタが下がんないとアタシも下がりにくいじゃないか」


「ふ、新兵(ルーキー)を先に逃がして恰好つけたのに、仲間を置いて1人で退けるか」


「違いねえ!」


アタシは背中のマチェットを抜き、ランディは近くに置いてあったバックパックから鉄球を右手で取り出した。



***



2人のクロスファイトの様子を窺って数分、辛うじて優勢だった戦況は既に傾き始めていた。


ゴキン!と金属音を挙げてライアンのアメフト型のボディーアーマーとメットはひしゃげていた。

泥の巨人がライアンのコンビネーションを見て真似を始めたのだ、ただ振り回すだけのフックとストレートでは無く、小刻みにジャブとフックを当て始める。

自然と打ち合い、相打ちが多くなって来た、元々自力はアッチが上、同じパンチでも受けるダメージは全く違う。


アンドリューの方もヒットアンドアウェイに慣れてきたのか、捕まえようとしている様子でかなり危うい。


アタシは2人どちらでも介入出来る間合いに近付き、ランディは鉄球を片手にセットアップしていた。

タイミングだ、タイミングが命、アタシは2度もマチェットは振れないだろう、ランディだって2球目は難しい、一歩間違えたら・・・


そして、その時は来た


ゴキィィンと音を立ててライアンのメットが潰れ飛ぶ


「チッ、しくったぜ」


「Ooooooooo!!」


片膝を付いて体勢が崩れたライアンに、泥の巨人は両手を組み振り下ろすダブルスレッジハンマーの体勢になった。

流石にタフなライアンもあんなのを食らったらひとたまりもないだろう。


「ぐっ」


アンドリューも襟首を掴まれて吊り上げられた、ネックハンギングツリーで危険な状態だ。

アタシは瞬時にアンドリューへ走った、ライアンの方はランディのピッチングに任せるしかない。

利き腕ではない右腕でいけるか、・・・信じるしかない。


突っ込むアタシにアンドリューを吊り上げた泥の巨人のガラスの瞳がギョロリと向けられた、誘われた!?

ダン、ダン、ダンと踏み込む自分の足音がやけにスローに感じた、おいおいおいこいつぁヤバイんじゃないか?

嫌な予感が頭を掠めた途端、背中に脂汗が吹き出た、その時だった。


「セイヤァァァァァァァ!!!!」


サナが空から落ちて来たのは。


サナの揃えた両足はライアンにトドメを刺そうとしていた巨人の顔面ド真ん中をしっかり捉えた。

頑丈な巨人は首が折れる事なく後ろへ倒れるが、その後頭部が地面に着いた瞬間、サナの重さと重力の力に負けてボンと破裂するとその活動を止めた。


続けてアタシの横を通った黒い塊はアンドリューを吊り上げる片腕、肘関節に当たるとゴキッといとも簡単に折れてアンドリューは地面に降りた。


「はああああ!」


アタシはヤツの後頭部、首の付け根に思い切りマチェットを食い込ませると脇腹の痛みを無視して引き倒す。


「ライアーーン!!」


「おお!」


ライアンは意図を組んでこちらへ走る、アンドリューも咳き込みながらヤツの背中に乗って動きを封じた。


ゴッ、ゴッ、ゴッ、グギュ、ゴキッ、ブチュ、ブチャッ!


頭蓋は相当硬かった、しかし何度も何度もライアンのストンピングを受けたヤツの後頭部は10度程踏みつけられた辺りで漸く砕けた。


「はあ、はあ、はあ・・・」


「ゲホッゴホ、ゴホッ」


ランディもライアンもアンドリューもアタシも、息も絶え絶えだ。


「み、みんな大丈夫?」


待て、今は声が出せない、アタシは息は上がってないけど脇腹が痛過ぎて無理だ。

そうして漸く落ち着いた所で、ライアンが先に口を開いた。


「サナ、なんで此処に」


アタシら全員の疑問だった、コマンダーからだって何も聞いていない、何故逃がしたはずのサナが此処に居るのか。


「え、あ、えっと、あれ、イブ?」


『戦闘中だったのでサナの事は言ってません』


サナはハッとした顔になると、それはもう気まずそうな様子でモジモジ、うーんうーんと唸り、胸の前で指先をコネコネして言った。


「と、通りすがりの巨人特殊部隊だ、・・・なんて」


んな訳あるか!!

巨人が、特殊部隊で、戦場に、ここぞとばかりに、現れてたまるか!

アタシら4人の心のツッコミはきっと一緒だった。

ああ!空の奴が言っていたKitten(子猫ちゃん)ってアタシらを揶揄っていたんじゃなくて、サナの事かよ!?







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