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巨人になった私  作者: EVO
41/119

戦闘1

走るのに一生懸命でみんなが居た場所が私には分からなくなっていた、HUDの視覚サポートとドローンの先導、インカムからの指示に集中していたので道を覚える意識は全く無かったのだ。

適当に進んで時間を掛ける訳にもいかないし、下手な所へ出て他のモンスターに見つかる訳にもいかなかった。


今視界に映し出されている情報もほぼ皆無で、ルート指示は勿論の事、方角も簡易マップも無い。


「よっ!」


高層ビルに囲まれた街中では流石に15mちょっとの私でも視界は殆ど建物に閉ざされている、だから私はビルを再び登り始めた。

上から見れば大体の方角は判るだろうし、戦闘は多分始まっている筈だ、巨人同士の戦闘ともなれば確実に目に付くと判断した。


バタバタバタと強風が頬を撫でた、超高層ビル群の上からある程度の方角を定めて先を見据えると、土埃が上がるエリアを見付けた。

その時だ、コンタクトHUDに簡易マップ、方角、敵味方の位置が表示されたのは。

周囲を離れていたドローンも数機目の前を飛び回って、チカチカとライトを点灯させている、まるで何かを訴えるかのように。

更にはHUDに文字も表示された


『インカムをオンラインに』


私は命令違反をしている、だからインカムもオフラインにしてサポートも無く今は1人で動いているのだけど、これはどういうことだろうか。


「・・・」


ドーン!と遠くから音が挙がった、悩んでいても仕方が無い。

何か言われるようなら、またオフラインにすれば良いしと考えて私はインカムに触れた。


『っ!オンラインになりました!』


『良し!』


『サナ!?インカム切らないで、私達は貴女をサポートする事にしたの』


「え?」


『こちらコマンダー、サナ、君の意見を採用し、我々は最大限のサポートを約束する』


???


一瞬何が起こっているのか分からなくなった私は困惑した、インカムを切ってから指揮車の方で何かあったのか、先程言われていた話と真逆の事で頭がついて行かない。


『最短距離でルート選定、サナ、行きましょう!』


イブの言葉を信じるのなら、私は助けに戻って良いらしい。

視界内のHUDには矢印が表示されて、みんなの所までのルートが見えていた。


「ありがとうイブ、でも、違う」


『え?』


「最短距離は、こっち!」


今居る高層ビルの屋上から矢印は下へと続いていた、それに反して私は助走をつけて屋上から飛び出す。

ビュオオオと風を切り、浮遊感、そして別のビルの屋上へと移る。


『Wow』

『ヒュー!』

『タランチュラマンもかくやのパルクールだ!』


『・・・OKサナ、』


タタタタンとキーボードをタップする音と共にHUDのルートはビルの屋上を伝う最短距離に書き換えられた。

到着予想時間は先程より遥かに短くなり、そのルートを頼りに私は空中へと身を投げて先を急いだ。

頭上を轟音と共に戦闘機が数機、空を駆けていく。


『Yeeeeeah-haaa!!!俺達にも格好つけさせろ!Kitten(子猫ちゃん)



***





時は少し遡り、サナが走り去ったのを確認した巨人特殊部隊守護者(ガーディアン)の一同は装備を整えて新手を待ち受けていた。


「行ったか?」


「ああ」


「騙すみたいで僕は気が重いよ」


「だけど必要な事だった」


サナを逃がすのは既定路線だ、新手の泥の巨人の移動速度を考えるとアタシ達が奴らを引っ張ってしまう可能性が高い。

だからサナを離脱させ、アタシらは奴らを足止めする為に残った、それだけだ。


『4、か』


『流石にシンドイぜ?』


「なら逃げるかい?」


『はっ!バカ言うなよ』


やるのはゲリラ戦だ、あんな馬鹿力でリスクの高いモンスターを真正面から相手なんてしてられない。

アタシとライアン、アンドリューがフロントマンとしてビルの陰に身を隠し、ランディの射線を上手く通しつつやるしかない。


カギはランディのピッチングとライアンの戦闘槌だ、あの泥の巨人の堅さではアタシのマチェットとアンドリューの警棒は牽制程度にしかならない。

一撃の強さがあるランディとライアンで決めるしかないのだ。


「チ、サナのカタナ貰っておけば良かったか」


『それを言ったらサナは僕達が残る事に気付いていたよ、なんでカタナが必要なの、って』


「そりゃあね・・・」


『Hahaha、まあ手持ちのカードでやるしかねえな!』


『来たぞ』


無駄話はここまでにして、アタシらは新手の泥の巨人に意識を切り替えた。

ドン・・・、ドン・・・、と足音を控える事もなくヤツらは現れた、ゾロゾロと連れ立って歩いている様は素人丸出しの様子だ。

ただ、気になるのは4体中1体が少し引いた位置に居ることだ。


「ランディ」


『ああ』


仕掛けるのは先ずランディだ、側面から先制攻撃で削る。

いつものセットアップから空気の壁を突破した鉄球が、寸分違う事無く引いた位置に居た泥の巨人の頭部を捉えていた、が。

鉄球は巨人の頭部を砕く事無く、ゴバッ!と延長線上にあったビルの柱にめり込んだ。


「躱された!?」


『アレを回避すんのかよ』


「Gouruuuuaaaa!!!」


雄叫びを挙げた泥の巨人は3体がランディを目掛けて殺到する。


「ランディ!!」


事前の打ち合わせの通り、ランディは1球投げた時点で走り出している。

片側3車線の大通りから、アタシら巨人の肩幅ギリギリの裏道を抜けて50m、ランディはアンドリューから借りた予備の警棒を構えて待ち受ける体勢に入った。


「Gerrrruuuuuuuu」

「Gyyyyyyyyyyyyy」

「Gooooooryyyyyy」


バケモノがっ、不快な叫びを上げる3体は我先にと()()()裏道を通って来た。

100・・・、50・・・、30・・・


「今だ!」


「ぶっ潰れろや!」


「ふっ!」


裏道をヤツらが抜けた瞬間、待ち伏せていたアタシらはそれぞれ得物を振るった。

ゴキッと鈍い音を立てたのはライアンの戦闘槌


「チイ!反応良いぜコイツら!」


きっちり頭を狙った槌を泥の巨人は前腕で()の部分を受け止めていた、流石にライアンの腕力と重量物の一撃だけあって前腕は折れたようだが。


2体目が抜けて来た、こっちはアンドリューが警棒で足を絡めとって転ばせると、首を抑え片腕を固めて捕縛した。


そしてノコノコと出て来た3体目の首にアタシはマチェットを力の限り叩き付けた。


「Gebbbbb」


「堅いねぇ、・・・でも!」


マチェットは首の骨で止まってしまったものの、肉の半分まで食い込んだ。

やっぱりだ、コイツら身体能力は高いし学習能力もあるのだろう、でも初見の状況や不意打ち、格闘術に対応する術を持っていない。

囮のランディに気を取られて、裏道の出口で待ち伏せしていたアタシらの攻撃は簡単に決まった。


いける!そう思った瞬間だ、ヒュンと黒い塊が目の前を横切り、


「ぐっ」


ボキボキと鈍い音と共にランディがくぐもった声を挙げた。


「なっ、ランディ!?」


鉄球だ、ランディの左鎖骨付近に鉄球が当たり、利き腕の左はだらんと垂れ下がった。

投げたのは・・・、通りの向こうに見えた4体目、泥の巨人だった。



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