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巨人になった私  作者: EVO
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脅威2

「Fxxk」


ライアンが口汚く吐き捨てた、正直私も同じ気分ではある。

視界内に映し出されるHUDの簡易マップに、高速で動く赤点が私達を目指して移動していた。

遠くから響くドドドドド・・・という地響きは、コマンダーに確認するまでもなく巨人だと推察された。


「走れサナ!Go!Go!Go!」


アンドリューの号令に私は刀を鞘に納めると全力で駆け出した、事前のシチュエーション訓練でも受けているけど、撤退時は私が先頭を逃げる事になっている。


私が先に行かないと他のみんなが後退出来ない、殿はタフなライアンと副隊長のリリィ、間にランディ、アンドリューはその時のシチュエーション次第だけど、基本は先頭で私に近い位置に着く事が多い。


『撤退ルート選定、支援砲撃要請』


指揮車からの支援でコンタクト型HUDによる撤退ルートが視界の中で矢印で表示された。


『振り向くな!走れ!』


ダンダンダンと踏み込んで走るとアスファルトが砕け陥没した、放置車両がゴロゴロと転がるのを横目に全速力で駆ける。


『サナ、150m先の交差点を右へ』


オペレーターの指示に従うべく私は道路の左端ギリギリまで寄った、いくら都会のワシントンの道路と言っても私達巨人が走りながら曲がるには狭過ぎる。


「ふっ!!」


右へ曲がる為、体を倒して内へと切れ込む、それでも足りないので私は跳躍して対面のビルの側壁へ、そのまま側壁を走って数歩、重力に従って右肩が地面へと傾くが体を捻って着地、勢いを殺さないまま前へと進む。


『良いぞサナ!Go!Go!止まるな!』


『補給部隊の撤退を開始』


『ハッハー!逃げろ逃げろ!サナ行け行け!』


『サナ、次は—————』


ドローンが数機集まり先導も開始された、みんなの声と足音を背後に感じる。

与えられる指示に耳を傾けながら私はワシントンの街を駆け抜けた。


高層ビル群を抜け、民家の割合が多くなって来た辺りで先に撤退を始めた補給部隊が視界に入った。


『サナ、このまま補給部隊と合流、一緒に基地へ帰投して』


ここまで急かされるようにビル街を走って来たので、1度フと息をつき、私は走る足を少し緩めて後ろを振り向いた。


「・・・え?」


足が止まる


『・・・サナ、止まらないで、補給部隊と合流しなさい』


インカムから指示が聴こえた


「ど、して・・・?」


みんなが居ないの、という言葉は絶句した私の口から発することは無かった。


なんで?


いつから?



***


「・・・サナ、止まらないで、補給部隊と合流しなさい」


足の止まったサナが映し出されたモニターを前に私は指示を出した。


『ど、して・・・?』


あれだけ走ってもモニタリングしていたバイタルは殆ど乱れなかったというのに、今の彼女は呼吸が浅く激しく動揺しているのが分かった。

部隊の皆一緒に逃げていると思っていたのに、気付けば1人、驚くのも無理はない。


誘導したのは私達指揮車スタッフだ。

コマンダーからはサナを除いた守護者(ガーディアン)メンバーへ戦闘の指示、サナには私から撤退の指示、真逆の命令を同時に出していた。

【穴】から現れた新手の泥の巨人は4、移動速度を考えると簡単には振り切れない、無人のワシントンに留まれば良いけど、撤退して外へ引っ張ってしまう可能性が高い為の措置だった。

既に基地からはスクランブルで爆撃機と戦闘機が出ている、本来巨人部隊とはフレンドリーファイアを恐れて同時に運用しないルールだけど、彼らの撤退には必要になるとコマンダーから本部への要請が通った形だ。


第二級敵性生物(カテゴリー2)に爆撃は効く、第一級敵性生物(カテゴリー1)にも決定的とは言わないまでも打撃を与える事が出来る。

なら、この新型はどうか、効けば巨人部隊の撤退も楽なものになるだろう、なんなら先程の遭遇戦のような不意のリスクを減らして倒せるかもしれない。


これは事前に取り決めしていた事で、サナは戦闘要員では無い事が周知されている。

取り決めの際、副隊長リリィからは「アタシらを置いてサナが1人で逃げてくれるかね?」との疑問が投げ掛けられ、本部もまたその点は留意する旨となった。


先頭を走らせ、止まるな、振り向くなとインカムで急かす。

コンタクトHUDの簡易マップは敵味方の配置を表示しているので表示をオフに、撤退ルートの矢印をオンにして視覚的に意識を逃走に切り替える。

更にドローンを誘導灯替わりにサナの視線を狭窄させた。


実戦であること、新兵(ルーキー)であること、素直な性格、それらも手伝ってサナの撤退は驚く程スムースに行ったのだった。


ここまでは・・・


ドローンで捉えているサナは今にも引き返しそうな様子で立ち尽くしている。


「サナ、補給任務は終わったの、だから補給部隊と合流して基地に戻る、それで貴女のミッションはコンプリートよ」


『でも、みんなが・・・、あのモンスターだって4つも反応が』


マズイ、元々サナはリリィに懐いていた、日本での体験も考えると彼女が仲間の巨人を心配するのは当然だ、だからと言って現場に戻られては困る。

私は背中に汗が流れるの感じながら、出来るだけ冷静に言葉を選ぶ、・・・と肩にポンと手が置かれた、見るとコマンダーがチラリと目を合わせ頷いてから声を発した。


「こちらコマンダー、何をしているサナ、撤退しろ、これは命令だ」


厳しく固い声で言ったのはきっとわざとだろう、コマンダーは子煩悩でサナと同い歳の娘を持つ本来は優しい人だ。

効果は覿面で、サナはビクリと肩を跳ねさせ、撤退している補給部隊の方へ顔を向けた。


「サナ、貴女は任務を果たした、戦闘は貴女の役割ではないし、これは命令だから()()()()()


『命令・・・』


私は努めて優しく、寄り添っているように語り掛けた。

命令というのは便利な言葉だ、これに従っていれば一種の免罪符として言い訳が立つのだから。

サナは部隊の仲間を見捨てて逃げた、そう思っているに違いない、大丈夫見捨てる訳ではない、サナは命令に従っただけなのだから、と囁く。

新兵訓練を受けたばかりの彼女が命令を無視するなんて有り得ない。


しかし、ここで私は、いや私達は自分のミスを悟った、私達の言葉を聴いたサナの反応はとても劇的だったのだ。


『うう、っ、うぅぅ・・・』


忙しなく補給部隊とワシントンのビル街を何度も振り返るサナ、バイタルのモニタは激しく波打ち彼女の心の内を表していた。

見ればコマンダーも顔を強ばらせて事態を見守っていた。

他のオペレーターもサナの一挙手一投足を見て、何とも言えない表情をしている、仲間を置いて撤退、なんて命令を下された苦悩を感じ入っているのか。


サナの苦悩している様は、軍人から見れば「いいから命令に従え」と言いたくなるもので、しかし人として見れば友情に篤い彼女を批難出来るものではないだろう。


『分かりました・・・』


サナの返事が指揮車に響いた、それは命令に従っただけなのに何故か車内には少し残念な空気が蔓延した。

命令だ、仕方ない、と言い聞かせたのはサナなのか私なのか分からなくなってしまった。


『ごめんなさい』


「えっ?」


ブツ、音と共にサナのインカムがオフラインになった、私は今きっと間抜けな顔を晒していた。

そして理解する、ドローンの映像にはサナが全力でワシントンのビル街を疾走している姿があった。


指揮車の中で唖然としているのは私だけではない、重大な命令違反が起きたというのに車内の空気は寧ろ良いと言っていいだろう。


コマンダーはため息をついて目頭を押さえ俯き、頭を横に振っていた。


「・・・コマンダー」


「撤退命令など無かった」


「は?」


「撤退命令など無かった! 軍属としてサナは間違っている、だが私は仲間を助けに行った彼女に「その行動は間違っている」などと言うつもりはない」


命令違反は重罪だ、だけど撤退命令がないならサナは違反していない事になる。

そう、一個人としての話をするなら私だって「やるじゃん」と言ってサナを褒めるだろう。


「Sir. 通信記録が・・・」


「ヌン!!」


なんとコマンダーはツカツカと記録装置に近付くと拳を叩き込んで破壊してしまった。


「記録装置は不慮の事故により破損! 記録は残っていない! 他に問題は!?」


「有りません!Sir.」


「なら全力を持って部隊の支援を遂行しろ!いいな!」


「「「Sir, yes, sir.!!!」」」


不覚にも惚れてしまいそうになってしまった、やだコマンダー、イケメン。


「でも、始末書はコマンダーが書いて下さいね」


「・・・」


壊す必要無かったよね、メモリ抜くか消すだけでさ。






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