異変1
「敵の数は・・・、28?」
「多いね、過去1じゃないか」
「おいおいサナのデビュー戦は退屈しねえな」
「持ってる奴ってのはいるものだ」
「Hahaha!違いねえ!」
指揮車から齎された情報に早速アタシは頭を抱えたくなった、これまでのモンスター討伐で相手にしたのは多くても12、最多を2倍も超える数の敵に不安を覚える。
部隊全員に廉価型コンタクトHUDは配備されていて情報は共有される、簡易マップには赤点がポツポツとマーキングされていた。
「幸いな事に固まってないから、ひとつひとつ釣りだそう、ランディー」
「任せろ」
「ライアンは座標x.xへ、アタシは反対側」
「なら僕は全体のフォローに回るよ」
「OK、やるよ!」
4人での部隊行動は久々だ、サナを迎えに日本へ渡ってからは3人部隊が基本でそれ以来か、アタシとライアンは基本前衛、フロントマンを務める。
ランディが鉄球で敵を釣り出し、ランディへ迫る奴を挟撃して倒すのが基本形だ。
釣り、囮、不意打ち、シンプルだが効果的なやり方で、そもそもランディのピッチングは音を超えるので上手く急所に当たればそれだけで倒せるし、多少外しても音を超えた質量攻撃は肉と骨を削り取って動きを鈍らせる、そこをアタシとライアンが潰すといった感じだ。
念の為フォローとしてアンドリューが全体に気を配る、大体はランディの手前、中衛寄りの配置で万が一アタシらから抜けた敵は奴が相手をして止め、追いつけば3人での袋叩きだ。
「行くぞ」
「おお、プレイボール!ってな」
軽口を叩くライアンを横目にランディは空爆で荒れた土地を軽く足で慣らすと第一球目を振りかぶって投げた。
ボチュ!!
数百m先に居た第一級敵性生物の蛇玉にそれは直撃、中心部に穴を開けると蛇玉は活動を止めた。
「ヒュー!ストライクだぜ!」
「今日は調子が良い・・・」
しかし、今の音で近くに居た別のカテゴリー1が気付いたようで3匹がランディに向けて動き出した。
勿論アタシらはHUDと衛星、ドローンのサポートでそれらを把握している。
簡易マップの中を動く赤点に慌てず、建物の陰で息を潜めた。
【穴】の周辺は度重なる空爆で更地になっている、数に劣るアタシらは呑気に姿を晒すつもりはない。
空爆の影響が比較的少ない、更地と瓦礫、廃墟が入り交じるエリアでゲリラ戦を仕掛ける。
「ち、また厄介な奴が」
目視で確認出来たのは2匹の狼だ、体長12から16m、体毛は衝撃を受けた際に硬化する事が判明していて、ミサイルの直撃でも致命傷にはならない厄介な敵だ。
そもそも人は大型犬に勝てない、巨人のアタシらから見ても大型犬の部類に入る狼とは真正面からやり合ったらただでは済まないだろう。
「シッ!!」
ランディの2球目は躱された、これだよ、コイツらは速い。
だがランディは慌てず、いつものルーティンを崩さずに3球目を投じた、ゴギュと鈍い音と共に狼の脇に鉄球は突き刺さる。
「Yeah!高速スライダー、流石だな!」
直撃コースを回避する頭はあるけど、明らかに外れるコースから曲がる球にまでは頭は回らないらしい、そこを上手く突いたのだ。
まあそれでもあの速さの獣に球を当てるなんて尋常ではないコントロールだ。
「こっちは任せろ!」
鉄球の直撃を食らった方は完全に足が止まった、もう1匹は間合い的にピッチングは間に合わないだろう、アタシは陰から飛び出してマチェットで切り付けた。
「sit!アンドリュー!」
浅い!アタシを抜けた狼は驚異的な速度を維持したまま無防備なランディに飛びついた。
「ふっ!!」
横合いからアンドリューは警棒で狼の首を叩く、しかしミサイルの直撃でも死なない獣に警棒は些か相性が悪い。
けど足を止めさせただけで十分、アタシは死角から狼にマチェットを突き刺した。
「ギャウ!ガルル!!」
暴れるヤツをお構い無しに串刺しのままコンクリの建物に叩きつけ、マチェットで抉りながら頭を思い切り踏み潰した。
「オッ、ラァ!!」
グジャリとした音の先ではライアンが槌で3匹目の蛇玉を力任せに潰した所だった、奴らは蛇の首をいくら落としてもキリがない、玉の中心部にある核を破壊するのが正解だ、近くにはミンチになった狼も転がっている。
「ふう、さあて油断せず行こう」
「狼はヒヤッとするから勘弁だぜ、槌は当たんねえしよ」
「そこは僕がフォローするから、上手く当ててくれよライアン」
「オーライオーライ、まあ何とかするぜ、ランディもバシバシストライク決めてくれよ!」
「ああ、任せろ」
幸先よく4匹を削り、残りは24、マチェットの血振りをしてアタシらは次の行動を再開した。
補給の件が解決してなかったら数日拘束される案件だ、時間を掛けすぎてワシントンエリアから巨大狼が1匹でも外に行ったらなんて考えるとゾッとするよ。




