冬休み
「こうして見るとサナも現代っ子だねえ、タブレット楽しいか?」
「うん」
私がベッドの上でタブレットをタップしていると、隣で横になっているリリィが話を振ってきた。
リリィはタブレットで読書を、私はSNSで相互フォローの人とやり取りをしていた。
顔を上げるとリリィはサイドチェストにタブレットを置いて私を見ていた、その視線はママ達とは違った温かい瞳で、私は最近なんとも落ち着かない気持ちになる。
「ふふ、そろそろ寝ようか」
「う、うん」
うっそりとした様子のリリィは裸にシーツを掛けているだけだ。
軽いパーマというかウェーブ掛かった黒髪をポニーテールにして、少し筋肉質でモデル体型のリリィはクリスマスにフレンドになったセクシー女優のケイト・リンとは違った野性味溢れる色気を醸している、・・・裸族なんだよねリリィ。
まあ私も割りと裸族の気は有るんだけど、金髪はシュシュで軽くまとめただけで、タンクトップ型のナイトブラにショーツだけでいつも眠っている。
「ン」
リリィが耳元に手を差し入れて私の髪を撫でる、耳たぶを掠めて少しくすぐったい。
私達が生活するこのワシントン基地のホームは平屋建ての2LDKでシンプルな間取りになっている、リビングダイニングキッチンと私とリリィの個室だ。
ベッドは個別に有るんだけど、日本から船旅でアメリカへ来る時は1つのベッドを、アメリカに到着してワシントンに来るまでは寝袋を共有してきたので、リリィとくっ付いていた事がクセになってしまった。
折角手足を伸ばして眠れる程の広さを誇るホームなのに、私達は1つのベッドで抱き合うようにして寝ていた。
リリィは私を引き寄せると脚を絡ませておやすみのキスを落とす。
「おやすみサナ」
私もおやすみのキスをして返す。
「おやすみリリィ」
甘いボディソープとリリィの香りに包まれて私は目を閉じた。
トク、トク、とリリィの鼓動を子守唄に、程なく心地の良い微睡みが訪れる。
リリィがあやすように髪を撫でるのも気持ち良いし、時折思い出したように頭にキスを落としてくるのも幸福に浸っている気分で・・・
「なあサナ」
「んー」
「この戦いが終わったらアタシと暮らさないか」
「んー・・・」
「アタシのファミリーとサナのファミリー、一緒にさ、暖かい西海岸に家を建てても良いし、このワシントン基地のホームを買っても良いだろう?」
「んー」
「10km四方の土地を買い上げて・・・、ほら、ワシントンの【穴】のせいで今は郊外の再開発事業が動き始めてるから、将来的にはこの基地の位置は丁度いい郊外になるし」
「んー」
「ホワイトハウスからは叙勲といくらか報奨金も出るだろ、今は難しいけど軍を辞めてもなんとかなるさ、映画に出ないかってオファーも有るんだ」
「・・・」
「山岳救助隊やSP、レスキューもアタシらにしか出来ない事はある、巨人になった時はクソ面倒な事になったと思ったけど、今はまあ、そんなに悪くないとも思ってる。
きっと、なんだって出来るさ、ってね」
「・・・」
返事しなきゃと思うのに、ほわほわと夢見心地が心地よすぎて身体から力が抜けていく。
なんでも出来るかな? 出来そう、出来るかも・・・
ふふ、映画だとハリウッドかな? 夢みたいな話だ、ランディー達もみんなで一緒に・・・
とめどなくリリィの話を考えている内に、私は眠気に負けてそのまま穏やかに意識を手放した。
***
「サナ? ・・・眠ったか」
2人で眠る事が当たり前となって暫く経ち、訓練もほぼ終えたサナも現場へ出るまであと数日。
初出撃を前にナーバスになっていたのは、サナ本人ではなくアタシの方だったと気付いたのはたった今の事だ。
ぶっちゃけてしまうとサナは軍属である必要は無い、ハリウッドからのオファーも1件や2件の話ではないし、なんなら大企業のアッポーやミクロソフト、ティスラなどから専属の広告塔の話も来ている。
これらのオファーを選ぶ権利がサナにはあるが、従軍経験というのもバカにしたものでは無い。
「国の為に戦った」という実績は、少数派の異物であるアタシら巨人をアメリカ社会に馴染ませる前段階として極めて有効な手段だろう。
特に現在進行形でモンスター災害に脅かされている現状はアタシらにとって大きなチャンスと言える。
巨人を親しい隣人として捉える人も居れば、化け物と言って排斥する人も居る。
体が大きなアタシ達は人から離れて生活などは出来はしない、それなりの距離感を保ちつつ、良き関係を築く。
味方になってくれる人は多ければ多い程良い、その為の従軍という訳だ。
ジョセフからの入れ知恵だけど、更に上からの意向もあるのだろう。
現代アメリカ社会においては人種問題も根強く、そこへ新たに巨人の存在も加味されては上も頭を悩ませているのは明白だ。
ランディーやライアン、アンドリューとアタシは大人だし、それぞれ社会経験はあるので、他者との軋轢やストレスとの付き合い方はそれなりに心得ている。
ドクターは我関せず研究研究と、ある意味では羨ましい思考をしているが。
しかしサナは子供だ、年齢を考えるとぼちぼち社会との付き合い方ってのを学んでいる歳だけど「巨人化した」という一要素が果てしなく大きい問題として立ち塞がる。
アタシらだって巨人化してストレスが無かった訳じゃない、でも大人だけに諦め方を知っていた、現実と折り合いをつける事が出来た。
サナは違う。
それらを学ぶ前に友達と会えず、学校へも行けず、周囲の目と反応を窺う生活、存分に体を動かして発散する事もなく、他の選択肢もない、そして日本国で唯一の巨人。
ストレスが過大なのに溜め込むばかりで発散出来ない、互いに共有する仲間も居ない。
たった数ヶ月で一生分のストレスを負ったとアタシは思うね。
だから、これからのサナは恵まれて幸せにならなきゃウソだ、金を儲けて、伸び伸びと寝て食って、ファミリーや仲間と楽しく過ごす、そうだろう?
アタシの腕の中でサナは穏やかな表情で無防備に眠っている、髪を梳いてもう一度キスを落とすとくすぐったそうに身を捩った。
あー・・・こいつ、いいケツしてんだよなぁ、偶にムラっとする時がある。
今もついついケツを鷲掴みにして揉みしだいてしまうし、胸もアタシよりデカくなったし、なのにウエストはくびれて柔らかそうにモッチリして、肌は綺麗と来たもんだ。
アタシは腹筋は割れてるし肩幅もある、胸はそこそこ、ケツはデカイがテメーのケツ触っても楽しくも何ともない。
うーん、・・・・・・ぐう。
くだらない事を考えている内にアタシもそのまま眠ってしまった。
朝起きてもがっちりケツを掴んでいて先に起きたサナは困惑していたが、ナイスケツと褒めて、所でサナって性欲どうしてる?とケツを揉みながら言った。
サナは顔を真っ赤にして「何言ってるの!?」と叫んだが、反応自体は悪く無かった(と思う)ので、相手してくれないかな。
サナ、アンタのケツのせいでアタシはムラムラしてるんだが? 責任取れよ、アタシのケツ触っていいから。




