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巨人になった私  作者: EVO
30/119

ジャイアントベースボール

アメリカ合衆国、巨人特殊部隊構成人員


ランディ・ジェイソン、身長20mのメジャーリーグベースボールの選手で偉大な投手だ。

長身細身で幅広のウイングスパンから繰り出される左投げのサイドスローは100マイルを記録し、現役にして殿堂入り確実とされる程のタイトルホルダー、だった。


ライアン・ゴンザレス、身長21m、アメリカンフットボールの選手。

恵まれた体格から漲るパワー、その体躯に似合わない俊足、フィジカルエリートとして鳴らした超一流の選手、だった。


アンドリュー・オコナー、中肉中背、身長18.4m、柔和な容姿に穏やかな性格、ニューヨーク市警所属。

凶悪犯との大捕物で数発被弾も構わず任務を遂行、NYPDの鉄人と呼ばれる正義感溢れる警官、だった。


ジャック・ブラック、身長18.1m、中年の研究職系医学博士。

いくつかの論文を発表、高い評価を得ていたが現在は巨人化についての研究に専念している。




ランディが振りかぶり、長い左腕から白球が放たれた。

瞬間、空気の壁を突き破った衝撃と音をあげた豪速球が私の胸元を通り過ぎて、ライアンがキャッチした。


「痛ってー、少しは加減しろよランディ」


「ファンを前に手加減したピッチングは失礼だ、いつでも全力で投げるのがプロフェッショナルというものだ」


「いや、素人にMLBのプロが全力投球は大人気ないと思うよアタシは」


「個人的には最高のショーだと思うけど」


「なんで私もベースボールなんか・・・」


私はバッターボックスで金属バットを持って立っていた、何故こんな事になっているかと言うと・・・


私とリリィの移動は数日で完了し、ワシントンDCから200km郊外の【穴】前線基地に辿り着いた。

この基地は巨人部隊に合わせた基地で、上物である建物は私達が生活するホームがあり、そして一部の建物は一般の米軍人が活動するべく巨人でも中々壊せない頑強な造りで構成されている。


安全性の確保の為、大半の施設は地下に造られていて、また巨人が基地周辺の外での訓練や活動を行う場合には外出禁止令が徹底されている場所だ。

ママとパパはこの基地で生活する事になった、パパは事務方、ママは食堂での仕事になる。

私が当面ここで生活する事になるので、仕事の休みの調整もしやすいからとジョセフさんが一家で生活できるように手配してくれたのだ。


さて、そんな基地に到着した私は歓迎試合を受けることになった。

案としてはアメフトも挙がったそうだけど、6人では無理だという事になり、ピッチャーランディ、キャッチャーライアン、バッター私、ファーストリリィ、外野アンドリューとジャック2人でどうにか体裁の整えられるベースボールになったという・・・


正直に言うと最高っ!

私はランディ選手のファンなのでバッターボックスで彼の投球を観れるなんて最高の歓迎だと思う、終わったらサインを貰いたい。

因みにパパはアメフト派で、ライアン選手のサインを貰ってくれと頼まれた、・・・ママは少し呆れていたけど。


ドパーン!!と音を置き去りにした2球目は外角低めにコントロールされてミットに収まった。


「Heyサナ!振らないと当たんないよ!」


ハッとした、ランディの投球を観れるだけで満足していた私は手にバットを持っている、つまりあのランディ選手とベースボールしているのだ!


「よおし!」


3球目、振りかぶって放られた白球は少し高め、でも真ん中の打ちごろのコースだった。

巨人になる前なら捉えるのは無理だったMLB選手の球も、巨人になった私の眼ではそれなりに捉える事が出来た、タイミングを合わせて思い切りバットを振り抜く。


ボウッ!!


と周辺の土と草木を吹き飛ばしたスイングは何も捉えずに空振りした。


「ス、スプリット!!」


ランディ選手の代名詞スプリット、正確無比なコントロールと、この一級品のスプリットで三振の山を築き上げたのは誰でも知っている。

打ちごろの高さだったのに、ミットに収まった位置は地面スレスレ、正にテレビで観た、あのスプリットだった。


「うわあ、うわあ、凄い!」


「おいおい草野球だぞ、変化球とか、マジで手加減しろよ・・・」


「大人気ないねぇ・・・」


「子供相手にちょっと・・・」


「どうでもいいから早く終わらせてくれ」


喜ぶ私、苦笑するライアン、リリィ、アンドリューに、運動嫌いらしいドクタージャックの愚痴が場に響いた。

4球目はインローのチェンジアップ、5球目は渾身のストレートに特別ルール5ストライク1アウトとなった。


「heyランディ、アンタの信念は分かるけどこいつは歓迎試合だぜ? ゲストに気持ち良く打たせてやるのもファンサービスだろ、OK?」


と、ライアンが言ったところで全球ストレート縛りになった。

因みにライアンがキャッチャーなのはランディの豪速球(時速1600kmらしい)を捕球出来るのが、アメフトでも慣らしたフィジカルエリートの彼しか居なかったからだ。


そうして放たれる手加減されたストレートは、それでも空気の壁を突破してナチュラルにホップ、4球続けて空振りをした後の5球目。


ゴキンッ!と鈍い音と手応えにフラフラと外野へ白球が飛んで行く。


「hey!ドクター!右だ右!」


「こ、こっちか!?」


「そっちは左だ!球見ろ、球!」


「わわ、私はベースボールなどやった事ないのだ!」


リリィの指示と真逆に動くドクター、外野はセンター寄りのレフトサイドとライトサイドしか居ないし、ほぼドクターの正面のフライだ。


「うわー!」


バンザイしたドクターの横を白球が落ちた


「Hahaha!うわぁーじゃねえよ!ドクター!」


「エラーだな、ヒットじゃないよな」


げらげらと笑うライアンに、打たれてムスッとしたランディがヒットではないからセーフと言う、一流のプロは素人に打たれたのがイヤみたいだった。


こうして1時間程ゲームをした後、私達巨人の6人は数km離れた基地へと帰投し始めた。


「改めて、俺はライアン・ゴンザレスだ、歓迎するぜサナ!」

「・・・ランディ・ジェイソンだ、宜しくなサナ」

「僕はアンドリュー・オコナーだよ、よろしくねサナ」

「ふん、子供が出来る事など無いと思うが、足は引っ張らないようになサトー!」

「ナイスバッティングサナ!ドクターは偏屈野郎なんだ気にするなよ」


「サナ・佐藤です、よろしくお願いします」


談笑しつつ基地へと歩きながらランディ選手にサインのお願いをすると快く了承してくれた。


「まあサナはゆっくり新人教育受けてりゃ良いさ、どうせ半年は空爆頼りでアタシらの出番は限られてるからね」


「え、そうなの? なんで?」


「もう冬が目の前だからさ、アタシら巨人部隊の役割は言ってしまえば白兵戦だからね、寒さは動きを阻害するから大きな動きがあるとしても3月位になるだろうさ」


「そうだぜ、まあ俺らで片付けちまうからサナの出番はないだろうけどな!Hahaha!」


「素人が出しゃばっても邪魔なだけだ」


「ドクター、そんな言い方はないだろう、彼女だって自分で選択した結果この場に居るんだ」


ライアンは豪快に笑い、大きな手で私の頭をガシガシと撫でた。

ドクターは私が参加するのは否定的な様子で反応は良くない。


「まあ、細かい話はお偉いさんと、これからのサナが決める事だぜ!それよりサナ、アレを見な!」


ライアンはニヤリと笑うと基地の灯りを指差した、その先には・・・


「サナ・サトウ歓迎!」「ようこそワシントン基地へ!」

「ウォーー!!ナイスバッティングだぜサナ!」

「ピューピュー!!キュートサナ、これからよろしく同志!」「好きだ」「付き合って!」


基地の人員の多くが出迎えて私を歓迎している光景があった、勿論パパとママも笑顔で手を振っている。


「リリィ・・・」


「ん?」


「私、アメリカに来て良かったかも・・・」


「そっか」


「うん・・・」


美味しくないオートミールを一緒に食べて「不味い不味い」と言い合うリリィ。

足下を気にせず思い切り走り回って、ベースボールをしたり、()()とこうして肩を並べて歩くなんて日本では出来なかった事だ。


胸の奥が熱くなるのを感じながら私はホームへ手を振った。






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