自衛隊 1
世界各地に【穴】が開き、調査検証と騒がしい毎日を送っていたある日、私は突然呼び出された。
「は? 巨人、ですか?」
驚く事に千葉県の某海岸に巨人が現れたのだという、何を言っているんだと顔に出ていたのだろう、付き合いの長い直属の上司は「現実の話だ、見たまえ」とテレビを付けた。
『ご覧下さい!これはCGでも特撮でもありません!千葉県の海岸に巨人が現れました!
海岸から数十m程沖合いでしょうか、遠いので大雑把な目算にはなりますが10mはあろうかと思われる女の子の巨人です!
髪はブロンド、肌は白く、眼は青い外国人のような容姿です、彼女は1時間前に突如ビーチに現れたのです!』
テレビではリポーターが興奮した様子で話していた、海に肩まで浸かった女の子が映し出されている、それもリポーターの言う通り巨人の女の子だ、ビーチからカメラを向けているのだろう、沖へ数十m離れているであろう女の子は縮尺がおかしい。
「は?」
私は上司を見て、テレビを見て、再び上司を見た
「現実だ、既に航空自衛隊がスクランブルで出動、目視で確認している」
『巨人の女の子が現れた当時、浜辺に居た人に来ていただきました、話を聞いてみましょう。
こんにちは、あの巨人はどの様に現れたのですか、海から? それとも陸の方から?』
「いやー、俺らビーチで遊んでたんすけど、海っつーか、波打ち際?でぇ、JKっぽい子が居たんすよね、2人組でー、可愛いからナンパするべってー、近寄ったんすけど、ガイジンっぽい子の方が突然デッカくなってマジビビったっす」
『なるほど、普通の女の子だったのに突然大きくなった、それは本当に突然大きくなったのですか?』
「なんかニョキニョキって感じで伸びていったっすね、なあ?」
「おー、水着破れて、おっ!って思ってたらジワジワっつーか、早回しの植物の芽、みたいな?」
『ありがとうございます! どうやらビーチに居た女の子の1人が見る見るうちに成長して巨人になったようです、現場からは以上です、一旦スタジオにお返しします!』
テレビは巨人の女の子を映したまま、スタジオのタレントがあーでもないこーでもないと話し始めた。
「と、言うことで高橋小夜 超常現象特別情報管理官、これからキミは空母「いずも」に搭乗、仮称【巨人】との折衝役に着いてもらう」
「へ?【穴】の方は・・・」
「【巨人】が最優先事項だ」
超常現象特別情報管理官というのは【穴】が出来てから自衛隊内に設置された特別対策本部での役職だった。
とは言っても今の所【穴】の内部調査は暗礁に乗り上げている、ドローンを飛ばしても内部は謎の通信遮断で映像も音も確認できていない。
通信遮断されるのでGPSを落としても深ささえ把握出来ず、高性能カメラで覗き込んでも何も見えない。
光の吸収率が99.675%以上の真っ暗で通常の物理法則に捕らわれない異常空間、それが東京都練馬区に現れた【穴】という存在だった。
どうやら【巨人】も超常現象のひとつにカテゴライズされた様で、中でもネゴシエーターの教育を修めている私に白羽の矢が立ったようだ、丸投げと言っても良いかも知れない。
「では頼んだよ」
そう言った上司はスマホを1台ポンと私に預けた、幸いだったのは巨人である佐藤サナちゃんがパニックを起こす事もなく私と会話出来た事だろう。
***
大変だった、それはもう大変な仕事だった・・・
何が大変って、私は陸上自衛隊所属、浜辺を一時的に封鎖したのは千葉県警、先行偵察に赴いたのは航空自衛隊、巨人サナちゃんの保護は海上自衛隊所属空母「いずも」で関係各所への通達やら許可やらで大わらわ。
千葉県警からサナちゃんの御両親の保護、安全上の観点から民間の報道ヘリ等、空域一帯の規制は国土交通省。
作戦行動中に当る空母「いずも」に民間人巨人?の搭乗の可否、そして保護となると移送先は警察施設になるのだけど、目算10m超の人間を保護出来る施設は無いので、移送先は天王洲駐屯地へと決定。
幸いな事に超常現象に対する命令系統の下地は【穴】で出来ていた。
東京都練馬区にポカリと開いた穴は「災害派遣」で一纏めにした特別対策本部——後の超常現象特別対策本部——に権限を集めていたので、それを起点に巨人保護も災害派遣でゴリ押しする事にしたのだ。
後付けで事務方の処理は大変な事になるのは分かっていたけど、自国民の生命が脅かされているという建前で押し切った。
自国民であるのに身長の大きさは関係無い、細かい事は超常現象特別対策本部の同僚に丸投げして私は巨人サナちゃんの保護にのみ注力したのだった。




