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巨人になった私  作者: EVO
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リリィ・クロフト

アタシが日本の巨人のことを知ったのは秋が深まってきた頃だった。

【穴】が世界各国に突如として発生、そんな不思議現象を皮切りに人の巨人化、モンスターの発生、次々と巻き起こるファンタジーに他国を気にする余裕は無かった。


アタシも巨人化した当の本人として、生活の激変やホワイトハウスの担当者の接触、人の目など、まあ色々と大変だった訳だ。


「アタシが日本へ?」


「ああ、どうだ行ってくれるか、クロフト」


「なんでアタシなんだよ」


「クロフトが適任なんだ、日本国の巨人、サナは16の女の子だ、我が国の巨人はクロフト以外男性だろう?」


「ふうん、でアタシが行ってフレンドにでもなれと?」


「端的に言えばそうなる、我が国としても中国の巨人と接触されては大いなる懸念が発生するからな」


話をしているジョセフは巨人リリィ・クロフト、アタシ担当のホワイトハウス直属の役人だ。

各国に現れた巨人は今の所、1億人に1人の割合いで存在している、アメリカは5億人程だからアタシを含めて5人、日本は1億人ちょっとで1人、中国は13人居るとされている。


巨人に対する対応は各国共一巻して国の管理下に置かれているが、中国の巨人は全て軍属となっていた。

アメリカも巨人の5人全員が軍属で、・・・まあ安全保障やらなんやらと色々な問題が内向きにも外向きにも起きているのだ。


「我々の調査、そして大統領補佐の分析官による提言、日本人の性質を鑑みるに、巨人サナは今後高確率でアメリカに取り込めるものと見ている」


ジョセフはそう言うとシアタールームを起動して、サナのデータをアタシにも見える様にスクリーンに表示した。


「へー、つうか金髪に青い目、ロシア系アメリカ人?」


「彼女の父親がアメリカ人だ、母親は日本人、知っての通り日本人は基本的に神経質な性質だ、【穴】とモンスター、そして金髪の巨人、人が多く、狭いトーキョー在住と言うのも良くないな」


「んでアタシはこの子をアメリカに連れて来りゃ良いのか?」


「いや、上もわざわざ日本と揉めるつもりは無い、だが彼女が中国へ行く可能性を出来るだけ潰したいと考えている」


アタシはジョセフの話を聞きながらグビりとビールを飲み干した。


「ぷはー!」


「・・・」


「なんだよ、その目は」


呆れた目でアタシを見るジョセフ


「こんなガサツな女に任せて大丈夫か、と思っている」


「Hahaha!!なら別のヤツに任せたら良いじゃないか」


「女の巨人はクロフトだけだ、お前だってわかるだろう? 巨人には理解者が必要だ」


「ま、ね」


アタシら巨人を見る一般人の目は正直だ、それは好奇、興味、恐怖、畏怖、良い感情も悪い感情も有るが、共通して言えるのは「異物」へ向けられる目そのものだった。

そう考えると成程、日本で1人きりの巨人ではさぞや居心地が悪いだろうね。

調査書によると家族仲は良好、自衛隊内でも好意的に見られているが、彼女に与えられている物資や活動記録に目を通すと、ある事に気付く。


「随分、禁欲的な生活を送ってるね」


「抑圧的と言って良いだろうな、可哀想に」


3食、任務、就寝まで全て定時、滞在地である天王洲駐屯地からは1歩も外へ出ない。

服はモスグリーンで上下数着、シャレた格好は無し、嗜好品の類もほぼ無し、と来た。

アタシらはアメリカ軍属だけど、それなりに便宜を図ってもらっている、任務と引き換えみたいな感じだけど、先日の任務の報酬にビールのタンクローリーを希望してそれも叶えられている。


「おいおい、犯罪者の労役なのかコレ?」


「・・・」


ジョセフは何も言わないが同じ事を考えていたのだろう、ぐっと噛み締めて眉間にシワが寄っていた。

アタシが16の頃なんて何やってたか、アルバイトしたり遊びに行ったり、家族とキャンプしたり遊びに行ったり、まあ殆ど遊んでたわ。


「分かった、行くよ日本」


なんか不幸くさいから話を聞いて、アメリカに誘えばいいかな、なんて軽い気持ちでアタシは日本観光を決めたのだった。


「分かってると思うが、・・・脱ぐなよ」


「お前はアタシをなんだと思ってる訳?」


「俺は、お前と出会った日が忘れられない」


「いやだわー、このドスケべ野郎」


「っ、お前が、真っ裸で仁王立ちなんかするから!」


アタシとジョセフの出会いは中々ドラマチックな感じだった、巨人になって服のないアタシ、ホワイトハウスから慌ててやって来たジョセフ。

名前を聞いてくるコイツにアタシは堂々と答えたのだ


「アタシの名前はリリィ・クロフトだ」


「そうか・・・、クロフト、頼むから少し、その、隠してくれないか?」


「隠すものなど何も無いよ!Hahaha!」


「違う・・・、その、せめて股間を手で隠してくれ・・・」


「初対面で何を見てるんだよ!変態野郎が!」


とまあ、アタシがジョセフに一喝した、そんな感じだ。

実際隠すものなど何も無かったのでどうしようもない、アタシは堂々と交渉を受けて立っただけなのに今でも文句を言われるのだ。


「今も、服、着てくれ・・・」


「見えてないから良いじゃないか」


休みの日に突然来たのはジョセフだ、アタシは服は着ないで寝る派で、此処はアタシのプライベートエリア、訪れたジョセフに配慮して取り敢えずタオルを胴に巻いて招き入れたんだが、これはダメらしい。




長い船旅を終えて日本の横須賀米軍基地に寄港、到着から数日後に事態は急変した。

トーキョーの【穴】からモンスターが大量に溢れた、勿論本国ワシントンの【穴】も例外ではなく、世界各国でモンスターの厄災が起きた。


米軍から日本国へ支援の用意は何時でもあると伝えているが、まあ言う前から分かっていた通り出撃は無い。

先の大戦もあり、米軍が日本の土地を爆撃するのはどうにもイメージが悪いとの事だ。


「つっても自衛隊で抑えられるのかい?」


「無理だろうな、本国の方は大規模爆撃でほぼ押さえ込んだと報告が挙がっているが・・・」


それは逆に言えば大規模爆撃じゃないとどうにもならないって話だ、自衛隊にもそれなりに武器は有るらしいけど簡単に使用出来ない事は知っている。


「まさか、発砲した薬莢もいちいち回収してないだろうね」


「いくら自衛隊でもそんな呑気な事は、いや・・・」


笑い話だ、自衛隊は訓練時に使用した空の薬莢も全部回収しているとか聞いた時はウソだろ?と笑い飛ばしたものだ。

まさか実戦でもそんな事してないだろ、と鼻で笑えばジョセフも思案げに黙り込んだ。


・・・ウソだろ?


事態の推移は米軍が集めた情報から概ね把握していた。

モンスターパニックから数時間後、日本の巨人サナは横須賀米軍基地に現れた。

サナの姿は惨憺たるものだった、服はボロボロに溶け、足は踏み抜いて貫通した怪我、体の大きさを除けばそこらに居る若い女の子と言っていい普通の娘だ。


そんな彼女は両親と話をして弱々しく本心を吐露していた。

アタシは大いに同情した、だからコーラが飲みたいと言ったサナにアタシは応えた。


「OK!任せな!」



***



人生とはどうなるか本当に分からないものだ。

アタシが巨人になった事も、世界各国でモンスターパニックが起こった事も、そしてアタシの胸の中でサナがスヤスヤと眠っている事も。


空母R・レーガンに搭乗したアタシとサナはデカいけど狭い共同生活を送っていた、ジョセフが当初言っていた通りサナをアメリカへ連れて行く予定は無かったので、空母の甲板にはアタシ1人分のプライベートエリアしか設けていない。

ソファーは一脚だけだし、ベッドもシングルがひとつきり。


そして、怪我をしているサナの世話を焼いているとあっと言う間に情が湧いてしまった・・・

狭いベッドなのでサナを抱きしめて寝るしかなかったんだけど、この人肌を感じて眠るというのは中々馬鹿に出来ない。

巨人になってからアタシは無意識下でストレスがあったらしく眠りは浅かった、しかし人肌の温もりを与えてくれたサナが最高の抱き枕となって熟睡したのだ。


サナの両親によるとサナは自衛隊に居た時よりずっとリラックスしているらしく、アタシは礼を言われた。

だけど、救われたのはサナだけでなくアタシもまたサナに救われたと感じている。

いや、これは依存か? とも考えたが、まあ良いかとも思えた。


サラサラとサナの金髪を撫でていると薄らと瞼が上がり、青い目がアタシに向けられる。


「まだ早いから、もう少し寝てな」


「うん・・・」


キスを頭に落としてやるとサナはスリスリとアタシの胸に身を寄せ、再び穏やかに寝息を立て始めた。

裸のアタシとシャツ1枚のサナ、吐息と少し高い体温が心地よく、サナを抱き枕にアタシも穏やかな眠気に身を任せ意識を手放した。


そう、ベッドが狭いから仕方ないと言い訳をして温もり感じながら。





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