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巨人になった私  作者: EVO
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太平洋へ

米軍横須賀基地に駆け込んで3日後、私は洋上で遠く離れていく日本を見つめていた。


乗り込んだのは米軍空母R・レーガン、甲板上にはリリィがアメリカから来る際に設置された巨人用施設が充実している。

流石に空母甲板に家は建てられないらしく、天王洲駐屯地と同様に大型クレーンでワイヤーを張り、防水シートで周りを囲った大型テントなのだけど、それでもテント内には私達巨人専用のドリンクサーバーにシアタールーム、ソファーにベッドと快適な空間が作り上げられていた。


「そもそもだな、アタシら巨人は金掛かるのは分かるんだけど、じゃあアタシらのせいかっつーと違う訳だ、OK?」


「お、OK」


「だから我慢したり遠慮したりっつーのは、先ず要求をぶつけてからこそのもので、サナは、・・・なんだっけ、サヨ交渉役?にガンガン言ってみりゃあ良かったんだよ」


リリィの言う事も最もだな、と今なら思える。

私は迷惑を掛けているからって小夜さんには遠慮していた、でも言わないので当然私の気持ちは相手に伝わらない、・・・いつの間にか察してちゃんになっていたと、かなりあけすけに意見を言ってくれるリリィと話していて気付いたのだった。


ソファーに座ったリリィの股の間に私は収まり、リリィが私を抱きかかえる様にしてシアターを観ながらそんな話をしていた。


「所でリリィ、この体勢、止めない?」


「あん? 良いじゃないかよー、サナは足に穴開けてるし、それを世話するのは同じ体格のアタシしか居ないんだから」


「いや、それはそうなんだけど・・・」


横須賀基地から空母に乗り込む時も私はリリィにお姫様抱っこをされて乗り込んだ。

ママ達を助ける時に踏み抜いた足の怪我が思ったよりも重傷だったからだ。

日本の巨人である私を連れて帰ることなど想定していなかったらしく、甲板上にあるリリィのプライベートスペースにソファーは一脚しかない。

その為、ソファーに座るならリリィが私を後ろから抱っこするのが基本の体勢となっていた。


私を後ろから抱えたリリィは、ちゅ、とこめかみにキスをして、お腹の前で組んだ手に力を入れた。


「つうか人肌恋しくなんねえか? サナの父親はアメリカ人で、そんだけ英語話せるならコミュニケーションもアメリカ準拠だろ、キスとかハグとかさ」


「いや、・・・うん、まあ」


リリィが言いたい事もまあ分かる、以前はハグは勿論、おでこやほっぺにキスなんてのは挨拶みたいに頻繁にしていた。


当然ハグなんて巨人になってからはご無沙汰で、ダイレクトに温もりを感じる事など一切ない。

リリィの言う「人肌恋しい」の意味は痛い程分かっている。


「アメリカの他の人は?」


「ん? んー、あいつら4人は好みじゃないんだよなぁ」


リリィはそう言ってぎゅうーっと私を抱きしめた。

まあ私も嫌いじゃない、体温とか息遣いも相まって、なんとも言えないポカポカとした幸福感を得られるので寧ろハグはかなり好きだ。


「イヤなら止めるけどね、でもサナも満更じゃなさそうだし」


まあ、うん、パーソナルスペースが近いリリィに困惑はしてるけど不快感は無い。


「会って3日だけどね」


「ハハッ、こういうのはフィーリングって奴さ、それにアタシ自身もここまで人肌恋しくなってたとは思ってなかったんだよ?」


あー、アメリカの方の巨人は男性が4人に女性のリリィが1人、ハグとなると恋人か家族って事になるけど、リリィは4人を好みじゃないと言う。

つまり私はリリィの好み、という事になるのかな・・・


「歩けないサナを世話するのはアタシ、ベッドもひとつでどうせ一緒に寝るんだから構わないだろ?

流石に野郎に世話されて、ハグされて、ベッドも一緒だと持つ意味合いが全然違うし」


それは、ね、セクハラというか、なんというか、同性だからセーフってのは有るよね。



***



「さって、メシだメシだ」


「空母の食事って何が出るんだろ、ちょっと楽しみ」


「HeHeHe~、楽しみだろう?」


リリィは何やら意味深な表情でニヤアと笑った、え、何?


「くくく、喜べサナ!今日の昼食はオートミールだ!」


「え゛」


リリィの言葉を聞いて私の頬が引き攣った、オートミールかぁ・・・、えー、・・・ヤダなぁ。


「嫌いか?」


「まあ、好きな人、居る?」


「居ないな、アタシも嫌いだ」


ですよね!オートミールだよ、オートミール!

日本語で言えば洋粥、厳密に言うとオーツ麦の粥、オーツミール、オートミールだ。

私はベーコンやステーキが大好きだ、フライドポテトはじゃがいもだから野菜だし、パンも小麦粉だから野菜、飲み物は勿論ダイエットコーラ。

アメリカ人のパパがそういう手料理を作るというのもあるので、私の舌は一般的なアメリカ食に慣らされている。

そんな家庭事情の中、日本人のママが作るのは日本食で、こちらもまあ良いんだけど、栄養満点で健康に良いからと言う理由でウチでもオートミールは結構な頻度で食卓に並んでいた。


基本ね、オートミールは美味しい食事にならない、粥だもん。

米軍で出て来るオートミールなんて絶対不味いに決まってる(偏見)、ましてや私達巨人が食べるので物量重視。

大雑把なアメリカ人が作るオートミールなんて、絶対不味い(確信)


「因みに、夜もオートミール、明日の朝もオートミール、次も、その次もオートミールだよ」


いや、食べるよ?

不味くても必要な食事だし、粗末に扱うなんて有り得ないからね。

洋上だから早々補給もないし、巨人の胃を満たす食事を1日3食、アメリカに到着するまでの日数を賄うには最適な料理だ。


「安心しなよ、あっちに着いたら肉食えるからさ、まあ艦の上じゃ仕方ないねえ」


「うん・・・」


私はため息と共にオートミール生活を覚悟したのだった。

自衛隊の食事は美味しかったよ・・・





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