終わりの始まり5
パバの言葉にスーツの人はサッと顔色を変えた
「きょ、【巨人】が生活する場はどうするのですか? 言っておきますが【巨人】の食費だけでも月に100万は超える」
「それは貴方が心配する事ではない、行こうサナ、海沿いに神奈川県へ」
「え、神奈川県? どういうこと?」
ママとパパは事前に何かを決めていたのか、お互いに顔を合わせ頷くと車に乗り込んだ。
「サナ、怪我は向こうで治療してもらいましょう、もう少し我慢できる?」
「え、あ、うん・・・」
向こう?
私は疑問を覚えながらママ達が乗り込んだ車を再び持ち上げると、海岸線をなぞるように神奈川県へと歩き出した。
ママ達を助ける為に天王洲駐屯地を飛び出した時は気にせずに走り抜けたけど、港湾というのは立ち入り禁止区域が多い。
事前にママとパパは調べていたのか車の中から進む道を案内してくれる、天王洲から神奈川県への南下なので海岸線だけを進むとはいかない、それでも車の往来が少ない公道をゆっくり歩く。
30分程経った頃には身の回りを数機のヘリコプターが飛び回っていた、カメラを向けてくる報道へリも居れば、モスグリーンの自衛隊機も居る、勿論通り掛かりの人やビルからスマホも向けられた。
そうして1時間、なんとか事故や被害を出さずに歩いて到着した先は・・・
「ここって・・・」
在日アメリカ軍、横須賀基地だった。
***
門の前で車を降ろす、パパが歩哨の人と話し、歩哨の人がどこかへ連絡して、すぐに門が開けられた。
「サナ、ついてきて」
ボコボコになった空色の車の後を追って私は敷地へと入った。
「ママ、パパ、どういう事?」
状況についていけない私は2人に聞いた、米軍基地に簡単に入れない事は常識的に知っている。
なのに、まるで私達が来るのを待っていたかのように簡単に敷地に入れたのだ。
「サナ、私達はね、ずうっと考えてきたの、あなたに何をしてやれるか、このまま自衛隊の元に居てもいいのか」
「うん・・・」
「【穴】から蟻の化け物が出て来て、サナが駆除に駆り出されて、自衛隊が、防衛省がサナをどう見ているのかも考えて考えて、そして決めたのよ」
ママの言葉をパパが引き継いで言った
「サナ、アメリカに行こう、天王洲駐屯地しか居場所が無いなんて思って我慢なんかする必要は無い、私達は知っている、サナが我慢をしている事を。
・・・アメリカに行ったからといって好転するとは限らない、日本と同じで国に、軍に組み込まれるかもしれない、でも、きっと選べる、それにアメリカには5人の仲間も居るだろう」
「国籍だって選べるわ、20歳でアメリカ国籍を選んでもいいの、アメリカ大使館を通して本国との話し合いもしているの」
「横須賀基地に来たのは、【穴】から化け物が現れてからアメリカ大使館は横須賀基地の敷地内に本拠を移動したからだ」
そういう事だったのかと沢山の疑問が解けていく、ママ達は私が我慢している事なんかお見通しで、でも私が天王洲駐屯地から出て行って生活するには障害が多過ぎた。
衣食住、何をするにも体が大き過ぎる私にはお金が掛かる、一応生活補助の様な名目で区から支援は受けられる事は確認したけど、法律に照らすと私はいち国民、月に数万円貰った所で食費にもならない。
巨人が生活するように法律は出来ていないので、私がお腹を空かせるから月に100万円渡すなんて出来ない、このまま日本に、自衛隊に居ていいのか、ママ達も悩んでいる最中に【穴】の蟻の件だ。
私が怪我を負った事で自衛隊には居られないと判断したそうだ、・・・私がやると言ったのも気を使っての事だと丸分かりだったし、矢面に立つのが【巨人】の私で、後方に自衛隊が控える作戦には不信感しか無かった。
「そもそも娘が傷つくのを良しとするつもりなんて私達にはサラサラなかった」
「サナ、我儘言っていいのよ、確かにお金の問題は有るから出来ない事はあるけど、それでも全部我慢してサナがイヤイヤ自衛隊に居続けることはないのだから」
私、我慢しなくていいの?
「いいとも」
ママとパパは2人とも笑顔で頷き、私はポロポロと溢れる涙を止められなくなってしまった。
「ヒック、ヒック、パパのピザ食べたい」
「一緒に作ろう!」
「うう、ズズっ、ママにハグして欲しい」
「勿論よ」
「・・・コーラ飲みたい」
「OK!任せな!」
「「「え?」」」
横合いからの相槌に顔を上げると、いつの間にか私達の周りには人が何人も集まっていた。
スーツ姿の大使館の職員、軍服の基地の人、・・・そして、私より大きな巨人の女の人がサムズアップをしてこちらを見ていたのだった。




