終わりの始まり4
元来た道を今度は1時間程掛けて歩いて戻った、足を貫いた傷が痛むのもあるし、ママ達の車を落としたり潰したりしないように気を付けながら移動した、川の水が傷に滲みて酷く痛んだ。
「っ、はあ、はあ・・・」
「サナ、私達は大丈夫だから下ろしなさい」
「・・・やだ」
河川敷を歩いているから関係無いけど、大混乱の東京の道は何処も大渋滞を引き起こしている。
ママ達と此処で別れたりするとさっき襲われていた様な状況になるかも知れない、ギリギリ間に合ったけど次は間に合わないかも知れない。
安全が確認出来ない限りは私はママ達と離れたくなかった。
近くの港湾に入り、水路を跨いで漸く天王洲駐屯地の敷地に戻ると異様な雰囲気に気付いた。
避難民が私を、まるで責めるような視線で見ていた。
そして、テント近くまで来ると車を降ろして潰れた屋根を取り払った。
すると自衛隊の車輌が集まり、その中の1人———蟻の駆除の時の指揮を取っていた人———が声を張り上げた。
「【巨人】サナ、君は現在複数案件の容疑者だ」
———え
「先ず、器物損壊、多数の道路交通法違反、殺人未遂、」
私は頭が真っ白になった、器物損壊は確かにあちこち壊してしまっているからそうなんだけど、殺人未遂?
「待ってください、道路交通法違反? 殺人未遂? どういう事ですか?」
あの人が言うには私は信号無視や速度超過等の多数の道路交通法違反の容疑があるらしい。
殺人未遂については人を潰しかけた事と、助けを求めたのにその場を立ち去ったから「何故助けてくれないんだ」と自衛隊に電話が殺到しているとか。
「わ、私は足下を注意して歩いたし・・・」
「キミが気を付けたかどうかなど関係無い! 一般人が身の危険を感じた事が問題なのだ!こんな非常事態に余計な事をしてくれて」
「サナは私達を助ける為に」
「ご両親、目的をどうこう言ってる訳ではありません、【巨人】が我々自衛隊の管理を振り切って勝手に市街地へ行動を起こした事が問題なのです。
天王洲駐屯地での生活に関して、事前に自衛隊の指示には従うよう契約書を交わしましたよね?」
「管理とは・・・まるでサナが自衛隊の持ち物の様にいいますね」
「事実上、【巨人】は自衛隊預かりの身なので間違いではない、天王洲駐屯地にしか身の置き場が無いのであれば、そうでしょう?」
ニヤリといやらしく笑うスーツの男にパパは拳を握り1歩前に踏み出した、ママがすぐにパパの腕を取って止める。
私だって好きで此処に居るわけじゃない、家に帰れるなら帰りたいけど、そんな事が出来るはずもないのは私が一番分かっている。
「まあ、あくまで容疑で、通報があったからと言っても捕まる訳ではないが、こちらにまかせて貰えるのであれば警察の方は何とかしましょう、但し【巨人】には正式に自衛隊に入隊して頂きますが」
「話にならない、サナを自衛隊に? 今の状況で娘を自衛隊に入れるなんて許すとでも?」
「小夜さんはどうしたんですか、サナに関わる事は小夜さんが一手に引き受けていましたよね」
「ああ、折衝役は【巨人】の管理不足を招いたとして担当を外れてもらいました、今後は私が折衝役として【巨人】担当をしますよ」
「・・・」「・・・」
「え、小夜さんが外された? 私のせいで?」
私は衝撃を受け、言葉を失った。
と、ここでパパがくつくつと笑った
「なるほど、巨人巨人と来て、小夜さんを外し、自衛隊入り、ね」
あまりに低い声のパパに私はビクリと震える
「OK、分かりました、出て行きましょう天王洲駐屯地」
「え?」
「は?」
にこやかに言い放ったパパの一言に私とスーツの人は戸惑いの声を挙げた。




