終わりの始まり3
足元の道路は車が乗り捨てられていて、車道と歩道を走って逃げる人で溢れ返っている。
ママ達の車はまだ見つからない、練馬区の方からは蟻や飛蝗が見えて来て、しかも酸の水玉が飛び交い建物に当たっては白煙を上げて溶けていく。
「ママ!パパー!どこー!!」
1歩1歩中央分離帯を進む、空色の車はまだ見つからない。
もう既に埼玉県に逃げている? ・・・分からないから探すしかない。
プワーーーっ!!
一際大きなクラクションが鳴り響いた、見るとトラックが無理矢理車を押し退けて進もうとして、すぐに止まっていた。
その数台手前に空色のコンパクトカーが見えた、周囲は車に挟まれているけどきっとママ達に違いない!
車を発見するのと同時、複数の水玉があちらこちらから飛び交い、地面に落ちた。
私は堪らず中央分離帯を走る、
「っ!!」
突然の足の痛みに驚く、見れば踏み潰した金網のパイプが足袋を貫通していた。
私は激痛を無視してそのまま走った、酸の水玉がママ達の車に当たりそうな軌道で飛んで来ているのが見えたからだ。
バシャッ、ジュウウウ!!
「うう、ああっ!!」
ギリギリのタイミングで私は車を手で覆った、肌を焼くあまりの熱さに反射的に手を引きそうになるのを必死に堪える。
背中も焼けるような熱さに包まれていたけど、動く訳にはいかない。
「ママ、パパ、間に合った・・・」
手を退かすと空色の車は所々腐食している、それでも車内のママとパパは無事で、驚いた顔で私を見ていた。
私は車を持ち上げた、酸の水玉が落ちていることから蟻や飛蝗の群れがもう目の前まで迫って来ている。
「サナ、手が・・・」
「大丈夫、なんでもないから!」
それよりも足の方がズクズクと痛むけど我慢して笑う、蹲っている暇はなかった。
「俺も助けてくれ!」
「こっちも頼む!」
「助けて!」
足下に何人もの人が集まってくる、向こうからは化け物の大群、私の手はママ達を乗せた車で手一杯だ、余裕は無かった・・・
「はあ、はあ、ど、どうしよう・・・」
遠目に蟻に捕まった人も見えた。
助ける? 無理だ数が多過ぎる、戦う? もっと無理だ、人が逃げずに居るので私は足下を気にしないと動けない、それに蟻の体液は踏み潰すと飛び散って危ない。
蟻の体液や酸の水玉は劇物だ、巨人になった私は体質が変化していて浴びても火傷程度で済むけど、一般人が浴びた場合は骨も残らないと小夜さんは言っていた。
バシャッ、バシャッ、蟻の、いや化け物達の泥の様な大群から水玉はあちこちへ飛び交い、そして恐ろしい叫び声もあちこちから挙がっている。
「サナ、危ない!」
「え、きゃあ!?」
棒立ちになっていた私に酸が飛んで来た、顔面に当たりそうになり私は躱した。
グシャッ!
力んだ拍子に私はママ達の乗る車を握り潰してしまった、バンとガラスが全て弾き飛ぶ。
「ヒッ、ママ!パパ!?」
「大丈夫」
「大丈夫だよ」
ホッとする、どうやら屋根を潰しただけでママとパパは体を縮こまらせて無事でいた。
やっぱりダメだ、ママ達を持ったままでは何も出来ない、私は来た道を戻る事にした。
「あっ、おい、たすけてくれよ!」
「たすけて!死にたくない!」
「巨人!何のために来たんだよ、助けろ!」
「逃げるな!戦え!助けろ!」
「ご、ごめんなさい」
「ゴメンじゃねーんだよ、助けろ!」
「お願いします、助けてください!」
「せめて化け物を殺せよ、早く!」
「嫌だ、死にたくな、ぎゃああああ!!!」
周囲から怒号と罵声、悲鳴が挙がっていたけど、私は
ママ達を助ける為にこの場を後にした。




