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巨人になった私  作者: EVO
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終わりか始まりか

「何処に置いていたかな」


「確か、ここに・・・、ほらあったわ」


週末、私と夫はいつもならば娘のサナが居る天王洲駐屯地で穏やかに過ごしていただろう。

しかし今日はとある予定の目処が立ったので板橋区のホームに戻り荷物の整理と持ち出しの確認をしていた。

3人分の小冊子を手に取りバッグに収め、思い出深い私物を厳選していく、全部は持って行けないので着替えとアルバム、その他小物類をまとめる、勿論サナの部屋にある物もある程度選別をして持ち出す。


残りは業者が処分してくれることになっているので、この家に来るのは最後になるだろう。


『テレビをご覧の皆さん、番組の途中ですが緊急速報です、練馬区の【穴】から化け物が溢れ出しています!近隣の住民の方は慌てず冷静に避難して下さい!』


つけっぱなしにしていたテレビから不穏な情報が聞こえてきたのは、リビングでひと息ついていた頃合いだった。


夫と見合わせテレビを食い入る様に見ると、そこには【穴】から溢れかえる化け物の群れが東京全域に拡がって行く光景だった。


「っ」


「スグに出よう」


息を飲む私に夫の行動は迅速だった、幸い荷物は車に積み終わっているのでテレビを消すとブレーカーを落として車にすぐ乗り込んだ。



***



家を出発して10分程、練馬区から遠ざかる様に大通りに出た私達は北へ、埼玉県に1度入ってからグルリと海岸線を回って天王洲駐屯地へ向かうルートを選択した。

しかし、片側3車線の道路は車でいっぱいになり、あっという間に渋滞に巻き込まれた事で全く前に進めなくなってしまう。


「・・・車を置いて歩いて行くか?」


「でも荷物が・・・」


「最悪、このバッグ一つだけで行くしかないな」


車載ナビのテレビからは避難を呼び掛けるアナウンサーが繰り返し言っていた、練馬区から東と北方面、つまり、私達が居る板橋区へ向けて多くの化け物が侵攻しているらしい。


練馬区の方を見ると黒煙が上がり、窓を開けると遠くから聞こえる怒号が少しずつ近付いているように感じられた。

車は、ピクリとも動かない・・・


ぽつりぽつりと車を放置して車道と歩道に人が溢れ始めた、状況を考えると車で前に進む事は不可能に近い。


「歩いて行こう」


夫の言葉に私も頷いた時だった、ゴンッと車が揺れた。


「なにっ!?」

「えっ」


車内で後ろを振り向くと数台後方に大型トラックが居て追突していた、・・・前も後ろも詰まっていた事を考えると無理矢理押し退けようとしたのかクラクションを鳴らして怒鳴っている様子が見て取れる。


ゴリゴリゴリと押された車は横を向いていく、ギギギギと軋みをあげて動きが止まった頃には四方を車に囲まれてしまい、ドアを開けることは疎か、窓を開けても出られる状態ではなくなってしまった。


「そんな」

「くそっ」


ガラスを割る道具は載せていない


「どけー!」

「うるせえ、てめーこそ下がれよ!」

「アリだー!」

「逃げろ!」


怒号はすぐそこまで来ていた、夫がシートを倒してフロントガラスを蹴っ飛ばすけどビクともしない。


「あのっ、誰か、助けて下さい、出られないんです!」


外に助けを求めたけど殆どの人はこちらを見もせず車を乗り捨てて車道を走って行く、何人か一瞬視線を止めてくれた人も居たけど、後ろを見やると走って行ってしまった。


その時だ、近くの歩道に大きな液体がボチャリと落ちたのは。


「ぎゃああああ!」

「熱い、誰かっ」

「うわ、溶かされる、に、にげろ!」


目の前で人がドロリと溶けた、四方を閉ざされた狭い車内から得られる限られた視界には数え切れない化け物が迫って来た光景だった。


「ああ・・・」

「そんな」


かさかさかさかさかさ


足音が聞こえた、狂乱、怒号、人の声ともつかない叫びが周囲を埋めつくしていく。


ボチュン、ボチュンと近くに水玉が落ちては車を、人を、建物を溶かしていく。

夫は私を抱き締めた、私達はいつ溶かされるのか、今この瞬間にも死んでしまう恐怖に怯えた。


バチャンっ、ジュワァァァ!!


それが聴こえたのはすぐ近く、車の真上だった。

私達は次に訪れるだろう痛みと苦しみを予想し、体を強ばらせるしか出来ない。

窓を液体が濡らして、ボンネットにもボタボタと液体は降り注いだ。







「・・・」

「・・・?」


しかし、いつまで経っても私達は溶かされる事は無かった、恐る恐る目を開く。


「ママ! パパ! 良かった間に合った・・・」


そこには娘が、サナが大きな手で車を覆うようにして立っていた。






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