終わりの始まり2
「サナちゃん、駄目よ!」
「小夜さん、でもママとパパが家に・・・」
「すぐに保護するわ、ヘリを飛ばしてもらうから、あなたは此処に居て」
小夜さんはすぐ様どこかに電話を掛け始めた
「小夜です、大至急ヘリを一機・・・」
私の耳にはスマホの向こう、相手の声も聞こえてきた。
『何を言ってるんだ!この緊急時に!【巨人】の身内だからといって特別扱いなんて出来ない!』
ですがっ
『今は忙しい、やる事があるのだ!他を当たってくれ!』
電話はすぐ切られる、小夜さんは何回も何回も電話を掛けるけど、穴から溢れる生き物の対応の為に手一杯でヘリはおろか車輌の1台も許可は降りない事が聞こえてきた。
その間もテレビから聴こえてくる音は切迫の度合いを増していく。
『皆さん、これはリアルタイムの映像です!逃げてください!』
『特に板橋区、中野区、豊島区、新宿区の人は急いで【穴】から距離を取る行動をして下さい!』
「あ、待って下さい、お願いします! あっ・・・」
『車の避難は渋滞の原因になります、公共の交通機関または徒歩での避難をお願いします、緊急車両の活動に・・・』
「サナちゃん、お父さんとお母さんの迎えには私が行ってくるわ」
真っ青な顔で言う小夜さん、私は間に合わないと直感した。
天王洲から板橋区の家まで何も無ければ1時間も掛からない、でも周辺の避難で道路には車が溢れ返っているだろうし、首都高も同じだろう、今から向かって何時に到着出来る? 間に合わない・・・
私は、駆け出した。
「あっ、サナちゃん駄目よ!お願いっ、止まって!サナちゃん!」
悲痛な声色で叫ぶ小夜さんを振り返る事なく、私は天王洲から板橋区の家へと向かった。
海岸線を北上しつつ、港の水路は飛び越えて隅田川まで、隅田川から上流へ、途中荒川へと移って進めば板橋区の北側から南下して家へと辿り着くだろう。
道路は使えない、渋滞もあるけどそれ以上に電線が張り巡らされていて、足下を気を付けながらなんて無理だ。
踏み込みで港の岸壁が砕け、護岸コンクリートや土手、河原の土がめくれ上がるのも構わず私は全力で走った。
橋はひと息で飛び越える、信号は無いので1度も止まることなく見慣れた建物が視界に入り始めた、体感で20分も掛からずに天王洲から板橋区に着いた。
パー、パパー!!
クラクションがそこかしこから上がり、道路、特に下り線は大渋滞で足の踏み場も無い。
上り線はまだマシだけど、やはり電線を縫いながら車と人を気にして進むのは難しい。
ビルの屋上を飛び移る?
ううん、壊れたら大変だ・・・、だから私は大通りの中央分離帯を踏み付けて南下した。
金網フェンスを潰してしまうけど、そんなのに構ってはいられない、練馬区方面からは黒煙が上がり、蠢く黒い泥も視界に入っている。
ママ達が避難するなら、この通りを北上して埼玉県に抜ける筈だ、私なら目立つからこのまま進めばきっと会える。
会える筈だと祈り、足下の車を確認しながら進む、ママ達の車は私が空色が好きだと言ったのでスカイブルーのコンパクトカーだ、割りと目立つし、そこまで数もないので見逃すことはない。
「ママー!! パパー!!」
叫ぶ事で周囲から沢山注目を集める、大小様々な声が耳には届くけど、どうでもいい。
「巨人だ! バケモノぶっ殺しに来たんじゃね」
「うおー、頼むぞー!」
「とっとと何とかしろよ!税金で食ってんだろうが、自衛隊がよー!」
「慌てて逃げて損した!」
歩道、車道、建物の窓からそんな声が聞こえてくるけど構ってられない、何故なら私の目と鼻の先には黒い泥水の群体、蟻や飛蝗が迫っていたから。




