表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨人になった私  作者: EVO
17/119

終わりの始まり

私が巨人になってからと言うもの、週末にママとパパは必ず天王洲駐屯地に来てくれた。

朝から一緒にご飯を食べて、なんでもない事を話して、港湾の方で釣りをしたり、何もしなかったり、でも必ず一緒の時間を過ごしていた。


土曜日の今日、ママとパパは板橋区の家に用事があるから来れないと前日に言っていた。

最近は何も無い時はずっとテントの中に居て、テレビを聞いている。

まあ音量を上げてラジオの様に使っているから映像を観ている訳では無いのだけど・・・


「———サナちゃんは何がしたい?」


「え?」


傍らには小夜さんが立っていた。

平日にはママが、週末はママとパパ2人が、必ず会いに来てくれる。

小夜さんは私が毒で倒れてからというもの、2人がいない時間にテントに足を運んでくれるようになっていた。

今日は両親が来ないということで朝から一緒にご飯を食べて、雑談をしていたのだ。


聞くともなく聞いて、話していた雑談は【穴】の件が落ち着いたら私はどうしたいか、との事だ。


何が、と言うと私は言葉に困ってしまう、私はやれる事があまり多くない。

服は全て小夜さんが手配してくれたものだし、住む場所は簡単に変えられない、食事にしても避難所の方から()()()()()()話によると私の食費はひと月に数百万掛かっているらしく、諸々の事情を考えると私はママとパパの3人暮らしの元の生活には戻れないだろう・・・


こんな事になる前なら、家でラフな格好で居たり、好きなコーラを飲んだり、ママの手料理を食べて、パパの作るジャンクフードを楽しんで、それからそれからちぃちゃんと遊んで、将来は・・・、なんてダラダラと日常を過ごしていた。


今は、分からない。


元の日常の時は高校卒業して、専門か大学に行って、働いて、ぼんやりと好きな人が出来たら結婚するか、それも日本か、アメリカに行っていた可能性もあったりと、それなりに視界は開けていたように思える。


今は、高校も中退で、この先何処かの学校に行くのも難しく、日本にはこの天王洲駐屯地以外には居場所が無いと思うし、アメリカには行く方法はない。


好きな人だって、巨人の私には恋人が出来る筈も無ければ、結婚なんて夢のまた夢だし、何がしたいと言われても・・・


「私、は・・・」


「うん」


小夜さんも私の考える事は理解しているのだろう、口篭る私の言葉にジッと待ってくれる、決して急かす事はなく。


『———番組の途中ですが緊急速報です、練馬区の【穴】から大量の敵性生物が溢れ出しています!

近隣の住民の方は命を守る行動をして下さい、慌てず冷静に【穴】から離れて下さい!』


掛けていたテレビから不穏な音が聞こえてきた、私と小夜さんはハッとしてテレビを見入った。

望遠の空撮だろうか、画面揺れが大きいもののアナウンサーの言葉通り【穴】からは大量の、と言うのも生温い、夥しい数の生物が溢れ出していた。


蟻、ダニ、土竜、飛蝗等、小型の昆虫類が真っ黒な泥水が溢れる沼のような様相を呈している。

黒い泥水は【穴】から全周に渡って拡がって行く、その時点でカメラはグッとズームアウトして全域の状況を分かりやすく見せた。


『これは訓練ではありません、現実に起こっているリアルタイムの映像です、慌てず冷静に【穴】から離れて下さい、敵性生物が東京都全域・・・、特に東側と北側に向かって侵攻しています。

対象区域の住民の皆さんは速やかに避難して下さい、命を守る行動をして下さい、繰り返します・・・』


練馬区にある【穴】から東と北側に侵攻?

私はそれを聞いた瞬間血の気が引いた、今日ママ達は板橋区の家に荷物を取りに行くと言っていた、板橋区と練馬区は隣接している、練馬区から見て板橋区は東の方向にあった。


「・・・小夜さん」


「だ、大丈夫よ、穴は自衛隊が周りを囲んで封鎖しているから簡単には・・・」


『ああっ!? 自衛隊がっ!!』

『自衛隊は銃を携帯して封鎖任務をしていましたよね、今の映像では銃を撃つこともなく、いえ、もっと言うなら構える事もなく大軍に飲み込まれたように見えました、コメンテーターの田中さん、これはどういう事でしょう』

『えー、これは簡単な事です、練馬区は全住民の避難が終わっていると言っても区の境界、板橋区、杉並区、豊島区、中野区には住民が居ますね、民間人の居る状況での発砲は自衛隊は想定していません』

『緊急時でも撃っちゃ駄目なんですか?』

『はい、先日の特措法で自衛隊の武器使用のハードルはこれまでより遥かに低くなりましたが、それでも事前に選定された武器を、限定した状況にのみ許可が降りているに過ぎません。

少し前に自衛隊の駐屯地に熊が侵入した事件が有りましたが、最終的に熊を駆除したのは警察立ち会いの猟友会です、人が居る土地での銃器の使用はそれだけ難しいのです』

『つまり、緊急時でも命令が無ければ撃てないと、警察は?』

『警察は自衛隊よりも拳銃の使用は容易です、年に数度は暴漢に向けて発砲したと報道されますでしょう?

警察は緊急時の発砲が認められています、まあ山のような報告書と始末書を書くことになりますが。

ただ、この数を相手に制服警官が持つリボルバーでは対応出来ません、自衛隊のような自動小銃、所謂アサルトライフルと呼ばれる銃火器が最低条件になります、しかし』

『しかし?』

『敵味方入り乱れた乱戦時には警察も自衛隊も発砲は絶対にしません、今は【穴】から離れる事が最善でしょう』



テレビの話を聞いて、慌ててテントから外へと出た、しかし小夜さんの声が私を止める。


「サナちゃん、駄目よ!行っちゃ駄目!!」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ