自衛隊 5
「蟻の次は蛇か」
「あれは巣穴か? 解析はどうなってる」
「未だに電波、通信は遮断されていて不明だ」
「使用火器の再選定が必要だな」
「市街地だ、選択肢は多くはないぞ」
「避難命令を出すしかあるまい」
————防衛省第2会議室
先日【穴】から現れた蛇の球状の化け物には機関砲が全く効かなかった。
その場に居たサナちゃんの活躍によって人的被害はゼロに抑え込めたけど、色々と課題が浮き彫りとなっていた。
先ず、封鎖された【穴】周辺の民間人の避難について、結果的に自衛隊にも民間人にも被害は出なかったが、あくまでも結果的にであって1歩間違えば多数の死傷者が出たことは否定出来ない。
また、火器使用に関しても機関砲が多数の跳弾として弾き返されたので、より強力な武器の使用が必要となっている。
特措法で自衛隊の武器使用のハードルが低くはなったものの、それでも基本的には事前に選定した火器の使用が大前提となっている。
「しかし、巨人の戦闘は許可していない、あくまでも「駆除」でなければ」
「あれは不慮の遭遇戦で」
「撤去予定にない電柱を引き抜いて停電が発生、市民や電力会社からも苦情が」
「お言葉ですが! 彼女はよくやってくれました、あの子か居なければ死者も出ていたと思います」
「結果論で物を語るな、折衝役」
「そうだ、巨人が民間人を踏み潰しでもしていたらどうなっていたか」
これだ、そもそも最終防衛線として抜けてきた蟻の処分をサナちゃんに任せていたのにも関わらず、いざ不測の事態となれば責任を問う。
サナちゃんはその身を呈して戦い、蛇球から受けた毒で苦しんでいると言うのに、この扱い。
私の言葉は本省には届かず、拳を握って耐えるしかないのがまた苛立ちを加速させた。
何度も具申しているがサナちゃんは自衛隊預かりであって自衛隊隊員ではない。
命令を待たずに勝手に行動した? あの子は自衛隊隊員では無いし、命令なんて待っていたら人が死んでいた。
命令を軽視する訳ではないけど、指示待ちで解決出来た事案ではなかったのに・・・
サナちゃんの血液検査の結果で、毒は未知のものと判明したけど、巨人である彼女の抗体反応もまた並の人間ではない反応を見せていた。
まだ熱が出ていて寝込んでいるけど、複数の毒の専門家、医師によると数日中には快癒するだろうとの事だ。
今のサナちゃんの状況に私は深い悔恨の念に捕らわれる。
お世話になっているからと、自分に出来ることはないかと言ったサナちゃんに土木工事の施設科を提案したのは私だ。
彼女の仕事ぶりは担当自衛官、施設科の佐藤中隊長から報告を受けていて、真面目で丁寧、しかも重機を使用するよりも遥かに効率的だと言われていた。
そこで止めておけば良かった。
【穴】から蟻が現れて、武器使用の特措法成立までの一時的な対応だからと、サナちゃんに蟻の「駆除」という前例を作ってしまった事で、戦場と言っても過言ではない場所に、彼女を配置するハードルが遥かに低くなってしまった。
背広組の言い分としては本人から了承を得た駆除作業、あの時どんな手を使ってでも私はサナちゃんの駆除作業を止めていれば、今こんな事にはなっていなかったのに・・・
何の為の自衛隊なのか、私は自分の自衛官としての仕事の意味が分からなくなり始めていた。




