任務
「アーニャはイブの指示に従って動いてね」
「ええ」
アレから態度を軟化させたアーニャは米軍に入る事を承諾、そして両親と共に亡命する事を決めた。
と言ってもアーニャの両親は他国で死亡したことになっている、アーニャは隠しようが無いので仕方が無いとして。
ご両親はその方が身の安全を担保出来ると提案されて、それを飲んだカタチになる。
ロシアからはそれはもう強烈な抗議を発された、自国民だから帰せ、なんならアメリカを拉致国家と罵る程に。
しかしアメリカは冷静に対応した、本人が望んだ事だと、捕虜から亡命は国際法上にも則り何も問題が無い事を強調した。
本来なら開戦にもなりかねない事態だったけど、それには及ばなかった。
西側諸国への軍事作戦、北海道侵略失敗による海軍の大損害、そしてモスクワの【穴】からは他国より遅れて泥の巨人が現れた、それにより軍に余力が全く無い事が理由となる。
さて、アーニャが米軍入りを決めたと言っても国家的にそう簡単に信用する訳にはいかない。
訓練を施して強くなってから裏切られたら、武器を渡して背中を刺されたらという懸念は特に軍上層部とホワイトハウスに根強い。
私は大丈夫だと思うけどなー、って言うのは簡単だけど、それは責任を取る立場に無いから言える事だ。
というわけで、アーニャの役割りはポーターになった。
護身用にアンドリューの警棒を一本のみ携帯を許され、弾頭に補給食と水を背負って後衛に徹する事を厳命された。
***
フロントマンはアンドリュー、ランディ、ライアンの三人、格闘武器を携帯しているものの主兵装はレールガンで、敵性生物が近接する迄に殆どが撃滅された。
「おー、やっぱり銃は強いね」
「だな」
閃光と同時に敵性生物は弾け飛んだ、遅れてドゴーン!と爆発音が聴こえてくる。
音速を軽く超えた弾丸は流石の一級でも躱しようがないようだ。
中衛にリリィと私、こちらは抜けて来た敵性生物の処理と前線の三人の忙しさ次第ではフロントマンに加わる布陣。
さらに後方、私達から見える位置にアーニャが待機するといった具合になる。
『抜けたぞ!』
「了解!」
レールガンは強力だけど連射は出来ない、射手と電力ケーブルを捌くのに二人一組、そして前衛を抜けられると後方に向けては撃てないのが弱点となる。
ランディが射手、アンドリューがケーブル捌きと近接護衛、ライアンがフリーでフォローする。
複数の第一級敵性生物が襲って来るとどうしても手が足りない、なら私達もフロントマンに加われば良いのだけど、一列、二列と布陣した方が安定して討伐出来るのでこうなった。
ドスドスドスドス!と足音を立てて現れたのは泥の巨人、勿論サポートシステムとイブのバックアップにより移動経路も姿も既に捕捉している。
私は刀を抜いて構えた、泥の巨人はライアンの一撃を食らっていたのか片腕が無い、敵性生物の恐ろしい所はどんなに負傷しても退かない所だ、逃走と見せ掛けて誘い込む事は有っても絶対に退かない、前に進み目に付く生物を蹂躙する。
「ほい」
手前200mを切った所でリリィは泥の巨人へ手榴弾を投擲した、手榴弾は巨人の前で炸裂、大量の煙で覆い隠した。
日本では自衛隊の榴弾砲で特に使用された煙幕弾、それをベースに開発された手榴弾だ。
「Gyyyyyyaaaa!!!」
泥の巨人は構わず突っ切って来た、けど突撃した先に私はもう居ない。
煙幕に包まれようが電子ゴーグルのサポートで私達からすれば丸見えだ、タイミングを合わせて跳躍、煙幕を抜けた瞬間の無防備な泥の巨人を直上から真っ二つに斬り裂いた。
「いいね」
「うん」
ヒュンと血ぶりをして納刀、問題無し!
『凄い・・・』
その後、何体か敵性生物を相手にしたけど、特に苦戦する事なく全てを討伐した。
アメリカでは定期的に間引きをしているので余裕を持って討伐任務を遂行出来た、日本だとどうしても数が多過ぎて複数相手にしてので、それと比較するとかなり楽だった。
「ワタシ、あんなに上手く戦えるのかな」
「え、アーニャ前に出るの?」
「え?」
「え? ・・・リリィ?」
「んー?今は隊の割り振りも足りてるしなぁ、アーニャは好きにしたらいいと思うよ?」
「だってさ」
初めて任務を終えてホームに戻ると、ポツリと自信なさげにアーニャは零した。
リリィの言う通り各役割りは足りているので今の所彼女を前へ押し上げる必要はないと思う。
「いいの?」
「良いんじゃない? ね、リリィ」
「ああ、まあ最低限の護身程度には強くなって貰わないといけないけどね」
不測の事態はいつも起きるからねぇ、泥の巨人をある程度凌げるくらいになれば安心出来るようになるよね。




