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巨人になった私  作者: EVO
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アナスタシア 1

「あ、リリィ、スミルノフさんはどうだった?」


「大丈夫、意識は戻ったし、怪我も後遺症もないよ」


「そっか、じゃあ私謝りに行ってくる!」


「Heyhey.よしなよサナ」


「? なんで?」


「あのなぁ、ボコした相手が「貴女をボコしてすいません」なんて、どういうイヤミだよ?

ちと込み入った話もしたし、せめて今日はそっとしておいてやりな」


「う、うん、でも込み入った話って何?」


「まあ色々とな、ああサナの事も誤解だったって事は理解したみたいだから、明日からはマシになる筈だ」


そうなんだ、いやあ話の流れとはいえ思い切り殴ってしまった事には変わりない、でもスミルノフさんが落ち着くために必要なら控えた方がいいね。

誤解というのも気になるけど、多分聞いても楽しい話ではないのだろう、リリィは詳細を語らなかった。




明朝、珍しく先に起きたリリィがフェザータッチで頬を撫でていた。


「なにー」


「いや、偶には何もせず過ごさないか、ってね」


「んー」


窓の外はサアサアと静かに雨が降っていた。

思い返せば帰国してスグに夏期休暇に入り、そして合宿に夏期講習とゆっくり過ごした日は少ない事に気付く。

講習は普段ハイスクールに通う時と同様、雨が降っている場合はホームでリモート授業を受けていた。

ハイスクールの施設に私が入れる建物が無いので、この辺りの対応はしっかり許可を貰っている。

今日は・・・、講習はない、訓練や任務も基本的に荒天の時は中止となる。


「うん・・・」


「映画観よう、夏の新作が数本有った」


リリィの手は頬から耳、うなじを撫でて、優しく私を引き寄せた。


「「ン」」


朝の挨拶をそっと済まし、温かい気持ちが心を満たした。

適当に着替えてリビングへ、雨の日は外で食事が摂れないのでタンクローリーにオートミールが積まれて届けられるようになっている。


ホームには数台のタンクローリーが常に接続されていて、水、ミルク、コーラ、たまご、調味料等がコックを捻ると出る仕組みになっている。

リビングには私達用の、と言うより、業務倉庫という名の冷凍庫が有って、そこには成型肉の塊、冷凍食品、アイスなどが保管されている。


「リリィ、ベーコンエッグで良い?」


「あー、何でも構わないよ」


まあ定番の付け合わせだね、肉を焼きながらペッパーを少し加えて塩ぱっぱ、コックを捻ると半冷凍状のたまごがドゥルドゥルと出て来るので調味料を足してスクランブルエッグにした。


「コーン足りそう?」


「今日の分は賄えそうだよ」


結局、軍で食事を作るより、大手食品会社から完成品と食材を仕入れた方が安上がりになると分かったので、割りと自炊はしている。

主食のオートミール、たまごや肉、油、大量に取り扱っている所から大量に仕入れて自分で料理をしていた。

余程凝ったスイーツは都度注文をして数日後に届くといった感じになっている。


コーンは勿論ポップコーン用の物で、提携農家から数t単位で仕入れている、映画やテレビを観る時には欠かせないスナックだからね!

こんなのは農業大国であるアメリカじゃなきゃ出来ないことだよ。


ジュウジュウと音を立てて薫る匂いが食欲を刺激する、よし、ほいっと!

プレートにベーコンエッグを移してリリィに渡す、リリィはコックの所へ行ってプレートにオートミールを盛った。


「先に食べてて良いよ」


「いーや、待つ」


「ちょっと、リリィ?」


リリィはテーブルへ着かずに背後から私に抱きついた、両手はお腹に回し、肩に顎を乗せた。


「火・・・、電気だけど、やりにくいんだけど?」


「Hahaha.良いじゃないか、なんか自分のオンナがキッチンに立ってる後ろ姿ってスゲェ()()


「何言ってるの・・・」


フライパンで手は塞がっている為、肩を動かしてどかそうとするも、リリィは離れる気はなかった。

邪魔をする様子でもないので、私は仕方なくリリィをくっつけたまま自分の分の付け合せを作った。


テーブルに着くと向かい合わせに朝食を摂り始めた、うん美味しい。


自炊を始めた当初は塩加減にかなり苦戦したものだ、わざわざ計量もしなかったので目分量で作った料理はかなりの振れ幅があって安定しなかった。

これくらいかなー?と私の感覚で塩を入れる場合バサっといくからね。

巨人化前の感覚からすると中々の過剰摂取量を入れている、まあ今は慣れて目分量もほぼ間違わないけど。


対面に座るリリィも美味しそうにベーコンエッグを口にしているので大丈夫そうだ。


食器の片付けはリリィの役割りで、ゆっくり出来る日はリリィが洗っている間に珈琲を入れて2人でのんびり飲むのが日課となっている。

私は1:1のミルク割り、リリィはブラックだ。


2人掛けのソファーに移り、肩を並べてひと口、リリィが拘るブレンドだけあって香りがとても良い。

テレビもタブレットも着けずにシトシトと雨音だけが耳に響いていた。



カタン・・・



特に話す訳でもなく、でも気まずい雰囲気でもない、チビチビと珈琲を飲みながら心地の良い沈黙を楽しんでいるとスミルノフさんがリビングに現れた。


「あ・・・」


「おはようスミルノフ」

「おはようスミルノフさん」


「お、お、おはよう・・・」


驚いた、スミルノフさんから挨拶が返ってきたのだ。

これまでは私相手だとほぼ無視、反応があっても眉か口許を歪ませて不機嫌な態度だったのに・・・


今のスミルノフさんは気まずそうな様子で目を泳がせ、でもしっかりと挨拶を返してくれた。

昨日までの態度とは真逆の反応に内心驚いていると、彼女は突然頭を下げた。


「サトー、ごめんなさい! クロフトも!」


私はギョッとして、それからリリィを見た。

リリィは肩を竦め苦笑して私に視線を送った


「なんの謝罪だい?」

「リリィ! スミルノフさん私は気にしてないから、あと頭大丈夫?」


「くく、サナ、その言い方だとスミルノフの正気を疑ってるみたいだ」


「あ、違っ、頭大丈夫っていうのは昨日殴っちゃって、私上手く手加減してたんだけど、ごめんなさい!」


「くっくっく、サナ、それも喧嘩売ってるようにしか聞こえないよ」


そんなつもりはないのに誤解されかねない言葉ばかり出てしまった私は焦った。


「サトー、大丈夫分かってる」


スミルノフさんは怒ることなく穏やかな顔で微笑した。

昨日リリィと話をして一晩考えた結果、彼女は現状を受け入れる事にしたらしい。


私に関してはロシア軍から「アメリカに寝返った売国奴」という話をされていた為、苦労知らずで学校に通っている呑気な子供だと思っていたらしい。

実際の所は私は苦労知らずでもなんでもなく、正規のアメリカ陸軍巨人特殊部隊の訓練、活動、任務を行っており。

それに加えて勉学にも力を入れていると聞いて考えを改めたそう。


「ワタシはサトーを舐めていた、でも結果は手も足も出ない完敗」


スミルノフさんはそっと顎を撫でた、そこは少し痣になっていて、彼女は悔しそうに眉をしかめながら頭を下げた。


「都合のいい事を言っているのは理解している、でもこれからよろしくお願いします・・・」


「スミルノフさん、本当に気にしてないから、流石に睨まれているのはちょっとアレだったけど」


「ごめんなさい・・・」


「ううん、これから宜しくねスミルノフさん!」


「サトー・・・」


「サナでいいよ」


「ワタシもアーニャって呼んで」


「アーニャ?」


「アナスタシアの愛称だね、ナーシャとかもある」


「へー、じゃあよろしくねアーニャ」


「よろしく、サナ」


少し紆余曲折はあったものの、こうしてアナスタシア・スミルノフの受け入れは漸く始まった気がした。


アーニャは朝食もそこそこにポンチョを被ってアンドリュー、ランディ、ライアンの元にも挨拶をしに行った。

私は雨が降っているから止んでからでも、と止めたけどアーニャは顔を左右に振って


「今すぐ行きたいの」


と言って、昨日とは比べ物にならない程に落ち着いた雰囲気で行ってしまった。







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