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巨人になった私  作者: EVO
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スミルノフ 4

第2ラウンドも危なげなくポイントを取った、全部躱して、ポンポンとこちらのグローブをそこそこ当てた。


「サナ、最後まで気を抜くなよ」


「うん、勿論」


任務でもそうだからね!

途中まで良くても、詰めを誤ってサックリ致命傷を負ったんじゃ全部台無しになる。

当たらないと言っても体格はアッチが上だ、ポイントを重ねても一発貰ってKOなんてされたらそれまで、私は更に深く集中することにした。


実戦と違って横や後ろから割り込まれる心配は無い、だから目の前のスミルノフさんだけに専念出来るのは楽なものだ。

日本だと対多数が基本だったし・・・


カーン!


ゴングが鳴り響き最終3Rが始まった。


スミルノフさんは腕が重いのか風切り音も控え目なパンチしか飛んで来ない。

ブゥン、ブゥンといった具合なので、1R、2Rと変わらずポンポンと当てて行く。

彼女の汗も時折飛んでいるけど、それも目に入らないように気を付けた、視界を奪われるのが一番危ないからね。


対象的に私は漸く体が温まってきた所だ、トントンとステップを踏んでテンポを上げていった。





「WOW...マジかよライアン、サナ強えな」


「当たり前だろ、俺でさえ捉えるのは難しいんだぜ?

素人に毛が生えた程度じゃあ相手にならねえよ」


「なんつうか、ボクシング指導は見ていたけど、日本に行って帰って来たら別モンじゃねえか」


「実戦で磨かれたんだよ、敵は多いし、空爆で足下は悪ぃ、対人戦の一対一で囲まれる心配がねえなら余裕だろ」


「ライアンならどうする?」


「俺か? 俺なら相打ちカウンターだな、サナは速いけどパンチは軽い」


「強引だな」


「それくらい速いんだよ、刀持ったら火力も問題ねえ、強えぞサナは」


「賭けは?」


「そりゃあお前、サナに決まってる」


「だよな」


なんて、ライアンさんと知り合いらしき米兵が話をしていた。

突然スミルノフさんとサナちゃんがボクシング(喧嘩の延長線上)をすると聞いた時は心配したけど、このままならサナちゃんは無傷で終わる、御両親も1R途中からは安心して観戦している様子だ。


スミルノフさんの方もサナちゃんの気遣い(という名の煽り)で怪我はない、これなら外部から見ても捕虜虐待などと騒がれることはないだろう。

その代わりに彼女のプライドはバキバキに叩き潰されているのだけど、それは彼女のこれまでの言動が回り回って自身に戻って来たに過ぎない。


特に彼女のセコンドに付いているアンドリューさん辺りは、平等に振る舞っているけど目は全く笑っていない。

生死を共にした仲間であるサナちゃんに対する態度に腹を据えかねているのは、今回発端となったリリィだけでは無いのだ。

勿論、大人な対応で嫌がらせをしたりなんて事はしていない。


と、ぼんやり思考に耽っていた所、悲鳴が挙がった。


「危ねぇ!」

「サナ!」


「わ」



***



体感で残り時間1分位だろうか、スミルノフさんが打ち下ろし(チョッピング)の右ストレートを振って来た。

特に体勢は崩れていないので、私はサイドステップで外側に回避しようと動いた。


「危ねぇ!」

「サナ!」


「わ」


が、ストレートは途中で変化して肘を張り出して来る、私はそれをスウェーで躱した。

続けて左のロングフック、少し体勢が悪いけど間に合う、あまりに大振りなので被せるように打てるかな、と適したポジションへ動く。


「!」


足が地面に張り付いたように動かない、なんとブーツの爪先が踏まれていた。

ニヤリとスミルノフさんは嘲笑(わら)った気がした、


「サナ!」

「サナちゃん!」


迫るフックを私は反射的に首を捻って既のところで回避、それは本当にギリギリで、グローブが頬と耳を掠めた。

そして、


ゴヅ!


と堅く、抜群の手応えがグローブを通して私に伝わる。

余裕が無くなった瞬間的な対応に、被せて軽く当てるつもりのパンチをつい振り切ってしまったのだ、しかも綺麗に顎に入っている。


「あ!」


しまった!と思った時には遅かった。

スミルノフさんはヨタヨタと2、3歩後退して膝を折り、クタリと倒れてしまう。


『K.O!!! Winnerrrrrr!!! Sana・Satoooooo!!!』


「わー、ごめんスミルノフさん!」


「Yeaaaaaaaahaaaaa!!!!」


終了のゴングと勝利宣言、私の謝罪と歓声が混じり、怒号となって基地を揺らした。


「WOW! マジかよ!クロスカウンター!?」

「見たかよ? 完璧だ」

「うぉぉぉぉ!Sana!!」


「「「Sana!Sana!Sana!」」」


こんなつもりじゃなかったのにぃ~

スミルノフさんはレフリーのランディが傍に控えていたエリスを手に乗せて介抱、診察していた。


「綺麗に入ったわねー、脳震盪よ」


「大丈夫?」


「大丈夫大丈夫、巨人が頑丈なのは知ってるでしょ、これくらいなら数日のむち打ち程度で済むわ」


う、それはそれで申し訳ない気持ちになる。


「うー・・・」


「気にすんなよ、ありゃあそもそもスミルノフの反則が悪い、肘も、足を踏むのも御法度だ」


「ボクシングで勝った、そんだけだよ」


「うん、でももうやらないからね? 次があるならリリィがやってよ?」


ボクシングは私に向かないなー、人を殴るっていうのが受け付けない。

まあ大事に至らなくて良かった、私はホッとしてスミルノフさんの介抱を手伝った。








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