自衛隊 4
サナちゃんが蟻の駆除を開始してから、彼女はみるみる元気をなくしていった。
あまり食欲がないからと炊き出しの量は半分になったし、様子を伺っているとボウっとして物思いに耽るようになっていた。
カウンセラーの先生を手配しても何も言わず、私にも話してくれない。
最悪な事に【穴】から蟻は度々出て来た、服はボロボロ、手や足に軽度のヤケドを負って来るので私は防衛省に何度も提言した。
防護服と防具、駆除用にスコップかハンマーの製造だ、スコップ等は元々家屋の撤去作業でも申請をしていたのだが、許可は降りない。
曰く、巨人が暴れた時に武装化されていると脅威だ、武器使用なんて以ての外、今年の予算にそんな枠はない、だ。
体格に合わせた工具は刃渡りのせいで銃刀法違反になる、とも言われたりする。
彼女は、サナちゃんはそんな事をする子ではない、と言ってもなしの礫、耐酸性の防護服だけでもと頑張ったが製造に時間が掛かるのと、近日中に自衛隊の武器使用の特措法が成立するからと黙殺された。
そして駆除開始から3週間、自衛隊特措法成立。
これにより国内の【穴】周辺に限り敵性生物へ向けての武器使用が可能となった。
駆除自体は攻撃ヘリであるコブラとアパッチの特別編隊による上空からの機関砲斉射。
射線は必ず【穴】に向けての撃ち下ろし、流れ弾を恐れる割には周辺住民への避難命令は出ていない、【穴】が現れた当時に買い上げた土地の封鎖だけで十分と判断されたらしい。
歩兵は損耗のリスクが高く、戦車の砲撃は周辺住民への配慮から除外、・・・まあ自衛隊が矢面に立つようになったのは賛否あるものの、私個人としてはサナちゃんに負担を強いる事がなくなったのでホッとしていた。
特措法成立から前線には自衛隊が配備され、サナちゃんは区画封鎖の部隊に同行する事となった。
万が一、駆除から抜けた蟻が居た場合、最後の砦として彼女に白羽の矢が立ったのだ。
区画封鎖は国立公園の為の買い上げた土地と、今も住民が済む市街地の境目になる。
封鎖任務には89式5.56mm小銃を装備した隊員が当るが、住人が居る市街地、または境界では発砲許可を下す事は出来ない為、もし蟻が抜けてくる事が有れば大惨事になるだろう。




