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巨人になった私  作者: EVO
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スミルノフ 3

「ヤァァァァ!!」


スミルノフさんはギラギラと闘志を燃やして殴り掛かって来た。


「やれー!」

「ぶっ殺せ!」


殺さないよ!? スポーツだからね、その辺の主旨分かってる?

物騒な野次が飛びかう。


「・・・」


私は冷静に大振りの右ストレートを外のステップで躱す。

空振りしてたたらを踏んだ彼女は振り向きざまの勢いそのままに左フックを振り回した。

それを半歩引き、合わせてスウェーで空振りをさせる。


「ッ!!」


マウスピースをしていなければ歯軋りが聴こえてきそうな様子で彼女は右、左と拳を振る。


ブン!ブン!


拳が起こした突風が頬を撫でる、まあこれくらいなら全然問題無い。

パワーはライアンや泥の巨人に及ばないだろうし、駆け引きはアンドリューの方が遥かに巧み、リーチなら投手のランディ、全体のバランスならリリィ、スピードなら私が優っている。


尻尾が死角から飛んで来たり、溶解液を吐かれる訳でも無い。

冷静に観察して分析を、


「Heyサナ!攻めないとポイントも取れないよ!」


リリィからそんな声が飛んできた、そう言えばポイントも見るんだっけ、じゃあ・・・


「シッ、シッ」


振り終わりに合わせてワンツー、彼女の左頬にポンポンと当てた。

軽くね、軽ーく。

怪我させるなんて以ての外だよ、スミルノフさんはぶん殴ってやる!とばかりに来るけど、私は違う。


「しゃー!」

「やれ!ぶっ殺せええ!!」


だから、ぶっ殺さないって。

私は苦笑しながら隙を突いて細かく当てていく、動き終わり、動いている最中、動き出し。

ポンポンポンと、左、右、ジャブ、ショートフック、ショートアッパー、顔だけでなくボディにも散らしていく、大振りは要らない。


ブン!ポンポン。


ブン、ブン!ポン、ポポン。


ブンブンブン!ポポン。


やればやる程スミルノフさんは大振りになっていく、隙は大きく、スウェー、ダッキング、パーリング、教わったものを適宜使って全部捌いた。


ブン!ポポン、ブン!ポン。


ポン、ブン!ポンポン。


カーン!


集中していると雑音も聴こえなくなり、ゴングが鳴り響き1R3分はあっという間に終わりを迎えた。

リングは無いけど、仮説のコーナーの椅子に腰を下ろすとリリィがマウスピースを取って水をくれた。


「ん、ありがと、手加減して当てるのも難しいね」


訓練指導時、男性陣と組んだ時には振り抜かない程度に手加減なく当てて行っている。

攻撃を当てるというよりは足捌きに主眼を置いた指導で、ウエイト差から殆ど効かないからって理由もある。

だからこういう風に痛くない程度に当てて行くのは、かなり気を遣う。


「容赦ないねぇ」


「何が? 」


「いいや、何でもない、油断せず行こうな」


「うん」


リリィは苦笑していた、容赦って何さ。

ラウンド間のインターバルは90秒、1R3分程度では息も上がらないので集中だけは途切れないようにしないとね。



***



試合は一方的なものだった。

と言っても嘲笑い痛め付けるようなリンチでは無い、サナちゃんはそんな事をする子ではない。

但し、


「はあっ、はあっ、はあっ!」


スミルノフさんは拳を力一杯振り回して息が乱れていた。

いくら巨人が身体能力に優れていても、全力でパンチを繰り出し、それが全て空振りとなれば消耗するのも当然だった。

顔は真っ赤で、それは息が上がったせいなのか、サナちゃんに良いようにあしらわれた屈辱なのかは解らない。


「手加減して当てるのも難しいね」


なんて口走ったサナちゃんは本当に悪気は無いのだろう、ナチュラルにそんな事を言うものだから余計にタチが悪いとも言える。

私に聴こえたのだから、彼女にも当然聴こえている、憎々しげ睨む眼光はそれはもう恐ろしい。


「スミルノフ落ち着いて、小さく当てて行こう、サナは速いよ、大振りは()()当たらない」


スミルノフさん側に付いたセコンド、アンドリューさんはサナちゃんの事を良く知っている。


「おー、やってるな、どうだ小夜?」


「ジョセフさん、どうもなにも一方的ですよ」


「だろうな」


遅れてやった来たジョセフさんはさも当然といった具合に肩を竦めた。

米軍に入ってからのサナちゃんの訓練や数値を見せてもらったけど、これは当然の結果だった。


サナちゃんは隊内で最も小柄で非力、しかし瞬発力と敏捷性は部隊最高値、柔軟性に優れ眼も良い、回避率はほぼ100%とスピード特化型。

新兵訓練、個別指導ときて、実戦経験も日本の作戦を経て豊富、誰もが認める立派な巨人特殊部隊の一員だ。


対するアナスタシア・スミルノフさんは情報統制されたロシア国内にいた事で詳細は不明。

但し、今の1Rを見た感じでは戦闘に関する指導は受けていないか、受けていても日が浅い可能性が高い。

大股で走り殴り掛かる、絵に描いたようなテレフォンパンチ、感情も露わに繰り返す大振り、未熟なメンタルコントロール。


ポンポンと軽く当てて行くサナちゃんは、多分彼女に怪我をさせないように気を遣った故の行動だ。

それを手加減されたと怒り、振り回す、だから隙が増えて更にポンポン当てられる悪循環。


「子供と大人の戦いですね」


「どっちが勝っても負けても構わないけど、これを切っ掛けに少しは打ち解けて欲しいね」


それは同感、スミルノフさんがカリカリしているのは見張られ、自由が無い事も要因のひとつだと分析されている。

とは言え、巨人なのだから国防総省もホワイトハウスもその対応には慎重にならざるを得ない。


自由と権利を与えました、暴れて人が殺されました、ごめんなさい、では済まされない。


願わくば良好な関係を、一人にしても問題無いと判断される程度には落ち着いて欲しいとは、誰もが思っているだろう。


カーン!


ゴングが再び鳴り響いた。


「よし、見てて一度も触らせないから!」


「・・・あいよ」


サナちゃん!だからナチュラルに煽らないで!?

リリィも苦笑いしているし、スミルノフさんの顔色はもう怒り一色になっていた。


「小夜、サナはわざとじゃないよな?」


「勿論、あの子は優しい子ですよ」


パンチを軽く当てるのは相手を慮って、一度も触らせないのは殴られたら両親が悲しむから、だと思う。


1Rと同様の光景が2Rでも再現されようとしていた・・・







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