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巨人になった私  作者: EVO
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スミルノフ 1

「移送に随分時間掛けてない?」


「日本である程度の話はまとめておかないとね、まさか戦争捕虜を強引に自国へ連れ去る訳にはいかないだろう?」


「あれ、私の時は?」


「アメリカと日本は同盟国だし、当時のサナは二重国籍だったろう?

折りよく東京災害もあったし、自国民保護って大義名分があったから問題にはならなかったんだよ。

でもアメリカとロシアは友好国でさえ無いからねえ」


「じゃあ、ロシアの人の扱いは? って、名前は?」


「アナスタシア・スミルノフ、20歳、一時捕虜、後は本人次第だねえ」


「アナスタシア・スミルノフ・・・、仲良くなれるかな?」


私の言葉にリリィは眉根を寄せて難しい顔をした


「サナ、幼い頃から受けた教育ってのは中々根深い問題だ、日本とアメリカで学んだなら分かるだろう?」


「あー、ロシアの歴史だとアメリカって」


「まあ、そういうこった」


日本の歴史観とアメリカの歴史観は真逆だ、戦争にしても先制攻撃は奇襲を受けたに置き換わる。

あっちが悪い、こっちが悪いと明記はしなくとも、自国が正しい()に記述されたりする。

100年単位で仲の悪いアメリカとロシア、互いの歴史観が相容れない内容になっているのは分かりきった事になる。


まあ歴史観とか初対面で話す人は居ないし、政治もそうだけど親しい相手ほど思想が絡む話題は挙げないのが大人のやり取りだよね。

若干の不安は有るけど、私は同じ巨人仲間が出来ると期待する事にした。



***



「Hello」「Hi!」「How are you?」


「・・・」


数日後、ロシア軍兵士捕虜のアナスタシア・スミルノフさんはワシントン前線基地に到着した。

美しい白銀の髪、透き通る様な白い肌、スラリと伸びる脚、妖精と呼んでも差し支えない物凄い美人だった。

身長は私とリリィの中間、体型は細身のモデル体型で睫毛も長く、瞳はグレーのクール系美女。


問題は早速あった。


挨拶をした私達巨人部隊を温度の無いキツい眼差しで睨みつけ、返答も何も無い。


「Я не пытаюсь вписаться, может, хватит крутиться?」


「え?」「おん?」「ん?」


彼女はフンと鼻で笑い、サッサとホームへ入ってしまった。

因みに新しいホームではなくて、私とリリィが住むホームの私の部屋を使ってもらう事になっている。

殆ど物置部屋みたいになっていて、大半はリビングとリリィの部屋で一緒に過ごしていたので構わないんだけど、これは前途多難な始まりを予感させる。


「馴れ合う気は無いわ、ヘラヘラしないでくれる? って」


3日程前に正式に米軍に加わる事になった小夜さんが足下でそう言った。


「小夜さんロシア語分かるの?」


「ううん翻訳アプリ、念の為起動していたのよ」


「事前の話だと英語は出来るって聞いていたんだけどねえ」


「本人が言う通り、馴れ合う気は無いからロシア語なんじゃね?」

「これは手強そうだね」

「若いからな、色々と有るだろう」


ライアンもアンドリューもランディも大変だなといった様子で私とリリィに同情的な視線を送ってきた。


相手が女性である以上男性のホームに入れる訳にはいかないし、新しくホームを建てるには時間が足りない。

彼女を1人にさせる訳にもいかず、叛意を測りきれない為の措置となっている、仕方ないと言えば仕方ないんだけどさ。




問題は続いた。


私はハイスクールで行われる夏期講習を、上限いっぱいまで取っている。

春先、任務で日本へ行った1ヶ月強の休講の分を、この時期に取り返しておこうと思ったからだ。

アメリカだと指定の夏期講習は単位認定してくれるので、私にとっては助かる制度でもある。


「ただいま」


「おー、おかえりサナ」


「・・・」


講習を終えてホームに帰る、スミルノフさんは私を見ると眉根を寄せてさっさと部屋へ引き上げてしまう、それはもう忌々しそうな態度を隠さなかった。

私が日中ハイスクールへ行っている間、接しているアンドリュー達が言うにはそこまで態度は悪くない、との事でどうやら私だけが嫌われている様子っぽい。


「私、何かした?」


「いーや、挨拶しかしてないよなぁ」


「だよね」


「スミルノフはアタシにもアレなんだよなぁ、まあサナ程じゃないけど」


「リリィも? うーん・・・」


会ってから大して接点が無いのに嫌われているのには困惑しかない、誰からも好かれるなんて理想論を翳すつもりは無いけど、そういう態度を取られるのは私だって面白くはない。


「ストレス、と言うには態度悪過ぎるよな」


「うん・・・」


モヤモヤが胸を燻る、今度直接聞いた方がいいかも知れない。

あの嫌われようだと答えるかどうか、なんなら喧嘩にさえなりかねないなぁ、と思いながら私はリリィとベッドを共に眠りに入った。







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