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巨人になった私  作者: EVO
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発明

「巨人が元に戻る薬!?」


驚きの情報は帰国して数日、登校も再開してクラスのみんなにも労われたり、勉強やクラブ、数週間後に迫るバケーションの準備に忙しくしていた時に訪れた。


なんとドクターの開発研究していた、巨人縮小薬が完成したというのだ。

ホームで寛ぐ私とリリィの元にジョセフさんが来て教えてくれた、私達は早速ドクターの研究棟へと急いだ。


「はははは!私は天才だー!!」


「うわぁ」


研究棟へ来ると部隊のみんな、女巨人担当医のエリス、上級将校の何人かが集まっていた。


「エリス、縮小薬完成したって本当なの?」


「hi.サナ、完成はしてないわ、()()()だけ」


「え、どういうこと?」


「薬はね、計算だけで成り立ってないのよ、治験ってあるでしょ? その前段階でマウスに投与したり、実験しないと人の体に使うなんて危険な事は出来ないの」


「なるほど、そうすると巨人縮小薬は・・・」


「理論上は試作品が出来たって話ね、そもそも巨人化現象の原理も解明していないのよ、色んなことに目を瞑って、それらしい薬が出来たってだけよ」


言われてみれば確かに、人が巨人化するメカニズムって解ってないんだよね。

私も詳細は知らないけど、ある日体重50kgの人が、数十秒の短時間で数十tの巨人に成る、質量保存の法則を完全に無視した物理現象になんて説明をするのか。

風船を膨らませるのとは訳が違う現象、その上で筋肉や内臓、血液は見た目通りの質量がしっかりあるのだから、巨人がどれだけデタラメな存在か、と。


エリスが冷静に言う通り、逆の現象を引き起こす巨人縮小薬についてもそうだ。

縮小薬をテストするにしても、マウスやブタ、猿が巨人化した訳では無い、巨人化した生物で実験しないと意味がないので試すなら私達になる。

しかし、人体への影響が分からないものを使用なんて出来るはずもなく、なんていう矛盾の元となる薬だ、確かに完成とは言えず、出来た、と言う他なかった。


ジョセフさんが教えてくれた時も、冷静に思い返してみると「完成した」とは言ってなかった。

確か「出来たらしい」って、・・・私の早とちりか。


「ふははは!天才、天才ぃ!!」


ドクターが狂喜乱舞しているのは、それほど元に戻りたい事の現れかな、最初に会った時にも戻る事を諦めないって言っていたし。


ゴクリ。


「え?」

「は?」


その場が凍りついた、ドクターが巨人縮小薬(仮)を飲み干したのだ。

私はバッとエリスを見やった、エリスは驚愕してブルブルと顔を左右に振った。


「う、ぐ、」


ドクターは胸の辺りを押さえて顔色を変えた、近くの将校はNo way(バカな)と言って数歩後ずさっていた。

私は怖くなって近くに居たリリィの手を握る、リリィは私の肩を引き寄せて抱きしめた。

アンドリュー、ランディ、ライアンも顔を強ばらせてドクターを見守る。


「ぐ、ぉぇ、げ、」


「・・・? リリィ、なんかドクター」


「ああ、吐きそうに見えるねえ」


びく、びくと体を揺らし、痙攣している様はどう見ても吐く直前のあの動きにしか見えない。


「ね、将校の人達、ちょっと近・・・」


「うげええええええっ!」


「うわあああ!!?」


い、と言おうとした瞬間だった、盛大に吐き出したドクター。

放物線を描く吐瀉物は、一応安全対策の鉄骨の場所に居た将校数人に降り注いだ。

勿論、事故防止策の鉄骨で巨人が人を踏まないようにってだけの鉄骨だ、屋根は無い。


「うわ・・・」


医者のエリスさえ引いている、ていうか私も医者を目指しているから吐瀉物を汚い!って忌避はしないけど、謎の薬が混じった物な上に感染症等の心配もある()()のものには引いてしまう。

人が吐いても2Lにも満たないだろうけど、ドクターは巨人だ。

数Lではきかない吐瀉物が基地の一画に拡がった・・・




ドクターが嘔吐した後は大変だった。


先ず安全の為にひと区画を完全封鎖、ライアンとランディがホームからタオルを持って来て吐瀉物を拭き取り、私はリリィに言われて手袋をして将校の人をつまんで水で優しく流した。

ドクターはホームに置いて24時間監視が決定、洗浄消毒には丸一日掛かって漸く封鎖が解かれた。


因みにドクターは1インチも縮んでいないらしく、薬は失敗作だという話をエリスから聞いた。


「そもそもの話、身体が縮むっていうのは大変な事なのよ?

筋肉も内臓も血液も脂肪や神経、脳が萎縮なんて普通に考えたら大病でしょ!?」


「難病指定だよね」


「巨人化のメカニズムが解明されていない内に小さくなる薬(毒)を飲むなんて正気じゃないわ!

サナもリリィも、もし縮小薬なんて完成したってなっても軽々に飲まないでね」


「う、うん、怖いから飲まないよ」

「ああ、今更戻れるって言われてもな、いや戻りたくない訳じゃないんだが」


リリィの返事は歯切れ悪かった、まあその辺は私も理解出来る。

戻れるなら戻りたい、そんな気持ちも有るには有るんだけど、生活環境が整った現在はこのままでも良いかな、なんて気持ちも有るからだ。


ママとパパは戻って欲しいのかなぁ、安全に戻れるならリリィと一緒に戻るのもあり。

でも、大きくなった時も自分の体がどうなってるのか本当に恐ろしかったし、縮むのもまた怖い気はするよね。

それに


「「給料良いしねぇ・・・」」


私とリリィの声が重なった、だよね!?

互いに目を合わせて笑い合った。


「タフね貴女達、私なら戻りたいと思うけど」


「戻りたい気持ちはあるんだよ、巨人化した直後なら確かに何がなんでも戻りたいってなっていたけどさ」


「もう、この生活に慣れちまったからねぇ」


「ね」


今の自分をそれなりに受け入れて満足しているから、積極的に戻りたいって感じではない。




***




「それで件の薬は?」


「はい、別に確保、保管しています」


「ご苦労だったなエリス」


「いえ」


私はリリィとサナ付きの医師という立場上、ドクターの補佐として割りと彼の近くに居た。

その立場を活かして、彼が作り上げた巨人縮小薬は別の物に入れ替えて確保したのだった。


「それで、どうするのですかアレ」


「勿論、使うとも」


「ですが報告を挙げた通り、アレを摂取したら巨人の体がどうなるか分かりません」


()()には使わない、だが有効活用されるだろう」


基地司令の言い様に私は察した


「まさかロシアの?」


「彼女は捕虜だ、国際法上、人体実験は許されないよ、使うのは()()に決まっている」


「敵兵?」


司令はゆっくりと手を組み直し、勿体ぶるように言った。


「中国が台湾へ侵攻すると()()()()()


「それはっ」


先日大統領は台湾に関して明言していた、台湾は有事の際には米軍が支援すると。

政府内でも二分する大問題となった件の発言は、中国の海洋進出等の行為に大いなる懸念を合衆国は抱いている事に他ならない。


これまでは貿易摩擦程度の問題が、ここに至って遂に米中の武力衝突、確信を得たというのはつまり戦争は避けられないという事になる。


「ロシアの次は中国ですか」


「そもそもロシアの方が我々からすると想定外だった、まさか日本に手を伸ばすとはな」


「中国の方が本命だと?」


「巨人の兵を13人手に入れて軍部は勢いづいているそうだ」


米軍だって彼等、巨人特殊部隊の力は正しく認識している。

武装した彼等と仮に戦闘になったとしたらどうなるか、考えたくもない。

合衆国で巨人は6人、内5人が実働部隊、対して中国は13人の実働部隊となれば米軍やホワイトハウスの懸念も分かる。


「まあこれからも頼むよエリス、と言ってもドクターは当分謹慎だがね」


「でしょうね」


ドクターの研究は軍の予算、成果物の所有者は勿論米軍になる。

失敗作(入れ替えたのは私だけど)と言えど、私的流用は規律違反となるので処分は仕方ない。


「私も気分は良くないので、こういうのはこれっきりにして下さい」


「それはドクターに言ってくれたまえ」


「上から言って下さい」


私だって彼が無許可で薬を使用するとは思っていなかったのだ。

薬を入れ替えていなかったらと思うと背筋が冷えた、流石にこんな失敗を繰り返す人間ではない筈なので今後似た問題は起きないと思いたい・・・











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