帰国
「おかえり」
「無事で良かったな」
「はっ!島国なんぞで死んでたらお笑いだ」
ワシントン基地へ戻った私達をアンドリュー、ランディ、ドクターが出迎えてくれた。
アンドリューは私の腋に手を差し入れ、娘を抱っこするように持ち上げて笑った。
ランディはライアンとグータッチでクールに、ドクターは相変わらずの憎まれ口で、帰ってきたなぁと実感する。
勿論ママとパパも迎えてくれたし、無事を喜んでくれた事が一番嬉しかった。
怪我や危険があった事は包み隠さず伝えられているので、そこは心配を掛けてしまったけど、何よりも元気な顔を見れた事を喜ぶ2人に私も嬉しくなった。
「お義父さん、お義母さん、改めまして、娘のサナさんと御付き合いさせていただきますリリィ・クロフトと申します」
「・・・何言ってんのリリィ」
「いや、こういうのは最初の挨拶が大切だって小夜から教わったから」
何教えてるの小夜さん!?
私は思わず変な顔になって呆れてしまった、そんな結婚の挨拶じゃないんだから。
ママとパパはクスクスと笑って、私とリリィを見ていた。
「変なことしないでよね、もう、恥ずかしい」
「でもサナだって2人に直接話してから、って言っただろ」
「普通に付き合う事になったから、で良いじゃん、かしこまる必要はないでしょ、知らない仲じゃないんだから」
「そういうもんか」
「うん、そういうことだから、ママパパ、メールで言った通りリリィと付き合う事になったから」
「ええ」「ああ」
「「仲良くね」」
声を揃えて私とリリィの関係を祝福してくれた、2人の思い描いたかつての私の幸せは、きっとありふれた普通の幸せだと思う。
高校、大学、そして社会人になって、結婚して家庭を作る。
そんな未来図も、私が巨人になってからは想像するのも難しい出来事ばかりでママにもパパにも心労を重ねてしまって申し訳ない気持ちがある・・・
「サーナー?」
「え」
ぎゅうううう、リリィが突然私に熱烈なハグをした。
「なになに!?」
「今、余計な事考えてたろ、アタシには分かる」
「いや、まあ・・・」
「アタシは親になった事は無いけどね、子供が元気で笑っているなら大抵ハッピーだよ、な、そうだろ?」
「ええ」「もちろん」
「ほらな? それに金はある、メシも家もあって、家族は元気、恋人も居る、どうだハッピーだろ?」
「うん・・・」
「サナは気にし過ぎなんだ、目に見えないなにかじゃなくて、目の前の幸せを甘受したらいいのさ」
ニヤと笑うリリィは本当にイケメンだった、確かに私が考えたことって、私が考える想像のママとパパの考えだ。
決して今の私とリリィの事は否定しないし、人生が予定通りに行くことは無いのを私は身をもって知っている。
「ありがと、リリィ」
「ああ」
ふとした拍子にネガティブになっちゃう私をいつもリリィは明るく引き上げてくれる。
リリィの言う通り見えないなにかより、目の前の幸せだけで十分だった。
「さて、挨拶回りも一通り終わったな、あいつらにも報告しないと」
「みんなに? ライアンを通して知ってると思うけど・・・」
基地に戻って基地司令、部隊のみんな、家族、懇意にしている部隊と挨拶を優先したので巨人特殊部隊のみんなにはリリィとの事を話していない。
「ま、日本での話も有るだろう? アタシらもアイツらの話を聞きたいしな」
「それは、まあね」
私達3人が日本で作戦の遂行をしていたように、アンドリュー、ランディ、ドクターもワシントン DCの【穴】から湧く敵性生物の討伐は継続してやっていた筈だ、しかも電磁投射砲、所謂レールガンを巨人専用にカスタマイズしたものを使用していたので興味はある。
「よっし、行くよサナ!」
「う、うん、ママ、パパ、また後で!」
「はい、いってらっしゃい」「ゆっくりしておいで」
「うん」
リリィは私の手を握って歩き出す。
周囲の米兵は概ね私とリリィの仲の良さを知っていたので、特に驚くことはなく口笛を吹いてニヤニヤ見ていた、これは恥ずかしい・・・
***
「と、言う訳でアタシとサナは付き合う事になった」
「おめでとう、仲良くなリリィ、サナ」
「ランディから聞いていたからな、おめでとう」
「はっ! 女同士ぃ? 非生産的なっ!」
帰国祝いの簡単なパーティーをして、巨人みんなで集まって飲み会をしていた中、リリィが私との関係をみんなに伝えた。
アンドリューもランディも特に何を言うこともなく祝福してくれた。
ドクターは、まあ、うん・・・
「あ? なんだドクター、非生産的? 喧嘩売ってんのか? 買うよ5割増で支払ってやるよ、ツラ貸しな!」
「ひぇ、・・・非生産的な行為を非生産的と言って何が悪いのだ!」
「よしなよドクター・・・」
「よせドクター、そういうのは誰も幸せにしない」
「あぁん!?何が非生産的なんだよ言ってみな!」
「女同士で子供が出来ないじゃないか、そんなの非生産的だろう!!」
「「「「・・・」」」」
いやドクター、それはいけない。
子供が出来る出来ないで非生産的だとカップルを否定したら、病気や事故、その他色んな要素で子供を望んでも出来ない人達が・・・
近年は特に同性愛についても認知が進んでいるしさ。
ほら、みんなも黙っちゃったし、アンドリューは苦笑しつつ止めて、ランディの言う「誰も幸せにしない」というのはその通りだ。
「おいおいドクター、生産性でパートナーを否定するなら、お前だって子供居ねえじゃねえか、自分の非生産性は問題にならねえのか?」
ライアンがぶっこんだ!
ドクターは電池の切れたおもちゃみたいに固まってしまった。
「ドクターの思想は否定しねえよ、でもその理論は穴だらけだぜ?」
「ぐぐ」
「あー、やめよう、ライアンもドクターも、ほら落ち着いて」
私以外はみんなお酒入っちゃったしね、あまりいい話題ではないね、アンドリューが仲裁した。
ライアンも娘さんが同性パートナー連れて来てるからね、私とリリィについても他人事にはならないから余計きつい言い方になったんだと思う。
「・・・ドクター悪かった、私情もあった」
ライアンは理性的で水をグッと飲み干して謝罪した、ドクターの方はというと近くのブランデーのタンクのホースを握ってガブ飲みし始めた。
「え、ドクター!?」
「何やってるんだ、飲みすぎだドクター」
「おいおい」
「よしなよドクター!」
「ぶは〜!」
ホースのコックをランディが止めて、アンドリューがホースを取り上げた時にはドクターの目は完全に据わっていた。
「ふん!貴様らには分からんのだ!私の、」
「私の?」
「童貞の情けなさなどな!!」
???
「リリィ、童て」
「サナ、何も聞かなかったね」
「え、いや、ドクターが童、」
「サナ、帰って寝ようか」
待って待って、逆に気になるんだけど、童貞がなんだって?
そう言えば中学の3年生、高校になってからちょこちょこ聴こえてた話題だ。
女子の方でもシたとか、シてないとか、男子の方も〇〇とヤったとか、お前童帝かよー、とか聞こえた事がある。
「そう言えば(日本の時の)同級生も拘ってたよ、男の子ってなんで気にするか分かんない」
「サナ、いけないよ」
「え、でも、疑問なんだけど、ドクターって女っ気全く無い癖にセックスしたいの? 分かんない、理解出来ないんだけど」
「サナ、それ以上はいけない」
「サナ、アタシのコーク割り飲んだな!?」
「酔ってるのか・・・」
「酔ってないよ!!」
「「「酔ってるな」」」
「ぐぐぐ、このガキが」
「ドクターは飲み過ぎだよ、ランディ頼む」
「ああ」
「リリィはサナを連れて帰って、片付けは僕とライアンでやっておくから」
「あいよ、すまないね」
「酔ってないってば!!」
ふふふ、なんかフワフワして楽しい!




