表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨人になった私  作者: EVO
10/119

蟻の駆除

「サナに蟻の駆除をさせると?」


「はい・・・」


「危険じゃないんですか? テレビでは人を襲うし、酸みたいなものを吐いたりするって」


「・・・申し訳ございません、リスクが無いとは言えません」


「そんな・・・、危険と分かっていてサナにそれをやれと、小夜さんあなた方はそう仰る? 何の為に自衛隊が存在しているんですか?」


「自衛隊の武器弾薬の使用許可がどうしても難しくて、・・・力及ばず、本当に申し訳ございません」


「謝って欲しい訳ではありません! あなた方はッ、武器弾薬が必要な敵に対して、娘にそのリスクを負えと、そう言っているんですよ!?」


パパとママ、小夜さんが言い争っていた。

【穴】から現れた蟻を退治するのに私が指名されたらしい、どうやら前に話をしていた通り自衛隊は武器が使えないので踏み潰して済む私が1番適任との理由だ。


小夜さんの顔色はとても悪い、疲れているようでいつもピシッとした髪も乱れていた。


「パパ、ママ、私やるよ」


「サナ!?」


大丈夫、蟻潰すくらい、・・・ちょっと感触はイヤだけど、大した事じゃない。

パパとママは何かを言いかけて、結局何も言うことは無く、くしゃりと表情を歪めた。



***



「サナ、危なくなったら逃げなさい、いい? 絶対怪我なんてしないで」


「うん」


「サナ・・・、今度、いや、・・・気をつけなさい」


「うん」


そんな会話をした次の日には蟻の駆除作戦が始まった。

私がおっきくなってから心配掛けっぱなしの2人、大丈夫だよ、だからそんな顔しないで、私は大丈夫だから、頑張るから。


『いいかね【巨人】、君の任務は蟻を1匹残らず駆除する事だ』


「・・・はい」


私の後方、市街地側には自衛隊のヘリが2機飛んでいる、それぞれ指揮と記録係で私専用に作られた補聴器型インカムでやり取りをしながらの行動となる。

指揮は防衛省から派遣されて来たらしい、スーツを着た、糸目の痩せた男の人だ。


『では0900現在、作戦開始』


「よいしょ」


『なあっ!?』


私は近くのコンクリートマンションを崩して瓦礫を投げ始めた、ドーン、ぶちぶち、ジュワーと蟻の大群から煙が上がる。


『待ちたまえ!【巨人】、何をやっている!?』


「えっ? 蟻の駆除を・・・」


『君は話を聞いていたのかね! マンションの破壊を誰が命じた!』


「でも国立公園の買い上げた土地だから、どうせ撤去するんじゃ」


『その話は別だ、マンションは破壊するな!』


え、だって蟻多いよ、最初に見た時より増えていて、数百匹は【穴】の周りで蠢いていて正直近付きたくない、テカテカと黒光りしてGっぽいし。


仕方がないので今度は電柱を引っこ抜いて投げる、ドパッと蟻が複数弾け飛んだ、よしっ! 続けて2本3本と引き抜いて投げる、えい、えい、むん!

ドバっ、グチャっ! ぶしゅう、じゅうう!と弾けた蟻から体液が飛んで周囲が溶けていく。


『なっ』


『な』


『やめっ』


『止めろー!』


インカムからヒステリックな叫びが耳に刺さった、今度は何?


『いいかね! 君がしていいのは蟻を踏み潰すこと、それだけだ! 』


「でも」


『でももかかしもあるか! 君は自分の立場が分かっていないようだ、毎月食費に幾ら掛かってると思ってる、その服だってメーカー特注、寝床にしているアリーナにしたって数十億の建設費が掛かっているのだよ。

御両親に苦労させたくなければ大人しく命令通りに動くことだな』


そんな・・・、数十億?

小夜さんは気にする事ないって言っていたけど、このままじゃあママ達に請求が?

サアと血の気が引いていくのが体感出来た。





ぐしゃっ、ぶち、じゅうううー!


「コホッ」


溶けて上がる煙に噎せる、蟻に近付くと口元にプクリと水球を貯えて沢山飛んでくる。

それを横に転がって躱すと素早く立ち上がって走る、ぶちゅぶちゅと不快な感触が足の裏に伝わる、気持ち悪い。


そんな事を繰り返しているとヌルりと滑って尻もちをつく、足下は体液と酸でドロドロだ、革手袋も服もジュウと言って溶ける、熱い。


その間も「もっと素早く駆除しろ」「家は壊すな」「酸を吐かせるな」「体液も飛び散らすな」「穴に落とすなんて不確実なやり方をするな」「遅い」「転ぶな」「道路は壊すな」「これだから中卒は」と耳に届く、ただ耳に届いてるだけで返事をする余裕は無かった。


漸く【穴】周囲に居た蟻を駆除し終えた頃には、モスグリーンのツナギはボロボロで、一帯は体液やらなんやで悪臭が立ち込めていた。


そして自衛隊のセミトレーラーに乗って帰る道すがら、東京の街中では色んな声が投げ掛けられた。


「サナさん一言お願いしまーす! 蟻を踏み潰したお気持ちは?」

「くせー、何この臭い」

「汚ねえー」

「自衛隊が駆除出来ないとの事ですが、それについてはどう思いますかサナさん!」

「服溶けて下着見えてんじゃん、巨人」

「巨人って綿パン履いてるんだ、えー、ダサ」


「・・・」


私はトレーラーの上で耳を塞いだ、それでも大きくなってからよく聴こえるようになった耳は嫌でも音を拾った・・・


「人間の都合でー、生き物を殺すなー! 武力行使反対! 」

「つーか、デカい蟻もヤバいけど、巨人もヤバくね? ウチらも踏み潰されたりして」

「プチってか」

「ウケるんですけど」


「・・・」


疲れた・・・





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 辛い(´;ω;`) みんなサナちゃんに対して酷すぎる! 頑張れサナちゃん!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ