巨人になった日
ある日、世界に【穴】が空いた。
アメリカ、中国、ロシア、イギリス、フランス、ドイツ、インド、そして日本。
国によって大きさは様々、直径は50~300m程の底知れない真円の【穴】だ。
地盤沈下では無い、真っ白の紙にインクをポタリと落としたような穴はそこに居たはずの住民、家屋、施設等を全て飲み込み、超常現象かと世界を騒然とさせたがそれも一時のこと。
人は慣れるもので、各国によって管理される事となった【穴】は日常の風景となる。
穴の出現から数ヶ月、家族や友人、知人、数万の人命を飲み込んだ穴は新たな観光地へと経済が動き出した頃合いに世界は再び激震した。
***
「サナちゃん、こっちこっち!」
「待って、ちぃちゃん!」
夏休み、私は近所の幼馴染ちぃちゃんと海に来ていた。
私とちぃちゃん、パパとママ、ちぃちゃんのお父さんとお母さんの6人で千葉県の有名なビーチに2泊3日の泊まりがけのバカンスだ。
アメリカ生まれのパパ譲りの少しくすんだブロンドの髪をまとめながら、私は海へと駆けていくちぃちゃんを追い掛ける。
「サナ、あまり深い所に行かないようにね!」
「ちぃも気を付けなさい!」
「はーい!」
背中にママ達の声を受けながら私とちぃちゃんは海へと走った。
ミチ・・・、ブチブチ
海でちぃちゃんと思う存分遊んでいた時、その音はすぐ近くで鳴った。
何か糸が切れるような・・・
「さ、サナちゃん、水着がっ!」
「え?」
ギョッとしたちぃちゃんが私を指差して慌てながら言った。
自分の水着を見ると高校初めての夏休みだからと新調したビキニのトップスの紐が切れている。
「キャアッ!?」
胸とビキニを手で隠して私はしゃがみ込んだ、み、見られてないよね!?
よく見ると下の水着の紐もちぎれている、な、なんでぇ?
「さ、サナちゃん・・・、なんか、おかしいよ・・・」
「え、え?」
呆然と口を開けたちぃちゃんを私は見下ろした。
私も異変に気付く。
おかしい、私とちぃちゃんの身長は同じくらいだ、だからしゃがみこんだ私がちぃちゃんを見下ろすなんて変だ。
「ちぃちゃん、な、なんか小さくなってない?」
「ち、違うよ、サナちゃんが・・・」
その先は言葉にならなかった、みるみる内に水着は小さくなって行き私は裸に近い状態になる。
自分の体がどんどん大きくなっていく
「なにこれ? え? え?」
周囲も異変に気付いたのか視線が集まるのが解る
「なにあれ?」
「デカくなってね?」
「なんかの撮影?」
「あっ、やっ、嘘!」
「サナちゃん、海へ!!」
先に我に返ったちぃちゃんの言葉を聞いて私は慌てて海へと入る、その間も私の視点は高くなっていく。
「何これ・・・、ママ!パパ!助けて!」
「サナ!?」
隠す役割を果たさないビキニを離して、私は混乱しながら裸を隠す為に深い方へ、沖へと向かった。
漸く落ち着いた時には、私はビーチから50m程離れた所で呆然としていた。
ビーチ、海岸線に居る人達の視線は私に集まり、パパとママもまた呆然として私を見ていた。
身体の大きさは既に10mを超え、更に大きくなっていくのが分かる。
この日、私は巨人になった。




