第5話 【収納】スキル、熟練度9999その4
翌日――
ワシは朝一番に冒険者ギルドのエリーの元を訪ねた。
今日はギント水道遺跡に行ってみるつもりだったが、いつもの日課の荷運びのクエストも受けておこうと思ったのだ。
水道遺跡へ行く途中で届ければいい。
「あ、アッシュさん! おはようございます!」
「ほい、おはよう。済まんが、今日も荷運びのクエストを――」
「いいえ、それより大変なんです!」
「ほう? 何じゃ?」
「ギント水道遺跡に最近凶悪な魔物が出るとは言いましたよね?」
「うむ」
「その事を王都に報告したら、騎士団から調査隊がやって来たんです。それで、騎士様達が遺跡に向かわれたんですけど――」
「……帰って来んのか?」
「ええ。もう丸三日です。ですから、腕利きの冒険者に様子を見に行って貰おうと――バンゲルさん達にもお願いしましたけど……アッシュさんにもと思って! もちろん報酬は出ますから」
それは好都合。こちらとしてもありがたい話だった。
元々ギント水道遺跡には行こうと思っていたのだ。
「ほうほう。しかし、ワシなんぞに頼んでいいのかの?」
「昨日、バンゲルさんを捻じ伏せてたじゃないですか! 凄いステータスボーナスも見ましたし!」
「うんむ――腕利きだなどと見込まれるのは初めてじゃ、気分ええのう」
「人間、何歳でも成長するものなんですねえ」
「ホントにのう、コツコツ努力してきてよかったわい」
「いい冥途の土産になりますね!」
「止めろ縁起でもない! ワシゃあまだまだこのスキルの能力を堪能したいんじゃっ!」
「じゃあ、必ず無事に戻って下さいね? 十分気を付けて下さい」
「おうさ。では行って来るぞい!」
ワシは予定を変更し、ギント水道遺跡に直行をした。
遺跡への入り口は街中にいくつかあり、地下へと続いている。
元々はかつて滅んだ古代の街が備えていた下水道の設備である。
それが長い時を経て、ダンジョン化したものだ。
普段はそこまで強い魔物は出ないため、初心者冒険者が腕を磨くためにもいい場所だ。
思えばワシも、冒険者になって初めの頃は、ティナと2人でここによく通った。
あっという間に実力で追い抜かれて、茫然自失となったのも懐かしい思い出だ。
老人になってからは殆ど戦いからは身を引いていたが――
再び新鮮な気持ちで、この地下水道の入り口に立てるとは、嬉しい限りだ。
苔の生えた階段を下り、水音の流れる地下へ踏み込む。
すると早速、モンスターの姿を発見した。
水色の体が半透明に透き通った独特の外見をした、大トカゲである。
これが水に潜ると、殆ど同化してしまい、見つけるのが非常に困難。
噴き出す鉄砲水は強い酸を帯び、長く太い舌は任意に切り離しが出来るらしい。
下をぐるぐると得物に巻き付けて動きを封じて切り離し、仕留めてしまう捕食者だ。
「おや……アクアリザードか――!」
このギント水道遺跡では、最奥の方に少数のみ生息する魔物だ。
探しても見つからない事も多い。
珍しい存在な分、その強さは他とは一線を画している。
さすがにデスコカトリス程ではないが、低ランクの冒険者では荷が重い相手だ。
以前のワシならば、十回戦えば十回負けていただろう。
しかし今は――
ビシュウウッ!
ワシに向かって噴き出される酸の鉄砲水。
――見える! 余裕でかわせる!
ワシは身を沈めて水の軌道から外れつつ、ヤツに向けて地面を蹴った。
一足飛びに踏み込んで、斬る!
ダアァンッ!
だが地面を蹴る足音は、ワシの想像より遥かに大きい。
敏捷性があり過ぎるのだ。急激な上昇に感覚が追い付き切っていない。
だから、剣を抜いて斬る動作が間に合わず、ショルダータックルになってしまった。
「ありゃっ!?」
だが攻撃としては、それでも問題ない。
ドゴオオォォッ!
体をひしゃげさせながら吹き飛ぶアクアリザード。
壁に激突し更に体があらぬ方向に折れ曲がり、ズルズルと床に崩れ落ちた。
――一撃で仕留めた。これが今のワシだ。改めて信じられない程の変わりようである。
「ふふふ……自分が強過ぎて、感覚が追い付かんとはのう――何とも贅沢な悩みじゃ」
ワシはひとしきりニヤニヤした後、頭を振って正気に戻った。
「いかんいかん気を引き締めんとのう。しかし、こんな入り口にアクアリザードがおるとは、確かに何か変じゃの――」
アクアリザードの死体を回収。
これも、ある程度の値段でギルドで引き取ってもらえるだろう。
よし、と一つ頷いて、奥へ奥へと歩を進めて行く。
「おぅ、またアクアリザードか」
今度は二体が並んでいる。まだこちらには気づいていないようだ。
ならば――
「感覚が合わぬのなら……!」
剣を抜き、切っ先を突き出すように、脇に構えを取る。
「構えてから突撃すれば良し!」
これならば、このまま突っ込んでぶち当たれば済む!
ダダダダッ!
ワシは突きを構えたまま、全速力で敵に向かって走り込む。
ズシャアアアァァッ!
まとめて二体、アクアリザードの串刺しの出来上がり!
だがまだバタバタと、もがこうとしている。
「ふぅぅぅんっ!」
突き刺した剣を、そのまま力任せに振り抜いて、二体を完全に両断した。
二体分の死体は、忘れずに回収だ。
「うむ。どんどん行くぞ!」
下へと続く階段を降り、更に下の階層を目指して行く。
「……! またアクアリザードが――どういうことじゃ、こんなに発生しておるとは」
今度は四、五体いるか。
「ま、感覚に慣れるには丁度ええがの!」
先手必勝! ワシは遠距離から『ソニックブーム』の衝撃波を放つ!
ズガガガガガガッ!
地面を疾走する衝撃波の真後ろに隠れるようにして、後を追ってダッシュ。
衝撃波がアクアリザードの集団に飛び込む。
三体が巻き込まれ、ズタズタに引き裂かれて吹っ飛ぶ。
残り二! 駆け込みざまに、一体の首元に斬りつけ、断ち切った。
「よし!」
今は上手く駆け込みながら斬る事に成功した。
動きの速さに、段々慣れて来たか。
シュルン!
残り一体のアクアリザードが伸ばした透明な舌が、ワシの片足に巻き付く。
そのまま引きずり倒そうと、引っ張ってくるが――
「非力じゃ!」
逆に足を引き寄せて――
「でぇいっ!」
為す術も無く引き寄せられたアクアリザードを、一刀両断!
「――ふむ……こんなにもバッタバッタと、こいつらを狩れるとはのう……」
そう、これは戦いという次元ではない。
狩人と獲物の立場の揺らがない、一方的な狩りだ。
「ワシも強くなったもんじゃ、フフフ……!」
嬉し過ぎてニヤニヤが止まらないのだが!
己の強さに酔う! それがこの世で最も甘美なる美酒だろう。
ワシはニヤニヤしたまま、続く階段を降りて最下層へ。
そこには、見た事の無いモンスターがいた。
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