第45話 温泉郷と伝説の城14
「あ、哀れなもんじゃのう……」
流石にそろそろ止めようかと思い始めたが――
「「「お、おおおおおぉぉぉい! 止めてくれえええぇぇぇぇっ!」」」
「「「目が回るんだべえぇぇぇぇぇっ!」」」
「ドナあぁぁぁぁぁっ! 何とかならんのかああぁぁぁっ!?」
城騎士の城壁から顔を覗かせているドワーフの皆さんが、悲鳴を上げていた。
「……! アッシュくん、マルティナちゃん、そろそろ止めてやって欲しいだ。中にいる爺ちゃん達が目ぇ回しちまってるから……!」
「おお、いかんいかん……! ティナ、ドワーフの皆さんのおかげで聖剣を【収納】できたんじゃあ、ここはそろそろ止める事にするぞい?」
「仕方がないな。アッシュがそう言うなら。ドワーフ達には何の罪も無いしな」
「よーし、ストーップ! もうええぞい、ストップじゃあ!」
ワシの指示に応じて、城騎士が足を止める。
「「お、おお止まったべ……!?」」
「「た、助かったべ……!」」
「し、しかしホントに城騎士が坊主の命令を聞いとる……! 城騎士を手なづけるとは、すげえ坊主だな……!」
「皆さんのおかげですじゃあ! 上手く行きましたぞい!」
ワシはドワーフの皆さんに笑顔で手を振って応じる。
「ぜぇ~、ぜぇ~……ち、畜生折角これからシャバに出て楽しめると思ったのによ……! また地下に封印かよ……!」
悔しそうに蹲っている城騎士に、ワシは声をかける。
「いやあ、別に封印するとも言わんし、楽しむなとも言わんぞい? 人に迷惑を掛けるのはいかんがのう――まあティナも言っておったが、ワシ等は旅の途中でな。せっかくだから一緒に世界を巡ろうではないか? お前さんも楽しめるように、配慮はするからの?」
「ちっ……嫌だっつっても、俺はてめえの命令にゃ逆らえねえんだ、勝手にしやがれ!」
という事でワシは城騎士の『城主』となり、城騎士を動かして地上に出すことに成功した。
クフィーンの温泉郷の温泉が枯渇していた問題も無事解決、である。
そして――
「わははははは! すまんなあ、アッシュよ! 我等の棲家まで用意して貰ってなあ! 少し見ないうちに城騎士まで掘り出して従えているとは、流石だな!」
城騎士内部の大広間で、バーヴェル達ドラゴニュートとドワーフ達を交えて宴会が催されていた。
『城主』を得たワシとティナは城騎士を地上に出し、人目に付かない山中で待機をしつつバーヴェル達に連絡を取り、ここに呼んだのだった。
「なんのなんの。旅は道連れ世は情け、じゃよ。ワシとティナの二人ではこの城は広すぎるからのう」
これから城騎士を動かして北を目指すのだが、二人だけで使うには城騎士の内部は余りに広い。
バーヴェル達は静かに暮らせるところを探すと言っていた。
せっかくだからここに棲めばいいと思い、彼等を呼び寄せたのだ。
ここならば十分に二人の空間や時間も確保できるからと、ティナも反対はしなかった。
「ありがとっス! アッシュさん!」
「メシが美味いっス!」
「酒もっス!」
「おう飲め飲め! 儂等ドワーフの特製火酒だぞ! お近づきの証になあ!」
「うむ、こいつは旨いぞワードナ殿!」
ワードナ親方やドナ、それにドワーフの皆さんもこの城に住むそうだ。
ワシとしては聖剣を【収納】出来ているのは彼等のおかげでもあるし、反対する理由は無い。
バーヴェル達やドワーフ達を合わせてもまだまだ城は広く、部屋も余っている。
「お礼に俺達の鱗でも鍛冶の素材にして欲しいっス!」
「もうすぐ生え変わりの時期っス!」
「ドラゴニュートの鱗って竜鱗だべ?」
「おぉそいつはいい素材だべ!」
ドラゴニュート達とドワーフ達の相性は悪くないようで、和気あいあいとしていた。
「儂等はあっちこっち巡っては穴掘りばっかしてる根無し草よ。城騎士があっちこっち連れてってくれるなら、丁度いい足ってやつだわなぁ。暫く厄介になるぜ」
「自分達で移動しなくていいのって新鮮だべなあ! それに、地下ばっかり移動してたから、地上を見て回れるのも楽しそうだべ!」
ドナも顔を輝かせていた。
普段から明るい性格ではあるが、今は火酒のせいもあって、より解放的になっていた。
上気した頬や肌が、赤みを帯びて、何だか色っぽくもある。
「この城壁があってこれだけ用心棒がいりゃあ、魔物や何かが出ても安心だろうしな!」
「ほらほら、アッシュくんは飲まねえべか? 子供だから飲んじゃいけねえなんて固い事は言わねえべよ? ドワーフは子供の頃からこれ飲んでるだからなあ?」
「い、いやあワシは元々下戸でのう。一口で十分じゃわい」
「そうだべか……? 残念だべなあ、アッシュくんにお酌をしてあげたかったべが……んじゃあ、マルティナちゃんに――」
ごきゅっごきゅっごきゅっごきゅっ!
ドナの視線の先のティナは、他の者達が使っているコップの何倍もありそうな大杯を一気に飲み干そうとしていた。
「ふう……なかなか美味いな。ドワーフは鍛冶や細工だけでなく酒造りもいい腕をしているようだな!」
平然と笑顔を浮かべている。
「「おおおお~~~~っ!」」
「「すべえだべ、親方よりもつええかもだ!」」
「「きっとバーヴェル様でも敵わないっスよ!」」
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちっ!
皆から拍手。
「む、無理をしておらんか? ティナ、そんなに酒が強かったかのう……?」
ワシは昔から下戸だが、ワシの記憶の中のティナは多少は嗜んでいたものの、酒豪というようなものではなかったはずだ。
「だって寂しかったんだ! なかなかアッシュが迎えに来てくれないから、私は酒に溺れるしかなかったんだぞ……? 夜な夜な飲み続けていたら、いつの間にかこんなに酒に強くなってしまった!」
「そ、そうか……? そりゃあ済まんかったのう、ワシが悪かった」
ティナの言動はかなり昔のままなので時々忘れかけるが、やはり長い時間が経って、ワシの知らない面も増えているのだ。
ワシはティナに頭を下げて謝った。
「別に怒っているわけじゃないぞ? だが、責任を取ってくれるのか?」
「もちろんじゃあ、ワシに出来る事なら何でものう」
「うへへへ……じゃあ――ほら、私の膝に入ってくれアッシュ」
近寄って来たティナの膝の上に座らされる。
ワシの体は子供で、ティナは大人。
大人のお姉さんに甘えさせて貰っている子供の図である。
「これからは酒ではなくアッシュに溺れさせてくれよ? もう死んでも離れないぞ?」
後ろから熱烈に抱きしめられて、頬ずりされる。
ティナの全身の柔らかな感触が、背中からぐいぐいと押し付けられるのだ。
そしてティナの表情を窺おうと後ろを向こうとすると、大きな胸に顔が埋まってしまって見辛かった。
これはなかなか――よいものだった。極楽気分である。
「ははは、そうじゃのう。そう願いたいものじゃ」
「おうおう、仲睦まじい事だな」
「二人とも見た目通りのトシじゃねえってんだろ? 60年ぶりに再会してって、なかなか泣かせる話じゃねえか……! で、これから城騎士に乗ってどこへ行くんだ、お二人さんよう?」
「取り合えず、北に向かいますんじゃ」
ワシとティナを若返らせてくれている『生命の宝珠』。
その情報を得るために北方のダークエルフの集落を目指すのだ。
「このクフィーン温泉郷から北に行けば、ラーシア王国からアヴァロン法皇国に入る。法皇国の大聖堂を貸し切って、私とアッシュの結婚式を挙げよう!」
「ほう……!」
「お、いいじゃねえか……!」
「わぁ、見てみたいだ! きっととってもキレイだべ、マルティナちゃん!」
「「そいつはいいべな!」」
「「いいっスね!」」
バーヴェルやドナや皆は盛り上がっているようだ。
「おいおいティナ、聞いておらんのじゃが……?」
「今思いついたからな! 旅の良さはそういう所だろう?」
とても可愛らしい笑顔だ。
「まあ、そうじゃのう」
頷いてしまうワシもワシかも知れないが、もうワシ等には何の気兼ねも無いのだ。
行きたい所に行き、好きな事をすればいい。
多少の寄り道も、それはそれで構わないだろう。
「では、ティナの花嫁姿を楽しみにしておくぞい?」
「うんっ!」
ティナは満面の笑顔で頷いていた。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
途中長く開いてしまいましたが、キリがいい所まで書けましたので、いったんここで完結とさせて頂きます。
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