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第40話 温泉郷と伝説の城9

 ヒイィィンッ! ヒイィィンッ! ヒイィィンッ! ヒイィィンッ!


 乱れ飛ぶ聖剣波動が、次々とオーガの石像を粉々に砕いて行く。


「す、すごいだべ、マルティナちゃん……! アッシュくんといい、とんでもない人達だべなあ……!」

「しかしこのままでは、逆に作戦が無茶苦茶になりかねんぞい……! ここはティナに任せて、ワシらは行くとしよう!」


 城騎士を完全に破壊して撃破するつもりは無いのだ。

 やはり勇者の遺物。歴史のロマン。

 ワシも見た目は子供で中身はジジイ。

 ジジイ的思考では、古いものはありがたく、大切にしなければならない


「う、うん……行くべ! 爺ちゃんたちを助けてやらねぇと!」

「では、『土遁』っ!」


 ワシとドナは再び地中に潜る。

 そして姿を隠しながら、城騎士のほうへ近づいていく。


「うおおおぉぉぉぉっ!? やべえぇぇぇぇ! 何だあいつ! おい近づくんじゃねえ! このこのこのこのこのっ!」


 暴れ回るティナにビビった城騎士は、自分の体の中から次々にオーガの石像を取り出して、ティナのほうに投げつけ続けている。


 完全に気は逸れていた。

 ワシとドナは城騎士が湯船のように浸かっている所の縁まで地中を移動する。


「よし、一気に侵入するぞい……!」

「うんだ……!」


 声を潜めて、頷き合う。

 そして飛び出しつつ、城の窓から内部に侵入した。


 中は艶のある石材で、装飾も華美ではないが落ち着いた雰囲気だ。

 うっすらと生えている蔦も、それを引き立てているだろうか。

 城騎士の言動とはまるで噛み合わない感じではある。


「ほうほう。中々落ち着いた感じの……案外いい所じゃのう」


 ジジイ好み、と言った所だろう。


「アッシュくん、こっちだべ……!」


 ドナがワシを先導して、道案内をしてくれる。

 目指すは、ドナの仲間のドワーフ達の所!

 なのだが――


 ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!


 進んでいる廊下に生えていた蔦が、意志を持ったかのように動き出す。


「! ひゃああぁぁっ!?」


 先を走っていたドナが腕や腰や脚を搦め捕られて、宙吊りになってしまう。


「ほう……!? 蔦がひとりでに動くのかのっ!」

「ま、守りの蔦だべ、アッシュくん……! 気を付けてっ!」


 守りの蔦は無論、ワシのほうにも伸びて来る。

 だが――


「大丈夫じゃ! 『百烈突き』!」


 ズドドドドドドドドドドドドドッ!


 『黒竜鱗の大剣』による目にも止まらぬ連続突きが、向かって来る蔦を吹き飛ばす。


「ひ、ひええぇぇぇ~! まるで太刀筋が見えねえ……! す、すげえだ!」


 ドナが目を丸くしていた。

 そしてワシは続いて、ドナを搦め取っていた蔦も斬り捨てる。


「大丈夫かの? ドナ?」

「あ、ああ大丈夫だべ……そうか、完全に敵と見做されてるから、守りの蔦が反応するんだべな」

「ふうむ。中々便利な衛兵代わりという事じゃなあ」

「けど厄介だべ! ほら、またすぐ元に戻ってこっち向かって来ようとするだ……!」


 ドナが指差す先で、ワシが斬り捨てた蔦が見る見るうちに再生して行く。


「うむ。ならば捕まらんように、素早く駆け抜けるのみじゃな! ドナ、ワシにおぶさるんじゃあ!」

「わ、わかったべ……!」


 ドナを背負うと、ティナ以上にとてもよく育ったそれが、ワシの背中でむぎゅっと。

 あまり気にしないように、ワシはダッシュを開始する。


「道案内は頼むぞ、ドナ!」

「うんだ……! ここは付きあたりまでまっすぐだ!」

「よし……!」


 蔦も速度を上げて追いかけて来るが、ワシは床を蹴り壁を蹴り、複雑に角度を変えながら進む。それに惑わされ、蔦はワシ達を捕まえられない。


 斬り捨てる事も出来るだろうが、別にここを破壊しに来たわけではない。

 むしろこちらが世話になるかも知れんわけで、ここは穏便に。


「うひゃあああぁぁっ!? アッシュくんは足もとんでもなく早えぇぇだなあっ!?」

「それなりに鍛えておるからのう!」

「おらなんか道案内だけでも足引っ張って、ホントごめんだべ……爺ちゃんたちにも、おめえは胸以外なんも立派にならねえって、いつも叱られるべ……」

「いやあ、それはそれで、価値のある事とは思うがのお……」


 この迫力も弾力も満点のこれは、ある意味では至宝といえるだろう。

 ドワーフの美的感覚は分からないが、ドナは人間の目で見れば間違いなく美少女だろうし、その価値はより一層高まる。


「ふえ? そうだべか?」


 正直ワシもこうしていると気になりはするが、それは言ってはならぬ事だろう。

 身の危険があるとまずい。ワシではなく、ドナに。


「い、いや……それよりも、ドナは自分に力が無いと分かっていながらも、危険を承知で郷の人間達のために地上まで行ったのじゃろう? 見ず知らずの人間のためにそれが出来るのは、なかなかおらんと思うぞい? 逆に力が無いからこそ、行動に移すのは力のある人間よりも沢山の勇気が必要じゃ。それはドナの立派な所じゃと、ワシは思うがの?」

「アッシュくんは優しいだなぁ。おらの事励ましてくれるだべか?」

「励ますというかの、力なんぞいつ湧いてくるか分からんものなのじゃよ。かくいうワシも、つい最近まで何の力も無かったんじゃあ。ドナの気持ちはよう分かるぞい」

「そ、そうなんだべか……? とても信じられねえだべが……」

「ワシから言えるただ一つの事は、人生何があるか分からんから、腐っちゃいかんという事じゃあ。そういう意味でドナは腐っておらんからな、とってもいい子じゃあ。ワシは事実を言っただけに過ぎんぞい?」

「アッシュくん……」

「腐っておらんドナには、喜んで力を貸すぞい? ワシもティナがいてくれねばどう腐ったか分からん。世の中お互い様じゃよ? ワシの力はドナの力、遠慮なく頼るがええ」

「う、うんだアッシュくん――何だかアッシュくんは子供なのに、すっげえオトナだべ。話してると安心するだ……!」

「ほっほ。それはまだちと早いのう、ドナの仲間たちを助けて、城騎士を何とかしてようやく一安心じゃあ。さあ、次の道はどっちかの!?」

「左手の階段だべ! んで、降りて右行って二つ目の角を右!」

「ようし……!」


 ワシはドナに導かれて、巨大な扉の前に到達した。

 締め切られた鉄の扉の前には――


「おお……! こいつは、一際でっかいオーガの石像じゃなあ」


 角の数、背丈、腕や足の太さ。

 全てが他の石の巨人の数倍はありそうだ。

 見るからに、他から頭一つ抜けて強そうである。


「んだ……! あれが最強のガーディアンだべ……! 爺ちゃん達が逃げられないように見張ってんだべ」

「じゃあ動くという事じゃな……!?」

「か、勝てるべな!? アッシュくんなら……!」

「おう! 任せておくのじゃあ!」


 だが――


 ガガガガガガガガッ! ゴリゴリゴリゴリッ!


 横手から何か巨大な手のようなものが飛び出て来て、ボス石像を鷲掴みにした。

 そのまま扉の前から消え去って行くボス石像。

 遠くの屋外から、悲鳴のような声が聞こえて来る。


「あんぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? ち、ちちくしょうがああぁぁぁぁっ! こうなったら、一番デカいデクの坊を投入してやらぁぁぁっ! おら行けええぇぇぇぇえっ!」


 どうやら城騎士がここのボス石像も対ティナ用に使ってしまったらしい。

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